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宗盛記  作者: 常磐林蔵
第2章 蔵人、婚約、平治の乱

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宗盛記0031 保元二年四月

保元二年四月弥生


出仕を控えて最低限のお作法チェックが厳しくなった。ほとんどそっちに時間が取られて、物を作ったり、稽古をする時間がなかなか取れない。それでも今のうちにどうしても用意したいものがあった。


手に入れた焼き物用の粘土を半乾きにして歯に押し当てる。ニュルっとして変な味だが我慢。これを凹型にして張子用に作った胡粉と和紙の重ね塗りで凸型をとる。これに糊を使って紙を貼り重ねて、秀次に頼んでなんとか手に入れた黒漆を塗っていく。

漆は一日に0.03mmしか塗れない。これより厚塗すると乾き切らないでシワができるのだ。なので毎日一回ずつ薄塗りする。筆や普通の刷毛は固まってしまうので、素人の俺は漆刷毛を使わずに竹の薄板製のヘラの先に少しだけ付けて塗る。皮膚に付くと猛然とかぶれるので、ハラハラする。ちょっとかぶれました。すぐに湯で洗ったのだが、水疱ができてとても痒い。

漆が乾くというのは、実は漆の樹液の成分のウルシオールが周囲の水分子と重合することだ。湿度が高くないと乾かない。庭の隅に割竹と油紙と土で小さなむろを作って火鉢と鉄瓶で湯を沸かしながら漆を「乾かす」。蒸風呂がいいかと思ったんだが、ずっと沸かしてるわけじゃないし。

紙をたいに使うやり方は張子や乾漆かんしつに近い。一閑張いっかんばりと言ってもいい。



作法訓練の合間に着せ替え人形の時間が入る。もちろん人形役は俺。

例えば着るものにしても、これまでは多くは半尻はんじり、時忠邸に行く時とかちょっとおしゃれして童直衣わらわのうしというものだった。半尻は狩衣の子供用、童直衣は大人用の直衣を小さくしたものだが、子供用で柔らかくて絹織なので着心地もいい。闕腋袍けってきのほうで、脇を縫ってないので動きやすい。色はたいてい白。多分兄上達の使いまわし。


ところが出仕となると正装が必要となる。文官束帯である。

まず小袖。これは下着なんで入浴時以外は着ている。

下は大口袴おおぐちばかまを履く。ふんどしは無いのでパンツ無しにパジャマのズボンを穿く感じ。

次に腰下までの丈のひとえを着る。名前は同じだが、身丈より長い女性用の単とは違う衣。

そうしてあこめという単よりやや大きめの上着を着て表袴おもてばかまを履く。つまり二枚重ねて袴を履くのだ。社会の窓はないので、足首側から専用の竹筒を突っ込んで用を足す。誰も見てないけど割とカッコ悪い。急いでいるときは難易度が高い。引き抜く時油断すると悲惨である。

さらに下襲したがさねと言う上着を着る。これは前は膝上までだが後は長くて引きずる。位が高いほど長く、極端な場合一丈(3m)程もある。俺のでも三尺は引きずる。宮中の床はさぞ綺麗だろう。ルンバ気分。

下襲は季節の色を選ぶ。女性の単と同じく、男性も下襲の色目がオシャレポイントである。夏なんで、松襲まつがさね(表地が青味がかった緑、裏地が紫)とかである。

そうしてから一番上に縫腋袍ほうえきのほうを着る。首には丸襟がつく。

俺の場合は就位しゅういがおそらく五位からとなるそうなので、色は『深緋ふかひ』である。前世的な色彩感覚だと真っ赤。茜で深染めする。

ややこしいことにこの時代、色名は染色の色でもあり、袍の『赤』というと赤白橡あかしろつるばみ色、赤に少しグレーを混ぜたような彩度の低い赤だ。ほとんど濃い目の肌色、もしくはベージュ。これは禁色で、上皇様専用の色となる。


小袖以外の衣は厚地の布に糊を効かせまくってゴワゴワ。強装束こわしょうぞくという。シルエットがくっきりしていいらしい。もちろん着心地は全くよろしくない。

これにしゃく石帯せきたい魚袋ぎょたいなんかのアクセサリを着けて浅沓あさぐつを履いて冠を被れば完成である。


出仕時は冠、退出後は立烏帽子が普通。

どこが違うかというと、縦長の袋を縦にして頭に被ったようなのが立烏帽子、丸い缶をひっくり返して後ろに位牌みたいな形の袋(巾子)を着け、その後に幅広のリボン(えい)が二枚ついているのが冠である。ぱっと見はリボン、もとい、纓で見分けるといい。

立烏帽子を被るのは、五位以上と、六位蔵人。それ以下の位になると、烏帽子の頂部を折りたたんだ折烏帽子を被る。

冠の巾子こじ(冠のもとどりを入れる袋状の部分)にはこうがいというかんざしを一本刺すが、これは強装束になってから。それまでは左右から二本刺していた。絵とか見た時これで萎装束なえしょうぞくか強装束かがわかる。

恵比寿さんの被っているのが烏帽子、祭の日に神主さんの被ってるのが冠、でもいい。大黒さんは頭巾。どっちも黒。冠は漆で固めて不透明だが、烏帽子は薄い布に漆を塗ってありちょっと中の髻が透けて見えてる。ちなみに元服したら、寝室以外で剥き出しの髻を見られるのはパンイチで歩くほどの恥辱らしい。まぁ、この茶筅髷もどきはバカ殿みたいではある。

俺からしたらバカバカしい話なんだが、普通は俺のほうがバカと思われてるので諦めるしかない。


いろいろ官位や許可によってしていい服装、色や模様が決まる。まぁ、子供の俺はその辺全部女房任せです。

俺はこういう堅苦しいのが嫌で、今までは足首丈で裾を絞れる指貫さしぬきを穿いて、裾の短い童直衣か半尻で袖も絞っていた。というか馬に乗るならその格好になった。

それにしてもこれを毎日着て働きにいくのか。許されないけど家人や雑仕の着る直垂ひたたれ楽そうでいいなぁ。



賀茂祭に行くので時忠殿の所の姫君を誘おうかと思ったが、人目が煩いし、元服したのでもう一緒の車に乗れないのである。別の車で行くと一緒に映画に行って遠く離れて座ってる感じ。祭の行列を見ても直接話せないと楽しく無いよ。なんか色々面倒くさくなる。ホントは屋敷に通うのも良くないんだろうなぁ。色々言われてないといいけど。

結局今年の賀茂祭は四郎と行った。



それでも会いたいものは会いたい。

棘を落とした野薔薇と躑躅の花束と苺襲を持って、時忠殿の屋敷に向かう。

行くと急に出仕が決まったとかで、滋子姫の姿がない。帝の姉の統子内親王様にお仕えすることになったとか。憧れてた親戚のお姉さんが大学に行っちゃった気分。つらい。あのとっても美しい姫とは、もう滅多に会えないんだ。こういうときは信子姫に慰めてほしいです。たゆんたゆん。



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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! お歯黒には虫歯予防の効果もあったとされてまして…まあタンニン鉄の膜で保護するわけですから。
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