18.皇都でもフーちゃんは大歓迎されている
私たちが馬車で皇都に辿り着くと、それはもう周りがざわめいていた。
それはまぁ、リュシバーン公爵家の家紋のついた馬車に、上空を飛ぶ竜の姿があるのだから此処に誰が乗っているか一目瞭然だもの。
私は馬車で皇都に来ることは少なくて、大抵はユーシュに乗って移動することが多い。
ユーシュが私の愛竜だってこの国の人々は皆が知っている。だから余計に騒がしい。
あとはフーちゃんが乗っているであろうことを皆が想像出来るからというのもあるだろうけれどね!
「わぁ、ユーちゃんは凄いね。こんなに皆が声をあげているもの」
「ふふ、私だけじゃないわよ? フーちゃんが皇国に帰ってきてくれたことを皆、喜んでいるの」
私だけだと、こんな風に騒がれることはきっとなかったと思う。フーちゃんがいるからこそ、皆これだけ喜んでいるのだ。
「そうなんだ……」
「うん! 皇都の屋敷でもフーちゃんが帰ってくるのを皆、首を長くして待ってるからね」
お父様達も皇都でお仕事中だからね。皆、フーちゃんに会えるのを楽しみにしてるの。あとは皇都の屋敷に仕えている使用人達だってそう。彼らに関しては初めてフーちゃんに会う人たちも多いもんね。
私たちがずっとずっと探していた大事なフーちゃんが帰ってきたとなると、皆、湧き立つのは当たり前だもの!
皇都のリュシバーン公爵家の屋敷に辿り着き、馬車から降りる。
「お帰りなさいませ、奥様、お嬢様」
一斉に頭を下げる使用人たち。
フーちゃんがいるからか皆、余計に張り切っているみたい。目を輝かせてフーちゃんを見ている。
フーちゃんは少しぎこちない様子で笑いかけている。
うん、可愛い。
皇都の使用人たちもフーちゃんのあまりの可愛さに頬が緩みそうになっているのが分かる。
貴族の使用人として平然を装っているけれどにやけそうになっているのよね。そんなことを考えると笑ってしまった。
「フーちゃんの部屋に行こう」
「う、うん」
戸惑うフーちゃんに声をかけて、フーちゃんを部屋へと案内する。
フーちゃんが見つかってから早急に整えられた部屋なんだよね! フーちゃんと再会してから知ったフーちゃんの好みとかも十分に反映させているものだって聞いているわ。
「わぁ、素敵な部屋」
部屋に入ったフーちゃんは目を輝かせている。
「フーちゃんが気に入ってくれてよかった。何か気になる点やもっと好みのものがあったらどんどん入れ替えていいからね?」
「こんな素敵な部屋だから、そんなことないよ」
「そんなことを言っても後から何かこれが欲しいっていうのが見つかるかもしれないでしょう?」
私がそう言って笑いかければフーちゃんは「それもそうかも……」と頷く。
「フーちゃん、移動疲れてない?」
「馬車の中で休めたし、大丈夫だよ」
「じゃあ屋敷の中を案内するね」
「うん。ありがとう、ユーちゃん」
私はフーちゃんを連れて屋敷の中を歩く。
その最中に出会う使用人達は皆、フーちゃんのことを優しい目で見ている。涙ぐんでいる使用人さえもいた。フーちゃんが帰ってきてくれたことをこれだけ多くの人が喜んでいる。その事実も、嬉しい。
「ここはね、お父様の書斎」
「わぁ、本が沢山。……でも勝手に入っていいの?」
私がお父様の書斎に案内すると、フーちゃんは少し心配そうに聞く。
「大丈夫よ。お父様がお城にお仕事に行っている間に何度も入っているけれど怒られたことないもの。そもそもフーちゃんは屋敷内のどこでも入っていいんだよ? 誰の許可も要らないわ。だってここはフーちゃんの家だもん」
フーちゃんはまだまだ遠慮しているのだろうなと思う。離れている期間が長かったからこそ、実感がないんだろうなぁと思う。もっと無遠慮に、好きなようにしてほしいなと思ってしまう。
そのあたりは時間が解決してくれるかな?
「次の場所を案内するね。行こう」
「うん」
それから私はフーちゃんを連れて、屋敷中を歩き回った。
ありとあらゆる場所に、それこそほとんど人が訪れないような場所にも連れて行った。ついでに何かあった時の隠し通路の場所も教えておく。
フーちゃんはそういう場所までおしえられると思ってなかったみたいで驚いた顔をしていた。でもそういう情報は公爵家の一員には教えられるものなの。
皇国の中心部である皇都の屋敷で危険な目に遭うことはほとんどないだろうけれど、それでも万が一のことはあるからね。
この屋敷で私たちがどんなふうに過ごしているかとか、そういうことも語りながら歩き回ったの。とても楽しかった。
「私は明日から仕事に戻るから、帰ってきたら何をしたかとか良かったら教えてね」
「うん」
頷きながらフーちゃんは一瞬顔をしかめる。
「どうしたの?」
「……ユーちゃんが皇都で仕事に行くって知ってたけど、しばらくずっと一緒だったから少し寂しいなって」
あまりにもフーちゃんが可愛いから、私は「フーちゃん、可愛い!」と言いながら抱き着いてしまった。
なるべく早く帰れるようにしないとね。