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宗盛記  作者: 常磐林蔵
第3章 伊豆守、受領

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99/107

宗盛記0094 永暦二年六月 青墓宿

通正…関連を訂正しました。

誠に申し訳ありません。

フライングです。

もうちょっとしたら出てきます。

m(_ _;)m


永暦二年六月水無月


ワタの花が咲いた。黄色のハイビスカスみたいな花。水はやりすぎても足らなくてもだめみたいだ。根腐れしない程度に多め。

毛虫が来ているというが、管理を任せている農家がちゃんと取ってくれている。

毒のない毛虫はそのまま熱湯で処理して鶏の餌にしている。


あわせて鶏糞の効果が出てきた。使った畑で大豆の育ちが明らかに違う。そらそうだ。今までは肥料自体が落ち葉や雑草の堆肥がせいぜい。所によって人糞使い始めた頃である。ちなみに伊豆では直接食べる野菜には病気になるからと人糞の使用は禁止している。

生野菜食べないからそれ程問題でもないんだけど。

むしろ農民保護のためである。


最近の伊豆は塩景気で食料輸入が可能になってる。狩野、北条、天野が羨んでるところだ。

だから政子ちゃんに蹴られたりする。


鶏舎の周りの農民が手のひらを返した。臭い?全く気にならないと言う。鶏糞譲ってくれとうるさい。21世紀にも大量に使われる鶏糞は、実際人糞などより遥かに効果的なのだ。植物に必要なのは有機物ではない。それは光合成で作れる。三大栄養素は硝酸化窒素とリン酸とカリウムだ。鳥類はカリウムの排泄量が哺乳類と比べて相当多い。人糞なんて肥料としてはよりカリウムの多い草食動物の糞にも劣る。硝酸化するまで時間も掛かる。ただ大量に出るので手に入れやすいだけだ。

もちろん鶏糞の配布は有料である。周辺で減税した分はここで取り返す。そろそろ鶏舎に交替の見張りが要るな。


購入と繁殖の結果羽数が増えてくると、喧嘩で怪我して死ぬ鶏とか出でくる。そうでなくても産卵効率の下がった老廃鶏は明らかに病死でなければ美味しくいただく予定なんだが。病死の場合は休耕地に埋める。

東国は元々狩が盛んで殺生や肉食への抵抗が少ないしな。膳所ぜんどころも料理の手順を心得ている。

メガホンに枠を付け、首を切った鶏をひっくり返して差し込むと、死後の痙攣と硬直でいい感じに血抜きができる。吊るすよりも手間がかからないので、農学部の鶏舎でやっていたやり方だ。それを見て膳所の皆が感心している。警戒心の強かった各部門の中でも、最も早く馴染んだのがここ。宴で相当こき使ったんだが、なぜかキラキラした目で見てくるようになったので…ちょっと引く。

久しぶり?初めて?の鶏はとても美味かった。試食も兼ねて膳所の皆と食べた。一羽は醤油ダレで焼き鳥と唐揚げ、もう一羽は鶏鍋にしたら、是行たちにも大好評だった。腿肉は骨付鳥にする。骨や鶏冠とさか蹴爪けづめはスープの出汁になった。醤油ベースで大根とか芋とか煮込むととても美味しい。おじやも作った。久しぶり。これはいいモノだ。卵も羽根も糞までも使える。

三嶋の名産にできないかな。


官衙で、年末に俺が帰郷したあとの課題を提出してくれ、と言ったら皆が青ざめている?二年で帰ると言ってあったよな?まぁ、時々見に来ると言っておいた。肉と魚と温泉補給に。


土産と献上用の焼き物と漆器が揃ったのでねぎらう。宴から時間がなかったので苦労させたが、三組仕上がった。堆漆はやはり手間暇が段違いだな。これは流石にほいほい配れない。

夏なんで扇風機も五つ程持って帰ろう。


伊東祐親が、ケーソンを隣接して落とすのが難しいと言うので、隙間が空いてもいいと答えておく。設置の後で捨石するまで時間がかかるので、多少力が逃げるからむしろそのほうがいいかも。多少の隙間なら普通に跳んで行けるし、何なら渡り板渡してもいいし。


清子からの手紙。正子姉上が結婚されて、藤原信隆殿が東泉殿に入られたらしい。四郎は追い出されて二棟廊で暮らしているとか。正直、我家も手狭だよなぁ。俺も帰ったら二棟廊か…。


替え馬の手配を依頼。と合わせて清子に手紙を書く。

六月二十五日に出で、七月初めに帰ります。一緒に七夕デート)です。

牽牛織女みたいだね。と。


狩野茂光、北条時政、天野遠景が、帰京のお供をしたいと言い出したが丁寧にお断りする。家人でもない官人を勝手に連れていけないと。悩んどる悩んどる。判断が遅れるほど伊東との差がつくぞ。



定例の冷川峠視察。北側の峰への階段が概ねできたので登ってみる。伊東の郷から相模湾が見渡せる。

西側も山で隠れていない所は北条辺りまで見える。満足。ここの山頂を削って少し平らにしてもらう。監視所になる予定。


ここまで来て伊東に寄らないのも何なので、港の視察。ケーソンが二組、六つ並んでいる。問題なく進んでいるようだ。あと五、六組作ればかなり波が防げるな。

台風シーズンまでになんとか増やしたい。


宇佐美ではツユクサの汁を染み込ませた紙、青花紙が溜まってきた。染にと思ったが、この辺だと藍染しかできない。これは都で職人探すしかないか。


クチナシの花が咲いているので、又も子どもたちに集めてもらう。アルコールで抽出してみたが、香料としてはうまくいかない。土産にしたかったんだけどな。これはボツ。



三嶋に帰って帰省の準備。



二十四日

土肥実平が着いた。畠山重能殿と、那須資隆殿が同行すると言う。騎射の時の報奨か。これは心強い。今回は総勢十二騎二十三人できたので、ウチからの八人を加えて三十一人となった。是行、秀次、景経は、基本自分一人でなんでもする癖がついているので、雑仕は要らない。



駿河国府、遠江国府、三河国府、尾張国府と泊まって、二十九日の夕方美濃国府の手前に着いた。美濃国府は大垣の西、南宮大社のちょっと北だ。関ヶ原の盆地に入るすぐ手前だ。美濃国府ってこんな所にあったのか。一国の西端。都には一番近い。

今回は初めての不破関回りの旅だ。確かに道が平で進み易いが、濃尾三川越えはめんどくさかった。大河の上に流れが激しく、高さも違うので個々に渡るしかない。

美濃国府に伝手がなかったので、東隣の青墓宿で泊まる。東山道の駅路で、今では大歓楽街でもある。


宿しゅくの手前で全員馬から降りて曳く。これは割と普通の作法だ。人通りの多い所で馬上で進むのは都か自分の領地位のものだ。

青墓宿に入ってすぐ、畠山重能殿、那須資隆殿と秀次が体を少し強張らせた。臨戦態勢。次いで実平、是行も。


重能殿が言う。

「これは…かなりの数に見られておりますな」

もちろん武士の一団が通るのだ。見られるのは当たり前。それを重能殿がわざわざ言ったのは、視線の種類が違ったからだろう。敵意…ではない。何一つ見落とさないという監視の目だ。それも全周囲。男も女も家の中からも。しっかり見つめてくるのではなく、でもこちらを注視しているのがわかる。

「御一行、宿はお決まりですか?」

何人か寄ってきた明らかに遊女らしい女から声を掛けられる。

「急ぎなんで残念だけど遊んでいく時間は無いんだ。そこそこ払ってもいいから、厩があってまとめて泊まれる宿を教えて欲しいんだが」

と応えると、

「では私がご案内します」

と、近くにいた男が答えた。気配が薄い。直垂姿だが、袴の裾はくくって脛巾はばきをつけ、折烏帽子ではなく頬かむりしている。

庶民の風体だが歩き方が独特だ。踵に体重が乗っていない。その割に腰は低く体幹が揺れない。膝に力が溜まっている。

「皆さんどちらからおいでで?」

視線は俺を向いている。俺だけ立烏帽子だから分かるか。

「昨日は尾張の一宮だよ」

「これだけの人数だと宿にお困りになりませんでしたか?」

真清田ますみだ神社に伝手があって泊めて貰ったんだ」

滑らかに嘘がつけるようになったなぁ。

「それはよろしゅうございましたな」

全員気を張っている。向こうも察しているだろうに、何も言ってこない。

一件のかなり立派な造りの宿に案内された。宿か?一町四方はあるかも。屋敷かもしれない。

脚を洗って東側の対の屋の部屋に上がると、案内の男に連れられて、是行が泊まりの手続きをしに行ってくれる。無論、山田是行の名前でとってくれるだろう。

「これは…恐ろしい街ですな」

「知っていると思うが、河内源氏に縁の深い宿だ。為義、義朝のしょうの一人がここの遊女だったと聞く。悪いが遊ぶのは控えてくれ」

皆が頷く。どんな面倒に巻き込まれるかわからないのだ。遊ぶ気にもなれない。

重能殿の家人に、この宿に来たことがあるとあるという者が居た。

「たしか…長者の大炊兼遠殿の屋敷であったかと」

妻戸を叩く音がする。

「お客様」

俺が出ようとしたが、資隆殿が制して、代わって出てくれる。

「何か用か?」

「主人がご挨拶致したいとのことで」

資高殿が目で聞いてくるので頷く。

「では伺おう」

資隆殿、重能殿、秀次、景経と俺で挨拶に向かうことにする。実平には残って備えてもらう。何かあったら屋内戦である。

渡殿を渡って寝殿に向かう時に、揉める声が聞こえる。

「聞いておりません!その様な無体、お断りします!」御簾の中から女性が走り出てきて…すぐに男達に取り押さえられる。

「はなして!はなしてください!」

「ご無礼をば」

男の一人がこちらに頭を下げるが、女は抵抗している。

「どういうことかな?」

と俺が尋ねたが、秀次が頭を振る。見過ごせと言うことらしい。

「お客様には関わりのないことで」

急に圧が上がった。男達は腰に短刀を差している。

「宿を変えるか。いざとなれば南宮神社に頼んでもいい」

「遊女になった女が受け入れられずに暴れておりまして。それだけでございます」

「違う!違うのです!知らない間に売られて!お助けください!」

重能殿も資隆殿も頭を振る。見過ごせと言うことだ。その中で景経だけが溜息をつきながら、

「…話を聞きますよね。三郎様なら」

と言う。さすが乳母子。

「一緒にここの主人と話がしたい」

「余計なことに首を突っ込むとケガをなさりますよ?」

「それまでにそちらもかなりの数を失うぞ?お前一人で決めていいのか?」

「ちっ!」

小さく舌打ちして男の一人が寝殿の中に消えた。

押さえつけられた女がもがく。

「手を緩めてやってくれ、どうせ逃げてもすぐに捕らえられるんだろう?」

「ふんっ」

身柄を放たれた女がこちらに走り寄ってくる。

三十路を過ぎた辺りかな。地味な感じの女性だ。袿だが懸守を掛けている。暴れる内に壺装束の括り紐が解けたかな。重能殿と資隆殿が女を庇う。

しばらく睨み合っていたが、男が帰ってきた。

「こちらに」

案内されて庇から母屋に上がる。女も一緒だ。

塗籠に几帳が掛かっている。男達を呼んだのだろう。十数人の男達が控えている。是行も居るが戸惑っている。すまんなぁ。

「こちらがご挨拶致したいと言うのに、いきなり揉め事とは失礼でありましょう」

女の声だ。少し歳がいっているか、落ち着いた口調。

「悪いね。助けてくれと言われれば、話くらいは聞かないと目覚めが悪くて」

「二度とお目覚めになれないかもしれませんよ?」

声が低くなる。

「その時はこの宿場全てが道連れだな」

「…お名前をお聞きしても?」

「伊豆守、平宗盛と言う」

「ぁ…く…伊豆…まさか」

凄いな、辺りが一瞬で殺気につつまれた。こちらの皆も、刀の柄に手を掛けている。宿の者も皆、短刀の柄を握っている。屋内では不利だな。庭に飛び出るしかない。

「名乗ったぞ?」

「…この宿しゅくの長者、大炊の延寿と申します」

「義朝殿の縁者か?」

「妻にござりまする」

「お悔み申し上げる」

さらに殺気が膨らむ。が、武家のことである。誰かが抜けば殺し合うだけだ。

「それであなたは?」

売られたという女性に尋ねる。

「近江の官人、箕浦隆明の妻、波路と申します」

話を聞くと、夫が死んで独り身になって、子供もいないので出家を考えていたのが、長く仕えていた雇い人に相談したところ、寺に伝手があるからと美濃まで連れてこられて、実は身売りされていたとのことだ。この時代にはままある話。

「とは言えこちらにも証文があります」

長者、延寿と言ったか、が返す。逗子王はどこだ?

「見せてもらっても?」

「こちらに」

確かめると、自分の身柄を預けるので今後よろしく頼む、との証文だ。本人の名もある。これではかなり不利。

「値が書いてないが」

「別にこちらが。米八石。歳相応の値です」

確かにこのままでは身売りが成り立ってしまう。証文が別になっているから訴訟になると揉めるだろうが、土地の有力者ならまず黙認される。そもそも訴え出るのが難しかろう。

「俺に売ってくれないか?」

「三郎様!」「殿!」「お待ちを!」

みんな大反対モード。うん、厄介事を引き受ける必要はないよな。

「俺はきっとこのことを言いふらす。この宿しゅくのためにも良くないだろう?八石だそう」

「…こういう時は十六石でしょう」

「証文の改めと調査を俺の名で国衙に申し出るのもありか。十石」

「長引いても人手は欲しいんですよ。十四石」

「東海道の治安をうちが担うことになったらここも大変だろうなぁ。十一石」

「あんまり女の値を値切るもんじゃありませんよ。十二石」

「そう言われては仕方ないな。尾張の国衙に話を付けておくから、受け取りはそちらで頼む」

その旨、書類にしたためる。

「ではこちらを」

証文が渡される。

「じゃ、今夜の宿はお願いする。このひとの分もね」

「いい度胸をしておられること」

見栄だよ。かなりビビってる。

「お時間がありましたら、一席設けますが?」

「それは嬉しいなぁ。噂の傀儡くぐつの芸が見たかった」

「ホント、食えない坊やだこと」


青墓は傀儡子くぐつしの集う街としても有名な街だ。当然情報収集に長けているだろう。軍事には有用な人材だ。後の時代に一部が忍者になる。


他の者も皆呼ばれて、食事になった。庭で傀儡の芸が披露された。宿に案内してくれた男も、先程報せに行った男も居る。

玉回し、ジャグリング、肩車、人形遣い、綱渡りと続いて、短剣投げ。

白拍子の格好をした女の周囲に、短剣が突き立っていく。惜しまず拍手した。芸人たちはにこりともしない。そもそも拍手するのは俺だけだから、そんな習慣もないんだろう。喜んでいるのは伝わったと思う。

「どうです?的にお立ちになってみますか?」

と延寿。

「滅多にないからな。間近で見せてもらおうか」

俺が代わる。皆が止めるが、本気で殺す気ならもう死んでいる。距離は一段(約11m)程。

一本目。右耳をかすめて板に刺さる。

二本目、左耳。

三本目。頭頂をめがけて短剣が投げられた。これは…烏帽子…もとどりを狙ったか。

バシッ!

山なりに回転する柄を捉えるのはそれなりに難しかった。が、矢に比べればはるかに遅い。

「…あ…」

「こちらも芸の一つも見せないと盛り上がらないだろう」

「くっ!」

投げた傀儡子が凄い目で睨んでくるが、独断で殺すつもりはないのはわかっている。

「ここをいち早くに抑えているか。河内源氏の凄みだな」

投げ刀、いいなぁ。ガメていこう。

たくさん払ったしいいよね。

その夜は六交代で不寝番を立てた。

申し訳ないが波路さんも同じ部屋だ。几帳で囲っては貰ったが。


++

「夜のうちなら始末できますが」

「そうすると、本当にこの宿場は無くなるだろうねぇ」

「義朝様の仇の子ですよ?」

「義平様のことも聞いてるだろう…礼を尽くされたのに、あだでは返せないよ」

「…お嬢がそうおっしゃるのなら」

++


三十日

女…波路さんが聞いてくる。

「私は…あなたに買われたのですか?」

「買ったのは証文だ。揉め事にならないと分かったらもう要らないものだから、そちらで焼いてしまってくれ」

証文を渡す。訴訟になったら証拠になるから、数カ月は持っておいたほうがいいかな。

「これからどうしたらいいか…」

「近江まで送っていくよ」

同行者が増えた。

実平の雑仕に、米十二石の支払いを頼む手紙を書いて、尾張の目代に渡してくれるように、使いを頼む。


夏越なんで南宮大社に立ち寄る。

ここも前世に来たことがある。千茅の輪を潜ってから久しぶり?のご挨拶。

厄落とし。

「どうか暗殺されませんように」



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― 新着の感想 ―
いつも更新ありがとうございます。 今回の話も大変楽しく拝読いたしました。 作中の以下の表現について、ご指摘させていただきます。 >自分の身柄を預けるので今後よろしく頼むたのむ、との証文だ 「たのむ」…
中原兼遠イコール大炊兼遠と考えてました。 以下GoogleのAIによる回答 大炊兼遠(おおいのかねとお)は、平安末期から鎌倉初期に信濃国木曽地方を本拠とした豪族で、源義仲(木曽義仲)を幼少期に匿い…
青墓宿の話をここで出してくるとは驚きました。 普通なら素通りしますが、いい度胸しているな宗盛さん。 悪源太義平の話をここつなげるんですね。 河内源氏が傀儡を抑えたという記述がありますが、源義朝の行動を…
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