9.朝食を食べて、領地を見て回る ⑤
「フーちゃん、その香水が気になるの?」
私はそう言って、フーちゃんの関心を持っている香水を見る。
それはラベンダーの香りのもので、紫色の容器が目印である。フーちゃんはラベンダーの花が好きだったりするのかな?
私は花の種類とかはそこまで詳しくない。それに好きな花とかも特にない。
それに比べるとフーちゃんは花が好きなのも、女の子らしくて可愛い。
「うん……。ラベンダーってお母さんが好きだった花なの。だから、思い入れがあって……」
「そうなんだ。じゃあ、この香水買おうか」
「……でも結構高いよ?」
フーちゃんはそう言いながら困ったように眉を下げている。
確かに平民たちからしてみれば高価な値段ではある。購入するのに少しだけ無茶をしなければならない。そういう値段。
「そのくらいの香水を私が買えないわけないでしょう? フーちゃんは幾らでも欲しいものを購入していいからね?」
「……そ、そんなことを言われたら本当に沢山買ってしまうかも」
「それで何の問題もないの。フーちゃんは欲しいものを全て手に入れる立場にあるんだから。少なくともお金で買える範囲の物はになるけれど」
流石に人とかは欲しいと言われてもどうにもならないけれど、お金で買える範囲の物ならばフーちゃんはなんでも手に入れられる立場にあるのだ。
「……そんな風に言われて、私が想像以上に買ってしまったらどうするの?」
「その時は稼げばいいだけよ。フーちゃんは買いすぎてしまったら家が大変かもと心配しているのかもしれないけれど、リュシバーン公爵家はフーちゃんが欲しい物を全て購入したとしても何の問題もないからね?」
公爵家の中でもうちの家はお金持ちである。正直お金ならば幾らでもあるぐらいにはあるので、フーちゃんが心配する必要は全くない。それに私個人の財産もそんなに使ってはいないから、貯まっているしね。
私の言葉にフーちゃんは頷いてラベンダーの香水と、他にも気になったいくつかの香水を手に取った。
「こ、これだけ欲しいのだけど、いい?」
「もちろん。それにしても同じ物を二つ買うのね」
「これはユーちゃんに。一緒の香水付けれたら嬉しいなって。……本当は自分のお金で買えたらよかったのだけど」
フーちゃんは言いにくそうにそう言ったけれど、私はフーちゃんの気持ちが嬉しくて仕方がなかった。
「フーちゃん! 私はその気持ちだけでも嬉しいわ。フーちゃんと一緒の香水を是非つけたいわ!」
私はフーちゃんが選んでくれたお揃いの香水だと思うと、身に着けないわけはない! というそういう気持ちでいっぱいになった。
だって大切なフーちゃんが選んでくれたものだもの。
ユーシュは嫌がる可能性もあるけれど、フーちゃんからもらったものだって言えば受け入れてくれるかしら? まぁ、ユーシュが嫌がる匂いだったらユーシュが居ない時だけ身に着けるとかになるかしら。
「他の香水はどうするの?」
「えっと、お母様たちにも渡したいなって」
「それは良い考えだわ!」
私はフーちゃんの言葉にそう答える。だって私だけがフーちゃんから香水をプレゼントされたらきっとお母様たちは羨ましがるもの。
お店の店員たちは私たちが香水を普段使いすることに萎縮していたけれど、フーちゃんが気に入って選んだものなんだからもっと自信をもってほしいと思う。
店員たちには私たちがパーティーで香水を使うことで、お店に発注が増えるかもしれないということは伝えておく。
リュシバーン公爵家の影響力は強くて、お母様やお姉様が身に着けたものが貴族令嬢達の間で流行ったりしていると聞いたもの。おそらく私たちが同じお店の香水を使っていたら一つの流行になるはずだわ。
「私達が使ったら発注が増える……?」
「フーちゃん、私達はリュシバーンなんだよ。だから私達が身に着けたものが流行ったりするの」
私がそう言ったらフーちゃんは「そ、そうなの?」と驚いていた。自分が選んだものがそうやって流行りになると言われてもぴんと来ていないようだ。
頭では分かっていても実感出来ていないとかそういう感じなのかも。
そんな話をした後、そのお店を後にする。私は護衛にはこれからこのお店を注意してみておくようにもこっそり言っておいた。だってこれから貴族令嬢たちがこぞってこのお店の香水を求める可能性があるのだ。その中で貴族間のいざこざでお店に迷惑をかけないようにはしておきたい。なので、訪れたお店などで何かが起こることがないようにはきちんと対応しておくのだ。
そのあたりの対応漏れがあると、何らかの被害が起きる可能性がある。良くも悪くもリュシバーン公爵家は注目を浴びている家だから。
香水のお店を後にして、次は私がフーちゃんに食べさせたいと思っていた名物のお菓子が売ってあるお店に向かう。