プロローグ
誰かの終わりは、誰かの始まり。
誰かの絶望は、誰かの希望。
これは、そんな物語。
目を閉じるとふと思い出す、という言葉がある。それはつまり、目を閉じなければ何も思い出さないということ。目を開いている時は現在を見ていて、続く希望に満ちた未来を思い描くのだから。
だが、過去に囚われている私のような者はその限りではない。目を閉じずとも思い出す。いや、そもそも忘れたことがないのだから、思い出すという表現すら不適切かもしれない。目を開いていても、見えるのはあの日の記憶だけ。現在すら見れないのだから、未来なんて言うまでもない。
過去に囚われる理由は様々だ。例えば栄光、例えば後悔。あるいは案外、なんでもないことかもしれない。そして私の場合は――。
――――――――――――――――――――――――
何をかもを燃やし尽くさんとする炎の眩しい赤。
周囲に倒れ伏す人々から流れ出た血の錆びた赤。
こちらへ手を伸ばしてくる人間の瞳の冷たい赤。
赤、赤、赤。全てが終わったあの日、目に入るのは赤ばかりだった。私の記憶は赤に支配されている。燃え盛る炎は未だ消えなくて。こびりついた血はどれだけ洗っても落ちず。光を映さないあの瞳を忘れられない。
だから、この体を構築する全てが望んでいる。長ったらしい言葉は必要ない。言いたいことはひとつだけ。
お前を絶対に許さない。
長い長い物語の幕開け。
どうか最後まで見届けてください。