16.空の上から領地を見る ④
花畑を二人で眺めている。こうして一緒に並んで、座って、ぼーっとするのも楽しい。
ユーシュは花畑を潰さないように少し離れたところにいてくれている。ユーシュはそういう所、気遣いが出来るのだ。
ユーシュは私の自慢の相棒だなと思うと嬉しい気持ちになった。
「ねぇ、フーちゃん、この後、しばらくしたら皇都に向かうことになっているけれど、皇都で何をしたいとかある?」
「何をしたいかは、ちょっと想像できないかも。私は……都会に行ったことがあまりなかったの。だからそういう栄えている場所があまり想像出来なかったりするの。でもユーちゃんと一緒に楽しいことが出来ればそれでいいかなって思うの」
「フーちゃん、可愛いー! うんうん、沢山、楽しい経験いっぱいしようね? おじさまへの挨拶と、フーちゃんを社交界にもお披露目しないとね!!」
「お披露目……私、子爵家での教育しか受けていないけれど大丈夫?」
「フーちゃんはね、何も心配しなくていいの。私たちが傍にいるから。ただもう少し休んだらちゃんと教育係も付ける形にはなると思うけれど」
私たちの大切な宝物。
ずっとずっと探していた大切な家族。
そんなフーちゃんに文句を言う存在は全員蹴散らすから問題ないの。
「絶対に私とか、お母様とかが必ず傍にいる形になるから、フーちゃんはね、ただ挨拶されるのを受けていればいいだけだよ。ちょっと失敗してもどうにでもするしね。一緒にドレスも選ぼうね? フーちゃんが良ければお揃いだと嬉しいなと思うの」
フーちゃんはリュシバーン公爵家の娘としてお披露目されることに不安を感じているみたい。
色んなことをきっと考えてしまっているのだろうなと思う。
だけど、そんな心配は一切不要なのだ。寧ろフーちゃんはこれからの楽しいことだけを考えてくれればそれでいいとさえ思う。
子爵家での社交界デビューは、きっとフーちゃんにとって良い思い出ではなかったのだろう。ならば、素敵なもので思い出を塗り替えたい。
「私も、ユーちゃんと一緒のドレスだと嬉しい」
「やった! じゃあ、手配も進めておくね? フーちゃんの社交界でのお披露目はお母様たちが万全のものを準備してくれるはずだから、皇都に行ったら準備をしつつ、遊ぼうね?」
「でもユーちゃんお仕事あるんでしょう?」
「うん。そう、仕事はあるわ。でも勤務時間以外はフーちゃんと沢山遊ぶ時間にするの!」
「えっとセドラックさんのことは放っておいていいの? 婚約者なんだよね?」
私が皇都でのことを話していると、フーちゃんが心配そうに言う。
こうやって私のことを心配してくれているフーちゃんは、本当に可愛い。なんて優しいんだろう。こんなに素晴らしいフーちゃんを幸せにするために私は全力を尽くさないと!!
「セドラックは私がどれだけフーちゃんを大切にしているか知っているから許してくれるわ。でも放置はするつもりはないから、そのあたりはちゃんと時間は作るわ」
フーちゃんのことも、セドラックのことも大切。セドラックはある程度私がフーちゃんを優先することを許してはくれるだろうけれど、でも皇都に行ったらセドラックとの時間は作らないとね。
皇都に居ると色んな人から様々な誘いを受けるけれど、一先ず戻ったらフーちゃんとセドラック優先だわ。
でもフーちゃんがそのお誘いに興味があるのなら、行ってもいいかもしれない。
フーちゃんがこれからどんなふうに生きたいかにもよるけれど、貴族令嬢と仲良くしたいというならセッティングもしたいわ。
「皇都に行ったら、私の友達を紹介してもいい?」
「ユーちゃんのお友達?」
「ええ。私はあんまり社交界に出ないから、令嬢の友人は少ないのだけど……でも数少ないけれど居るの。彼女達ならフーちゃんがパーティーに参加する時に手助けしてくれるはずだわ」
私は社交界にはあまり出ない。だけど貴族令嬢に友人が居ないわけではない。
数少ない友人達にもフーちゃんが見つかったことは手紙で伝えてある。
「会いたい! ユーちゃんの友達なら安心できるから。仲良く出来たらいいなぁ……」
「皆、フーちゃんと仲良くしたいと思っている人しか、基本居ないと思うよ? フーちゃんはリュシバーン公爵家の娘なんだから」
「それならいいなぁ」
そう呟くフーちゃんは、やっぱり色々自信がないのかもしれない。
これまでの暮らしのせいなのだろうけれど、もっとフーちゃんが自信を持てるようにしたいな。皇都に行って、沢山の人に出会ったらそうなるかな?
そんな想像をすると私は楽しい。
「フーちゃん、そろそろ戻ろうか?」
「うん」
それから私たちはしばらく話して、その花畑を後にする。
またここにフーちゃんを連れてこよう。その時は他の家族も一緒がいいな。
子供の頃と同じシチュエーションにしてもいいかも。
私はそんなことを考えるのだった。