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宗盛記  作者: 常磐林蔵
第3章 伊豆守、受領

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宗盛記0095 永暦二年七月 帰省

永暦二年七月文月


二日

一日は日牟禮八幡宮に一泊させてもらって、大津に着いた。近江八幡の街はまだ無い。

大津の国衙の近くに波路さんの家はあると言う。下見に出した実平の家人が帰ってきた。居ると言う。

「襲うぞ」

「「「「「「「応!」」」」」」」

皆で取り囲む。

案の定、家財を物色している男がいる。

「殺すなよ。家の値が下がる」

もちろん遠慮無く襲った。刀を抜いて抵抗し、逃げようとしたので、資隆殿が膝裏を打ち抜いて制圧した。もう二度と走ることはできないだろう。まぁ、悪質なんでこのまま流罪か死罪だろうが。

「蹴っとく?」

と波路さんに聞いたが、ふるふると首を横に振る。

代わりに蹴っといた。なんか叫んでいたが一撃で意識を刈り取る。波路さんに蹴られたほうがずっとマシだっただろう。

体を探って、持っていた米八石の証文と金目のものを奪ってから、簀巻きに縛って国衙に通報する。波路さんと一緒に事情を説明したら日が暮れたので、この日は波路さんの家に泊めて貰った。家財道具はほとんど処理済だったが、壁屋根のある所で、火鉢も残っていたので助かった。炭と食事は買った。


波路さんとここで別れる。当座にと銭一貫を渡し、今月中、帰りにまた寄るから、何かあったらその時にと約束する。国衙には知人が多く居るから心配ないとのこと。


三日

昼前に六波羅に着いた。

七夕に間に合って良かった。

他の女の人の事で遅れたとなったらすねられる。

前回のように一族集まっているということもなく、普通に我が家である。予想通り二棟廊で寝ることになったが。あれ?四郎はともかく章子姉上といっしょで良いの?

いつになく早い時間に帰ってきたのでみんな驚いていた。もちろん先触れは出したんだが。


土肥実平殿と畠山重能殿と那須資隆殿を父上に引き合わせ、ついでに重能殿の希望により四郎に合わせる。まだ十歳だ。あまりの幼さに絶句している。すまんね~。

四郎がガチガチに緊張しているのが微笑ましかった。

「まだ幼いが、こいつには武将としての才がある、と思う。史に名を残すほどの。⋯多分な。…身びいきかな?」

と俺が紹介すると小さな笑いが起こり、ようやく緊張が取れたようだ。お互いに。


四日

起きたら知らない屋根裏だった。そういや二棟廊って泊まるの初めてだったっけ。

章子姉上は寝殿に泊まっているらしい。ま、二棟廊に母屋もやはないからなぁ。

四郎がじっと見ているので、

「文曲掛ける七、南無文殊菩薩」

と、唱えておく。

「かける…」

四郎が不審者を見る目で呟いた。


父上は出仕されたようなので、母上達と話す。

「結構手狭になってきましたね 俺帰ってきたら新婚なんで、六波羅に新しく敷地貰って出ようかな」

「三郎が出るとうまいものが食べられなくなるから許さん、と父上が言っていましたよ」

「酷い…」

「庭にあと一棟位建つから、そうしたら?」

と章子姉上。

「俺の家人とかどこに泊めればいいかな…」

「父上と相談なさいな。あと信隆殿は、正子を連れてそのうちお帰りになるわよ」

と、母上

「確かにもう一棟は欲しいなぁ。都は暑いし寒い」

「いっそ寝殿も建て替えて貰おうかしら」

「いやぁ、それはさすがにどうかと」

「どうせあなたの作る家の方が快適なんだから、客殿残して全部建て替えちゃえば?」

いや、姉上、そんな簡単に…

妹達がパタパタと駆け寄ってくる。可愛い。

「三郎兄様、おかえりなさい」

「おかえりなさい」

「…おかえりなさい」

「ただいま、三の君、四の君、五の君は大きくなったなぁ」

三の君はもう七つになっている。四の君は六つ、五の君は四つか。五の君は知らない人を見る顔だな。

「そうだ。伊豆のお土産。今度は猫だよ」

「「「ありがとう」」」

向こうで作った小さな食器一式も贈る。

嬉しそう。作ってきて良かった。

「私には?」

「私のも」

いや、母上…章子姉上…。

張子、多めに作っといて良かった。

「あいかわらず器用ねぇ。それにこんなのウチでしか見ないわよ?」

と、章子姉上。

「張子っていうんだ」

「すごく軽いんだけど」

「子供の玩具だからね。中抜いて鈴入れてある」

振ってみる姉上。チリンチリンと、鈴の音がする。

「ほんと、どこで覚えてくるのよ」

「ははは…」

前世です。

「おうま〜」四の君にせがまれる。吉野は…いないな。

「よし、乗って」

跪いて馬になる。

四の君が乗ってくるので、南庇周遊の旅に出る。軽快に走っていたら五の君が

「乗りたい〜」

と言ってくるので、四の君の前に乗せる。そこそこ頑張っていたら、

「私も!」

と、三の君がもう一人…重い…言ってはならない言葉。

「ふんぬぅ」

ヨタヨタと進む。

上で落ちそうになってきゃあきゃあ言ってる。几帳の前まで戻って潰れる。

かけ、いつもありがとう。もうちょっと労ってやらねば。



午前はそのまま妹たちと遊んでしまったので、昼から時忠殿のところへ。

持っていくのは桔梗。二本になってしまった。

ところが到着したら寝殿に案内された。あれ?こっち?

母屋には、時忠殿の他に、教盛叔父上?後、初めての方も。

「あ、部屋を間違えたみたいですね。失礼しました」

さっさと出ようとする。厄介事の臭いがする。

「いや、三郎殿、こちらにどうぞ」

まわりこまれた!

仕方ない、挨拶だけはしよう。

「お初にお目にかかります。平三郎、伊豆守宗盛です」

「正四位下、右馬頭兼因幡守、藤原信隆だ。この度縁あってそなたの姉の正子殿と結婚することになった。よしなに頼む」

ああ、この人が。

「宜しくお願い致します。では、これにて」

「いや三郎殿、少し聞いていただきたい話がありましてなぁ」

「聞くだけですよ?」

「まぁまぁ」

一応、まとめは時忠叔父上らしい。

それで聞いたのは、滋子様が懐妊していること(この辺でやさぐれた)、さらに皇子が誕生したら、東宮に立てたいのだと。あーあ。

「ふぅ」

予定日は八月終わりか九月の始めらしい。来月終わりには帰ってきて出産の準備だとか。

「どうだろう三郎殿。できればお父上にそれとなく協力を頼めないだろうか」

「ふぅ」

「反対かな?」

恐る恐るという感じで時忠叔父上が聞いてくる。俺を引き込もうとしないでよ。

「そもそも、依頼なら前回の報酬払ってからにして欲しいんですが」

「ぐ」

「これ、計画したの時忠叔父上じゃないですよね?」

「な、なぜそう思う?」

「穴だらけだからです」

「な、な、⋯」

「どこがかな?」

と教盛叔父上。

説明した。

そもそも皇子が生まれるかどうか半々なこと。帝がお若いこと。力関係で有利な帝にとって将来の院政がなくなる弟の践祚とかありえないこと。帝の近臣が多数いるのに百官の合意とか取れそうにないこと。慎重な父上が院の側だけに加担するとは全く思えないこと。

「滋子様の縁でなんとかなると思ったんでしょうが、父上は勝つ方にしかつきませんよ?」

「しかし、その後は位など厚く報いて貰えるのだぞ」

「うまくいけばね。そんなことはわかってやってるんでしょうが、そもそも無理を通そうとすると、又帝と院の戦になりかねませんよ?」

「そ、それは」

動揺するなよ。それだけでこの人たちが首謀者でないとわかる。誰かに押し付けられたか。

「あと忘れてますが俺、帝の乳母子めのとごですからね?」

「あ…」

「この計画自体、必ず失敗します」

「なぜだ?そなたが話すのか?」

と信隆…義兄上?

「ここにいるのが父上に近い人ばかりだからです」

「どういうことかな?」

と教盛叔父上。

「この計画はどうせうまくいかないでしょうが、父上を取り込めればめっけもの、そうでなくても話が漏れれば、父上に対して帝が不信感を持つからですよ」

それだけで時忠叔父上が顔色を変える。頭はいいんだよなぁ。

「どういう…あ!」

少し遅れて教盛叔父上と信隆様が反応する。

「まさか…院から漏れるというのか」

「んー、今回も市中の噂、とかじゃないですかね?」

「…う、ぁ」

「当て馬?捨て駒?来年は午年だしなぁ」

「しかし…期待していると」

「だから期待されてるんですって。当て馬」

「「「…」」」

「このこと、書いたものとか作ってないでしょうね?あるいは多人数の前で話したりしてないでしょうね?」

「院の…近臣の前で」

時忠叔父上。

「なら、もうだめですね。こうなったら前もって対応を考えたほうがいいです」

三人とも真っ青だ。

「ふぅ」

仕方ない。時忠殿と縁の深い俺にとってもこれはちとヤバい。絶賛契約不履行中の時忠叔父上が流される位は構わないが、俺と清子の結婚前なのだ。

「まず、父上と相談することです。そうしてできれば受領してしまうことです」

「受領?」

「受領して地方に行ってしまえば、その場の与太話だった、で済ませることができます。少なくとも恐懼の体は示せます。百官として奏上できなくなりますから。そうして一、二年地方でほとぼりを冷ますのです」

「しかし、都から離れるなど…」

「今なら伊豆をお譲りしてもいいですよ?」

「伊豆など遠流おんるの地ではないか!」

と、昂った信隆様が反応する。

「なら流刑人として行かれることになるかもですね。それに伊豆は俺が手をかけた赴任地、正直住みごこちは都の貴族の家より快適です」

「「あ…」」

そのことが事実だと知っている時忠叔父上と教盛叔父上が反応した。お互いに視線を伺っている。そう、伊豆は一つ、早いものがちなのだ。

「まあ、受領にしても流罪にしても当分は都を離れることになりますから、その時は清子はウチで引き取ります。本人が望むなら季子姫も」


すっかり黙ってしまった叔父上たちに暇を告げて、清子のところに行く。


「ただいま 清子。会いたかった。季子姫もお久しぶり」

勝手知ったる東の対に女房に案內されて、簾の内の人影に言葉をかける。

「「おかえりなさい」」

あれ?ちょっとためらいがち?

「なんかあった?」

「その…維子姉上がね」

と清子。

「義姉上になにか?」

「ええと…」

言いづらそうな清子の代わりに季子姫が

「維子姉様が、出家しちゃったの!」

「な、な、なんですとー!?」

また失神しそうになったよ。



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― 新着の感想 ―
100話到達おめでとうございます。これからも更新楽しみにしてます。 時忠叔父は、院の鉄砲玉扱いになりましたね。滋子姫とのつながりで受領か流刑かは別として伊豆行?都落ちは避けれないのかも。事が大事にな…
100話を記念して、3名のあだ名をchatgpt5.2に考えさせました。 1. 平時忠 ―― 【六波羅の吸血ヒル】 理由: 「平氏にあらざれば……」という言葉で平家のブランド価値を最大限に吊り上げ、そ…
鎌倉から見て、なんだこいつ、だった後白河院 六波羅から見ても、なんだこいつ、だったなんて
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