3.公爵家への帰還
「フーちゃん、起きて」
「ん……」
「眠たそうなフーちゃんも可愛いけれど、ついたよ?」
「はっ……」
眼下にリュシバーン公爵領が広がっている。もうすぐ屋敷に到着するので、眠っていたフーちゃんを起こす。
はっとした表情で目を覚ましたフーちゃんは、一瞬自分がどこにいるか分からなかったらしい。
「フーちゃん、もうすぐ家だよ。皆、待ってるからね」
私がそう言ったら、フーちゃんは少し強張った表情をする。
「フーちゃん、大丈夫だよ。皆ね、フーちゃんのことをずっと探していたから。弟妹たちだってあったことのない姉に会いたいって言っていたんだよ」
三歳の時にフーちゃんは、いなくなった。
だからその後に生まれた弟と妹は、フーちゃんを知らない。でも私達が散々フーちゃんの話を聞かせていた。だから会いたいと言っていた。
それから、屋敷の庭にユーシュが着地する。セドラックも私の婚約者で身内みたいなものなので、その隣に竜を着地させていた。
それにしてももう既に家族全員揃っている。皆、忙しいだろうに。こんな日中に此処にきているなんてよっぽどフーちゃんに早く会いたかったんだろうなと思わず口元が緩む。
フーちゃんはこれから会う“家族”に対する心配とか、これからのことで色々と考えてしまっているかもしれない。でも大丈夫。
もう二度と私たちはフーちゃんを誰かに傷つけさせたりなんてしないもの。
「フーフィレエ!!」
私が魔法でフーちゃんを竜の上から降ろすと、お母様たちがフーちゃんに抱き着く。皆泣いている。その光景を見られることが私は嬉しかった。
こうしてまた、家族が全員そろったんだと思うとそれだけで幸せな気持ちになった。
「ああ、無事でよかった。会いたかったわ。私の愛しい娘……!」
お母様が泣いている。皇帝の妹として、いつも気丈なお母様が。
「フーフィレエ!!」
お父様が泣いている。冷酷で優秀だと噂のお父様が。
「生きていてくれてありがとう……!」
お姉様が泣いている。侯爵家に嫁いで、女主人として社交界を牛耳っているお姉様が。
「本当に……っ。本当に、良かった」
お兄様が泣いている。周りに対して厳しくて中々表情を崩さないと噂のお兄様が。
「会いたかった。フー姉様、はじめましてっ」
妹のサンレが泣きそうになりながらそう告げる。あんまり泣いたりしない妹が。
「フー姉様っ」
弟のトロオが泣きそうになっている。最近生意気になってきている弟が。
ああ、そして私も泣きそう。というか、泣く。
「うぅっ……本当に、フーちゃんが無事でよかった。この光景が、見れて良かった」
「ユーフィ」
「……セドラック、制服が涙で濡れるよ?」
「俺がユーフィを抱きしめたかったから」
感激して泣いた私はセドラックに抱きしめられる。
「え、えっと」
「お母様と呼んでフーフィレエ」
「お、お母様」
「ああ! フーフィレエ! もう二度とあなたを手放さないわ!!」
お母様がフーちゃんから“お母様”と呼ばれて、感涙極まった声をあげている。
ちなみにこのやり取りは全員分あった。
「ユーフィレエも本当によくやったわ!」
そして私もよく見つけてくれたともみくちゃにされた。
一応、先に伝令でフーちゃんのことは伝えてあったけれど、詳しいことはまだ伝えていないのでそのあたりは私がこれから説明することになっている。フーちゃんは竜での移動で疲れてしまっている様子でうとうとしていた。
先ほどまで寝ていたものね。
「お母様、お父様、フーちゃんが眠たそうなので寝室に連れて行ってもいい?」
「もちろんだ。フーフィレエ、よく休むんだよ」
「え、あ、でも……」
来たばかりで眠ってしまっていいのだろうかというフーちゃんの葛藤が見て取れる。
私はそんなフーちゃんに笑いかける。
「フーちゃん、疲れているなら休もう。大丈夫だから」
私たちがそう言って笑いかければ、フーちゃんは頷いた。
そのまま私はフーちゃんを部屋へと連れて行く。その部屋は元々の子供部屋を整えたものだ。私は今、別に自分の部屋を持ってはいるけれどここは私とフーちゃんが幼い頃に過ごしていた部屋。
そこにある天蓋付きの大きめのベッドにフーちゃんを寝かせる。
「フーちゃん、おやすみ。私もお父様たちへの話が終わったら一緒のベッドで寝てもいい?」
「一緒のベッドで?」
「うん。小さい頃ね、一緒のベッドで一緒に寝てたの。だから、フーちゃんと一緒に寝たいなと思って」
私がそう言ったらフーちゃんは頷いてくれた。
私はフーちゃんを部屋へと送り届けた後に、お父様たちの元へと戻った。
「それでユーフィレエ。詳しいことを教えてもらえるか?」
お父様にそう問いかけられて、私はフーちゃんの陥っていた状況について説明した。当然のことだが、私の家族は彼らのフーちゃんへの扱いに関して怒りをあらわしていた。
「このまま放っておいても自滅はするだろうけれど、追い詰めてもいいかも」
私がそう言えば、家族はそれに対して頷いた。
そしてしばらく会話を交わした後、私は眠っているフーちゃんの元へ向かって一緒のベッドで眠りにつくのであった。