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宗盛記  作者: 常磐林蔵
第3章 伊豆守、受領

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宗盛記0097 永暦二年七月 糸子

永暦二年七月文月


四日夜

宴会である。ウチって宴会好きだよなぁ。維子…義姉上?の所から帰ってすぐ、なんか作れと厨に放り込まれた俺は、グレードが上がったかつお節と久しぶりの昆布で出汁を引きながら働いた。多分一年で一番暑い頃である。帰省中の息子である。なんでやねん。

蒸した鴨肉の梅酢醤油漬け。焼き茄子の柚子醤油と葱、削り節、練り辛子付きの冷奴。ワカメとあげの味噌汁。後は厨の物が用意してくれた料理が並ぶ。

さて、宴である。

「三郎が伊豆から帰ってきた。久しぶりだから様子を聞こう。三郎、一言話せ」

「ご紹介頂きました三郎宗盛十五歳、一時伊豆から帰ってまいりました。一族の皆様方ご壮健なようで何よりです。本日はお日柄もよく…」

「一言!」

と父上。

「あー、維子義姉上がウチの女房になってくれました」

「「「「「え゛え゛〜~!!」」」」」

「な、な、な、何を言っておる!」

「一言」

「そんなことを聞いておるのではない!」

「近況?」

「時忠殿!?」

うつむく叔父上。

「重盛?」

視線を逸らす兄上。

「そもそも上西門院様にお願いして出家したと聞いたぞ!」

「許します、って」

「寺が許すはずがないっ!」

「任せておけ、って」

「誰が!?」

「覚性入道親王様」

「な、な、な、な、⋯」

俺を指差しながら経盛叔父上の方を見る父上。

諦めたよう首を振って見せる叔父上。

「儂もお目通りしたことがないのに」

「ではこの際ですからお礼を申し上げて頂くと助かります」

父上が諦めたように大きく息を吐いて、

「…ふむ、それも良いかもしれんな」

父上も納得してくれたようだ。まぁ、ここまで運んで断ると覚性様の顔を潰すことになる。


さて、宴であるが、今日招かれている外からの客が二人。父上が話す。

「さて、お待たせしたが、皆に紹介しておこう。先の騎射の大会で坂東一、二の弓の名人と認められた、那須資高殿、畠山重能殿」

資高殿と重能殿が頭を下げる。

「さらにこの度宗盛の護衛を勤めてくれた、宗盛の新たな家人、土肥実平殿」

実平が頭を下げる。呼ばれるとは思っていなかったようで、少しうろたえている。一人だけ残したりはしない。父上はこの辺心配りが細かいのだ。

「三人には九日の除目で官位が贈られることになった」

拍手。いや良かった。父上ナイスです。

「そのぉ、それで、だな」

あれ?父上?

「お上がお二人の武勇を是非御覧になりたいと申されてな」

「それは話が違います」

思わず抗議。

「いや、まぁ、そうなのだが…」

「⋯吹きまくって引っ込みがつかなくなったんでしょう?」

「ぐ…その、お願いできんだろうか」

資高殿と重能殿が引きつってるよ。

「体調がすぐれんとか、物忌中だとか、断る方法はあるよ?」

資高殿が意を決して答える。

「天覧の栄を賜るとは武門の誉れ、謹んでお受けいたします」

「同じく私もお受けしたく思います」

重能殿も引き受ける。ただ資高殿は多分与一の縁者である。失敗したら腹かっさばいて、とか言いそうで気が気でない。

「父上〜」

うらめしそうにぼやくしかなかった。


資高殿と重能殿は、大いに歓待された。もちろん実平も。しきりに恐縮しているが今日は客なんで諦めてくれ。

俺も酒を注ぎに行く。重盛兄上が席を立ったとき、瓶子に当たって少し揺れた。

「これこれ、瓶子へいじを倒すなよ。縁起でもないからな」

父上が言って皆が笑う。

…呆然とした。藤原成親…鹿ヶ谷だ。どこかで聞いたと思ったら、地雷男じゃないか。そいつ、引っ張るだけ足引っ張って父上に忖度した家臣に殺されますよ?

兄上、引き弱すぎ。


五日。一晩寝て落ち着いたら、時忠叔父上たちのやらかしを思い出した。ちゃんと相談したんだろうか。

まぁ、俺は俺のやらかしのフォローである。父上のやらかしはフォローしようがないしな。


久しぶりに濃緋こきあかの束帯に着替える。もちろん眉とか剃らないし描かない。まずは統子様の所。土産は花入れと香合。泉作と蒔備渾身の逸品である。

「昨日はいきなりの不躾ぶしつけ、誠に申し訳ございませんでした」

「ふふふ。どうなりました?」

「は、上手くまとまりました。御報告と御礼に参りました」

「良かったわね。近江も喜ぶことでしょう」

土産をお渡しする。

「これ、あなたの職人が?唐渡からわたりでも見たことがないけど。日ノ本でここまで作れるの?」

大層お褒めいただいた。うん、統子様に認めて頂ければ大丈夫だろう。

この半年の出来事や、年末に帰ってからのことなんかをお話する。

「それで、年が明けたら私も出家しようと思うのだけど」

あ、意識が…、

思わず上体が崩れる。

「待って待って、まだ決まったわけじゃないから」

ふぅ…なんとか帰ってこれた。

ここは連日の土下座。

「お願いです。まだ早すぎます。そんな勿体無い事をお考えにならないでください」

「でも女院のままだと、国の物要りになるのよ?」

「誰ですそんなことをほざいたのは。闇討ちしてやる」

「もぅ。そんなに早いかしら?」

「統子様なら三日も出家すれば極楽に行けます。菩薩の団体が踊りながら勧誘に来ます」

當麻寺の二十五菩薩練供養が頭に浮かぶ。

「ふぅ、この子はホントに…」

「年明けの私の楽しみは統子様にお仕えできることなのです。何卒」

とりあえず考え直していただけた。


かなり削られたメンタルをそのままに、仁和寺に。

覚性入道親王様に御礼を申し上げる。

「それはそうと、昨日の花瓶と香合、そなたの工房で作ったとか?」

「は、私の懇意の職人に作らせたものですが」

「あの香合はどうやって作っておるのだ。堆朱の様にも見えるが」

「さすが法親王様⋯」

違う色の層を塗り重ねていき、出したい色の所まで彫るという堆漆の概略をご説明する。

「例えば、意匠を指定して仏具を作ってもらうようなことは可能だろうか」

「もちろんでございます。図案と色さえ頂ければ御仏や梵字なども表せます」

「ふむ…」

おお、大口営業の予感。メンタル復活。


空性様の所にもご挨拶。

「昨日は急ぎの用があってご挨拶もできず失礼いたしました」

「出家した姉を引き戻しに来たんだって?寺で噂になっているよ」

「あははははは」

空性様はすっかり体調も戻って、もう問題ないらしい。

「宗盛殿には本当に感謝している」

「いえ、たまたま知っていた病だっただけです。これは多分御仏がお救け下さったのかと」

「ふふ。私もこれで思い切りがついた。讃岐に行って父上母上のお側に居ようと思う」

「何よりの御孝養かと思います」

「ありがとう。宗盛殿」

「縁者が向こうにおりますので、連絡致しておきます。折り返しこちらにも返事が届くかと」

讃岐なら多分食生活も問題ないだろうし。

これで讃岐院が大魔縁になるのを思いとどまって頂けたら、この国にとっても何よりだしね。

民を皇となさん⋯民主主義的には問題かな。

「あ、以前讃岐院がお書きになった五部大乗経があると聞きました」

「ああ、突き返されたと言う?よく知っているね?」

地元民なら大抵知ってるんですよ。沈めた場所まで。八百五十年後は。

「宜しければ私に預からせていただけないでしょうか。いざとなれば寺を建ててでもお納めしたいと思います」

もう沈めてるかもしれないけど。

「ああ、それは父上もお喜びになるだろう。向こうに行ったら聞いてみるよ」

忠正大叔父上に手紙書かないと。


ここまで来たんだから、維子義姉上の所に向かう。

「その…維子、様?」

う、なんか緊張する。

「あなたのところの女房になるんだから呼び捨てで良いわよ」

「あ…うん、ありがとう、維子」

「どういたしまして、殿」

うわ、二人ともめっちゃ照れた。

引っ越しの手配をする。


帰りに時忠殿の所に寄る。

維子…のことを相談せねば。あとやらかし。

年末まで維子…義姉上は時忠殿の所に戻るとして。

昨日三人で相談して、しかし話がつかなかったらしい。とりあえず教盛叔父上は地方に行っても良いとのこと。信隆殿は黙っていればなんとかなるのではないか、と考えているようだ。

時忠殿も今夜父上と相談するとのこと。付き合ってくれと言う。

まぁ、維子…のことがあるので仕方ないか。

「時忠叔父上が流刑にでもなったら、楽しみにしていた三日餅みかのもちいがのびちゃうし」

「とほほ」


「清子。言うまでもないけど君が一番だからね」

「もぉ、みんなにいい顔するんだから」

でもちょっと嬉しそう。俺の嫁チョロかわいい。

季子姫、ニヨニヨ笑うの止めなさい。


夜、父上に相談があると時忠叔父上、教盛叔父上と。信親殿は来なかった。

「なにっ!なんということを」

父上沸騰。

「いやこれ罠だと思いますけど」

俺の考えを伝える。落ち着いてみると父上もそう思ったようだ。院ならやりかねんと。

滋子様の妊娠は帝にも聞こえておられるだろうから、男子出生であれば同時に貴族の間に東宮擁立の噂を流して、父上と帝を分断するつもりだろうとの結論に達した。

とりあえず、教盛叔父上はできるだけ早く現在遙任の常陸介で受領、年が変わったら俺と交替で伊豆に赴任することになった。伊豆の引き継ぎの話を詰めないと。あとできればゆくゆくは伊豆は俺の知行国にして欲しいと頼む。

時忠叔父上は経盛叔父上と交替で伊賀守で受領、の方向でなんとか調整するとのこと。俺の三日餅のために頑張って下さい。

そうして準備が終わったら父上の口から帝にお知らせすると言うことになった。さすがに院のなさりようは父上も不愉快だったようだ。


叔父上達が帰ったあと、

「ところでお前は次の職の希望はあるのか?」

「大宰府とか」

「だめだ。最近は旨味がわかってきて、大弐は参議からでも希望が出ておるわ」

父上が長く続けたせいでは。

「少弐でも良いですが」

「そちらはお前にはもう低すぎる。旨味も薄いしな。あとどちらにせよ遙任だぞ?」

「ちぇ」

ではできれば坂東で受領したいと言っておく。

「あー、そーだな」

反応が薄いので受領はないか。あとは土佐。かなり嫌な顔されたからこっちは無理っぽい。まぁ、殺しにいく気だし。大和でも良いです、というと、これも露骨に不審な顔をされた。もちろん税で難癖つけて興福寺の勢力を削るつもりだ。強訴に来たとしてもウチは平氏。放氏ほうしといった藤原氏に対する様な矯正力はない。三千程度の兵なら総力で来ても六波羅での守備戦闘なら撃破することができる。でも父上の顔つきだとそれもないか。近隣の宗教勢力の武装兵なんて、削れる時に削っとかないと煩わしいのに。

あと父上に、普請の許可のお願い。話は聞いてたらしく、東泉殿の南側に一棟建てさせてもらうことになった。


六日。

維子を迎えに行く。本人用の牛車と荷車二台程で行ったが、荷物が殆どなかったので、荷車一台は先に帰す。


「決めたわ。還俗したんだから改名する」

「えぇっ!?」

「今日から糸子いとこって名乗るわ。呼んでみて」

「糸子…?」

「叔母で義姉あねの糸子です」

「単にそれが言ってみたかっただけじゃないよね?」

「うふふ」

まぁ、重太郎の今後を考えてのことなんだろうが、空元気でも笑ってくれるようになって良かった。


七日。

梁夫に扇風機の設置を頼む。なんかまた取り上げられそうな気がする。

猛暑ででかけたくないが、親隆様にご挨拶に伺う。

「暑気当たりでな。体を動かすのが辛い」

本当にお辛そうである。早々に退散する。忠子叔母上に、扇風機の取り付けの相談をする。急いで工事すれば、簡略版ならそれほどかからないと思う。母上から聞いていたらしく、願ってもない、というので帰って梁夫に頼む。


鍛錬後の水浴びが快適。プール代わりの舟を久しぶりに使う。知盛と五郎が入ってきた。水弩を持ち出して遊ぶ。声につられてやってきた妹達も交じる。さすがに六人入ると手狭である。五の君が水弩に大喜び。俺ばっかり狙われるのはなぜ?


夕方からは七夕である。出仕の義務のない俺は清子のところでまったりする予定。

清子と季子姫の為に、乞巧奠きこうでんの飾りが出ている。五色の掛物に糸巻き等の裁縫道具。

晴れました。いい雰囲気になる。いちゃつく。季子姫が拗ねる。


八日。

午前中に正子姉上にご挨拶。

信隆様が何かお悩みのようだが、知らないかと聞かれる。

「多分知ってるけど、色々あって言えません」

「良くないこと?」

「うーん、ろくでもないけど命に関わることはないでしょう。女性関係でもないよ」

「いじわる」

「言わないほうが良いこともあるんだって」

姉上の新夫が謀叛っぽいこと考えてましたよ、って、俺から言えないんだよ。新婚早々流罪かもしれないけど。


午後、職人達を集めて、ウチの新棟の依頼をする。併せて新車の注文。これはかなり斬新だと思う。幹也を筆頭にみんな大喜びだった。ウチの職人は新しいものを作るのが大好きである。



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― 新着の感想 ―
>あ、意識が…、思わず上体が崩れる。 ショックな事があると、気を失い気味なのはベースが宗盛だからなのかな。 戦とかは手堅い感じですが、意外な所で弱点?があるのかも。 >次の職の希望はあるのか? まだ…
入院中に時間を持て余していたので1話から全話読み返しました。やっぱりめちゃくちゃ面白い!これからも更新を楽しみ待ってます
おそくなりましたが、100話達成、本当におめでとうございます!いつも楽しく拝読しております。 統子様への「三日も出家すれば菩薩の団体が踊りながら勧誘に来る」という台詞、中の人の現代的な感性にとても笑い…
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