7.朝食を食べて、領地を見て回る ③
私が声をかけるとその場にいる騎士たちは嬉しそうに目を輝かせる。私は基本的に帝都で竜騎士として働いているので、リュシバーン公爵領で模擬戦をすることも少ないのだ。
フーちゃんを探すためにと、そればかり考えていて私たち家族は探し回っていることが多かったから。
「では、私が受けて立ちます」
「そう、よろしくね」
私がそう言って笑いかければ、その騎士も笑う。
木剣を互いに手に取り、向かい合う。
騎士の男性側に油断はない。それは私のことを知っているからだろう。初対面の相手との模擬戦とかだと、私は結構油断されることが多い。それは私の見た目によるものだと思う。結構油断されがちな見た目というか、騎士には見えないと言われたりする。
戦いの場に置いて油断されることに関しては、それは一種の強みであるとは思う。相手が油断すればするほど、こちらが勝てて、油断する相手が悪いのだから。
体に魔力を纏わせて、勢いよく飛び掛かる。
流石にすぐには決着はつかない。
木剣での打ち合いを繰り広げる。
この騎士、出来るわね。
私は力で押し切るというよりも、素早さで繰り出すのだけど、それにちゃんとついていけているもの。
――何度も何度も打ち合って、結果として私が相手の木剣を弾き飛ばした。
「負けました。流石、ユーフィレエ姫様です」
私の勝利に終わり、私は満足している。
ちなみにだが、昔は私が領主の娘だからとこういう模擬戦の時に手加減をされたり、わざと負けられたりというのがあった。それが悔しくて、剣技や魔法の腕を磨いた。その結果、こうして手加減などされなくても勝てるようになったのだ。
フーちゃんを探しに行く条件として、両親からはある程度自分の身を守れるようになることって言われていたの。だから私はフーちゃんを探しに行くためにも強さを磨いた。
とはいっても剣技や魔法の腕を磨くことは私にとっては趣味のようなものにはなっていて楽しいけれど。
「ユーちゃん、凄いね!! 自分よりもずっと大きな男性の方相手でもあんな風に戦えるんだ」
私がフーちゃんの元へ戻ると、目をキラキラさせて私を見ていて、可愛いなと思った。
「褒めてくれてありがとう! 私、剣と魔法には自信があるの」
私がそう答えるとフーちゃんが黙り込む。
「フーちゃん?」
「ユーちゃんは『竜姫士』なんて言われていて、本当に凄いから……。私も何か得意なことがこれから出来ていくかなって。私はこれだけは誰にも負けないっていうものを持っていないから……」
「それはゆっくり探していけばいいんだよ。フーちゃんはこれから何だって挑戦できるんだから」
フーちゃんがやりたいと言ったことを、私達はなんでもやらせてあげたいと思う。
もちろん、無謀すぎるようなことだと流石に止めるけれどね。
「ユーちゃんは……凄くて、きっと皆から人気者だよね。そんなユーちゃんの双子の妹として何も出来なかったら何か言われたりするのかなって……。私、ユーちゃんの隣に並んで遜色ない自分でいたいなと思うの」
私の目を見て、フーちゃんはそういう。
意思の強い、黄色い瞳が私をじっと見つめる。
フーちゃんはまっすぐというか、妥協しないというか……うん、私たちがうんと甘やかして、そのままでいいよと言ったとしても努力しようとする子なんだと思う。
フーちゃんが何かに秀でていなかったとしても私たち家族にとってはその能力じゃなくて、フーちゃんがフーちゃんであることが重要なのだ。そもそも私の可愛い双子の妹に文句を言う人は私がとっちめる。
「フーちゃんは頑張り屋さんだよね。フーちゃんがフーちゃんであれば私たちはいいと思っているけれど、フーちゃんが頑張りたいなら全力で応援するからね。だから何かやりたいことがあったらすぐにいってね?」
「うん。ありがとう。ユーちゃん」
二人で向かい合ってそんな会話を交わす。
するとフーちゃんが急にはっとした顔をした。周りの騎士たちからほほえましいものを見られる目で見つめられていることに気づいたらしい。
こうやって周りから視線を集めることに慣れていないんだろうなと思ってくすりっと笑みがこぼれた。
「フーちゃん、そろそろ次の場所に行こうか」
「うん!」
私の言葉にフーちゃんが頷いてくれたので、騎士たちに言葉をかけてその建物を後にする。
「そういえばユーちゃんは普段、何処で働いているの?」
騎士たちの詰所に行ったからだろう。フーちゃんにそう問いかけられる。
私の『竜姫士』という呼び名は広まっているけれど、実際にどこで働いているかまでは分からないものだものね。そもそも騎士としての職務についての詳細が周りに広まっていたら中々の問題だし。
「皇都で働いているの。とはいっても私は結構遠征に出ることも多かったけどね? でも折角フーちゃんが帰ってきたから国外に出るのはなるべく抑えてもらおうと思っているけれど」
私は皇都に本拠地を置いているけれど、フーちゃんを探すためにと国内外問わずに遠征していたのだ。でもフーちゃんが見つかったからそのあたりも抑えておくつもり!
「じゃあお休みが終わったら皇都に行っちゃうんだ……」
「フーちゃん、そんなに寂しそうな顔しないで! というか、その時にフーちゃんもおじさまに挨拶しに行くことになると思うから、一緒に皇都に行こうね!」
私がそう言ったら、フーちゃんは一瞬驚いた顔をして頷いた。