5.朝食を食べて、領地を見て回る ①
家族全員で、食卓を囲み食事をする。
ずっと空席だったフーちゃんの席に、本人がいる。うん、本当にそれだけで私は嬉しい。
この屋敷に仕える使用人たちも皆、涙をこらえていたりする。ポーカーフェイスを装っているけれど、フーちゃんがこうして此処に居ることがそれだけ彼らにとっても嬉しいのだろう。
私はその事実にも嬉しくなった。
「お母様、私、フーちゃんと一緒に祭りを見て回ろうと思うの。いい?」
「もちろんよ」
私の言葉にお母様がにっこりとほほ笑む。
フーちゃんが帰ってきたばかりだからと言う理由で私は騎士としての仕事の休暇を取っている。幸い今は戦争も起こっていないし、緊急の魔物の出現というのもない。ならば、私が休んだ所で問題はない。
そもそも私が休んだら竜騎士隊が機能しなくなるということもないしね。私の部下たちは優秀だし。セドラックにはその分、仕事してもらうことになるけれど。
うん、こういう時に私にフーちゃんのことを優先していいよって言ってくれるセドラックのことが私は大好きだ。
お母様も可愛い娘が帰ってきたからと事情を説明してお茶会の予定もキャンセルしたそうだ。というか私の家族は全員、そうやって予定をキャンセルして此処にいるわけである。
お父様は流石に確認する書類があるといって仕事を今日はすすめるらしいけれど。
あとお兄様も。
お姉様も実家に泊まっている。
サンレとトロオは学園に通っているので長くは休めない。
というか、私も通おうと思えば学園に通える年代ではあるのだけど、フーちゃんをさがしたいとそう思っていた私は貴族令嬢としての履修すべきことは家庭教師に習って、竜騎士として国内外を飛び回っていた。
フーちゃんを見つけなければ! とその気持ちでいっぱいだった私はさっさとそのあたりの勉強を終わらせたのだ。ああ、でもフーちゃんが望むのならば一緒に学園に通うのも楽しいかもしれない。なんだか折角再会出来たフーちゃんの望みをなんでも叶えてあげたいというそういう気持ち。
「美味しい……っ」
朝食を口にして、顔をほころばせるフーちゃんが可愛い。
「フーフィレエが好きだったものを用意させたのよ。今の好みと違ったら言ってね? すぐに好物のものを作らせるから」
「お母様、ありがとうございます。私、好き嫌いはないです」
にっこりとほほ笑んだフーちゃんを見ながら、私たち家族はにこにこしてしまう。
フーちゃんが見つかって、嬉しくて、昨日も散々泣いたのに。今も泣き出しそうになる。フーちゃんが此処にいてくれる事実が嬉しくてたまらない。
でも折角フーちゃんが帰ってきた楽しい朝食の場で泣くわけにもいかないので、涙をこらえる。お母様やお姉様にはそんな私の様子はバレバレだったみたいだけど。
朝食を食べた後は、着替えを済ませる。
フーちゃんが帰ってくると決まってから早急にお母様はお出かけ用の衣装を用意させていたようだ。フーちゃんが居なくなる前、私とフーちゃんは双子だからというのもあり同じ衣装を沢山着ていた。私はフーちゃんとお揃いなのが嬉しかった。
外行き用のワンピースをお揃いで着る。
お母様はそれを見て泣いていた。お母様はあまり泣いたりしないタイプなのに、フーちゃんが帰ってきたことが嬉しくて仕方がないのだろうと思う。私も気持ちが分かる。
ああ、それにしてもフーちゃんは子爵家でやはり良い扱いをされていなかったのだろう。驚くほどに細い。……もっといっぱい、沢山美味しい物を食べさせてあげたいなと思う。それと同時にやはりフーちゃんを蔑ろにした人たちは許せないと思った。
「フーちゃん、馬車に乗って行こう」
「う、うん」
そしてフーちゃんと一緒に私は屋敷の外に用意させていた馬車の中へと乗り込む。
何かあったとしても私が対処は出来ると思うけれど、またフーちゃんの身に危険が迫るのは嫌なのでちゃんと騎士たちも連れて行っている。私一人だったら、護衛は連れて行かないか、最低限の護衛にするのだけど。
馬車の外を見れば、領民たちが馬車の周りに集まっている、
彼らはフーちゃんがこうして帰ってきたことを把握しているので、フーちゃんの姿を一目みたいと思っているのだろうと思う。
「ほら、フーちゃん、手を振って」
「う、うん」
フーちゃんはこういう状況になったのが初めてなのだろう。戸惑いながら、外の領民たちに手を振る。
そうすれば手を振られた領民たちは嬉しそうに声をあげていた。
フーちゃんは自分が手を振っただけでそんな反応をされることに驚いている様子だ。あとは領地全体がお祭り騒ぎなことにも目をぱちくりさせていた。
真昼間からお酒を飲んでいる男性たちの姿や、楽し気に踊っている女性たちの姿。あとは劇をやっていたり――これに関してはフーちゃんのことを主役にしたものだ。
元々、行方不明になっていた公爵令嬢であるフーちゃんのことは特に領地だと劇の題材にされていた。別の場所でも披露してもらい、何かしらのフーちゃんの手がかりが見つかれば……と思っていたので、リュシバーン公爵家は劇団を支援したりしていた。
「フーちゃん、何をしたいとかある?」
「ちょっと、思いつかないかも」
「そっか。じゃあ、思いついたらなんでもいってね? ひとまず、私のおすすめを紹介するね」
フーちゃんはあまり自分から何をしたいとか言わない。……多分、そういうことを言えないような暮らしをしていたのだと思う。