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宗盛記  作者: 常磐林蔵
第1章 覚醒、保元の乱

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宗盛記0025 保元元年十月

保元元年十月神無月


三の君と四の君に手を取られる母上にあんまり構ってもらえなくなった四郎は、基本俺についてくる。四郎にとっては昼飯食わしてくれて遊んでくれる兄、なんだろうな。このまま兄弟が増えて後をゾロゾロ着いてくると怖い。

まぁ母上が俺にかまってくれるのも、最近は面白そうな時だけだしな。やはりあの姉妹の長女だけある。四郎もそのうち自分のやりたいことを見つけるか。

四郎は、手習いの間はお付きの女房から読み書きを習い、稽古の間は子供用の半弓を引いて、近づけた的だがそこそこ当てている。

暫く藁束射っていた俺に比べて、五つなのに才能の違いを感じる。

半弓と言っても六尺三寸。そんなのあったんだ。俺の使ってるのが七尺で、一番短いと言ってたのに。ちなみに標準は七尺三寸。長めのものでも七尺五寸。それにしても、半弓で六尺三寸って、なんのメリットがあるんだろう。せめて携帯しやすい三尺位の弓があったらいいとか思わなかったのか。


俺の稽古は弓は普通に的射ち。それ以外の柔軟、受け身、走り込み、矢避けや素振り、型もこなして、新たに馬上での太刀打ちに入っていた。

刀も馬も今まではそれほど苦労はしてこなかったが、これは難しい。まず抜くのがそれなりに大変なのだ。

太刀は普通の時は下に刃が向いて吊るしてあり、抜く時は左手でやや外側に刃を向け、下から切り上げる様に抜く。馬上ではその抜き方では当然抜けない。馬の首があるからだ。気をつけないと馬を傷つけかねない。そんなことになったら暴れた馬に振り落とされるだろう。

もう一つは手綱。離すわけにはいかないから、手綱を左手で持ったまま鞘を持たないといけない。これが切れたら馬に意図を伝えられなくなる。

左手を手綱をずらしつつ鞘のところまで持っていって、薬指、小指で手綱を握り、親指と人差し指、中指で鞘の鯉口を持つ。この時鍔元ギリギリを持つと危ない。なんせ馬は揺れるのだ。左の手首を外に返して刃をやや上向きにする。右手で打刀の様な角度で体の前面を半回転させて、馬の首を大きく越えるように抜く。

もっとも打刀だと下げ緒がないから、それはそれで馬上向きでないかもしれない。鞘尻の自由度が無いと抜きにくい。

抜刀ができるようになったら、馬を走らせながら立てた竹を斬るのだが、馬の速度と併せてそれなりの衝撃がくる。刀を使い慣れてないと、刃を斜めに当てて斬るのが困難だし、握りが甘いと最悪太刀を持っていかれるので、この腰反りの強さは納得がいく。

刀を抜いてなぜか逆手の左側を斬るのが基本だと教えられたが、これも左右どちらも斬れるように練習する。弾かれたときに刀を取り落としにくいからなのか?間合いが短いから回転モーメントは小さいし、二の腕で鎬を受けることはできる。

刃筋が通らないと竹は斬れない。弾かれて大変危ない。

とはいえこの腰反りでは、歩きのときに突きがとてもやりにくいんで、将来的にはもう少し反りの小さな太刀が欲しいなぁ。



歌の師匠、からは、少なくとも月に一度は通うように命じられているので、今月も訪れる予定。それまでに羽布団と張子を用意しないといけないので、羽布団を父上に頼んでみる。

「儂の方にも問い合わせが続いているのだ。それに高いぞ。献上用だからな」

「出仕したら俸祿で」

「それよりも新しく何か考えろ」

ひどいよ父上。どっかの猫型ロボットとまちがえてない?

「わかりました。ただ、材料を集めていただけますか?」

「とりわけ珍しいものでなければな」

言質はとった。俺の快適ライフのために、ここは頑張るしかない。


俺が考えたのは枕だった。当然既にあるものだ。一般的なものは、畳。と言ってもこの時代のものは畳裏がほとんどない。ただ畳表を何枚も重ねる。敷物もそうだが枕もこれでできている。形も色々あってマンガ月刊誌みたいなものや、三寸✕五寸の角材みたいなものなんかがある。下級貴族向けは、もっと質の低い、板状の芯に布を巻き付けて畳表を付けただけのものだ。庶人の枕はせいぜい藁束。もしくは枕が無い。

そして俺が選んだのは、蕎麦殻枕である。作り方は簡単。厚い布の袋に実を外した後の蕎麦殻をいれて口を縫うだけ。そこそこ変形するように蕎麦殻を入れすぎないのがポイント。これは何回か量を調整して試した。枕カバーも必要であるが、こっちは単なる布の袋。吉野が作ってくれる。女性様には髪油対策で渋紙を袋状にして上から掛けたものも作った。こまめに洗ってもいいかもしれないが。

詰め物は綿羽や真綿も考えたんだが、ダニ対策と耐久性で通気性のいい蕎麦殻を選択。貴族には蕎麦を食べる習慣がほぼ無いので、アレルギーの心配もない。柔らかい綿羽や真綿の枕は使っている内にどうしても潰れてくる。もちろん定期的に日干ししないとだけどね。

蕎麦殻自体は普通に手に入るだろう。

蕎麦ははるか昔から山村で食べられている救荒植物である。都では食べないが。21世紀の日本人が普通稗ひえや粟を食べないのと同じ。

この時代の食べ方はそばがき。まぁ、今回は殻だけあればいい。そば粉は今後の課題だな。

蕎麦殻はどうせ捨てるものだから、これは芝売りにくる大原辺りの物売り女(大原女って名はまだない)や北山辺りの物売り女から買えた。ウチには薪を納めにきてる。少額でも買い取るとなればいくらでも集まるだろう。買うと言っても米か(麻)布でだが。

問題は、都の貴族に受け入れられるか、という一点である。

この時代、男は髷を結うが、単純に頭頂で束ねて紐で巻いて留めただけのもの。戦国時代の茶筅髷が近い。あそこまで先を拡げないが。月代さかやきは剃らないが、冠で擦れるところなので薄くなっている人はいる。後世の髷と違って冠か烏帽子えぼしで隠れて人には見せない。これを気にしなくなるのは室町時代の細川政元位からである。

女性は寝るときは中程で何箇所か紐で縛って、傷まないように枕の外に伸ばすようにする。

21世紀でも舞妓さんとか箱枕使ってると言うが、髷を保つため首の後に枕を当てる後の時代と違って、長く伸ばした振分髪の今の時代なら、蕎麦殻枕もいけるかと思うんだが。

とりあえず気に入ったのができたので、麻布から絹布に変えた製品版試作品を作ってもらう。これだけでも今回の目的は果たせた。自分のは確保したし。新しく考えろ、と言われているが、受けるものを作れとは言われてないしね。

当然、父上も同じ試作品を手にする。こんなものかと微妙な顔をしていたが、使ってはみたらしい。母上もノリノリだった。


家中の枕が入れ替わるのに三日もかからなかったよ。



五条通りを時忠殿の…、清子姫の家まで西に進む。是行達は歩きとなった。時忠殿の屋形の厩はそれほど広くない。今日は時忠殿は居られないようだが、前回のように客殿の庇に通される。もはや是行と秀次は入っても来ない。年若い姫君の居るところにむにゃむにゃと言っていたが、逃げたのまるわかり。景太は即座に隅で石になった。

で前回と同じに母屋の中に御簾越しで五人並んでいる。今後ずっとこれなの?出費五倍なんだけど…。

献上品を差し上げる。羽根布団と犬の張子四組。布団の柄は、信子様が牡丹、滋子様が桜、維子様が紅葉、七姫様が撫子。もちろんそれぞれの好みをリサーチ済。ニュースソースは母上である。

「どうしてこの柄を?」と、信子様。わかって聞いてるな。ここで母に聞きましたと答えるのはダメ選択肢だろう。

「落ち着いて華やかな信子姫には牡丹が似合うかと思いました」

「うふふ」

「美しくて華やかな滋子姫には桜かなと」

「まぁ」

「明るくて聡明な維子姫には楓、可愛らしく人に好かれる七の君には撫子を選びました」

「ですって」「えへへ」

どうかな?

「「「「合格です」」」」

ホッ。

「私の柄は松だったけど?」

本命が残っていた。

「清子姫はいつも若々しい常緑の松を選んだんだ」

うん、なんでだろう。スルスル言い訳がでてくるな。

「で、私にはなにか無いの?」

「この枕を使ってみてもらえないかなと。最初に使った感想が聞きたいんだけど」

「かろうじて合格」

ヒヤヒヤものである。社交性というのはこうやってみがかれていくんだなぁ。


それから近頃の都の話を聞く。情報量が凄い。清子姫の元ネタはこれか。乱後の摂関家の内部事情まで。やっぱり信西の評判が悪いらしい。身分は低いし僧侶のくせに政治的には最も力を握っているとか。そもそも世を捨てた僧侶が政治に関わるのがおかしいのだ。これだけの話題が集まるってことは、時忠殿の人脈が相当太いのだろう。その辺をそれぞれの女房が拾ってくるのかな。

時忠殿、ただの派手好きじゃないな。


帰り際にまた歌を詠まされる。


神無月 あるじのいでし その宮に 

秘めて会わんと 訪ね来るかな


ひめは掛詞。許して貰った。


源氏物語絵巻の枕

ツラそう…

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Genji_emaki_Kashiwagi.JPG


奥州藤原三代の枕とか残ってます。

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犬張子4個 うん、それはあかんやろと思ったら枕でカバー!セーフ! 更新楽しみにしております
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