12.朝食を食べて、領地を見て回る ⑧
「ただいまー!」
「た、ただいま」
私はフーちゃんを連れまわして、街を見て回った。でもそろそろフーちゃんの体力も限界とのことで帰宅したの。
フーちゃんは屋敷で「ただいま」というのに慣れない様子だった。
早くフーちゃんがこの屋敷をもっと帰る場所だと認識してくれるようになったら嬉しいなと私は思う。
「お帰りなさい。ユーフィレエ、フーフィレエ」
にこやかに微笑むお母様が私達を出迎えてくれる。
「フーフィレエ、街はどうだった? 楽しめた?」
「はい。楽しかったです」
フーちゃんは、まだお母様に対して少し硬い気がする。というかまだまだ私に対しても距離がある。長い間離れていたからこそ、それは仕方がない事なのだけど……それでももっと家族として距離が縮まっていけば嬉しいなとそう思ってならない。
「あ、そうだ。お母様。明日は私、ユーシュに乗ってフーちゃんを空から案内するから」
「まぁ! それはいいわね。フーフィレエ、楽しんできなさい」
お母様は私達を見てにこにこしている。
お母様がこうやって笑っているのが嬉しい。フーちゃんが見つかっていなかった時は、時々悲しそうな顔をされていた。お母様だけじゃなくて家族全員が、フーちゃんは無事だろうかとずっと考えていた。
楽しくて仕方がない時でも……今、この時もフーちゃんは大変かもしれないなんて考えて、心から楽しめない時もあった。
本当にフーちゃんが私たちの元へ帰ってきてよかったと思う。
それからお姉様も混ざって、皆で楽しく話をする。フーちゃんの話をお母様もお姉様も聞きたがっているので、私は聞き役に徹していた。
私もフーちゃんの話を沢山聞きたいしね。
フーちゃんがプレゼントの香水を渡すと、お母様もお姉様も「使うのがもったいない…っ」などと言いながら喜んで受け取っていた。
折角のフーちゃんからのプレゼントだから、使いすぎてすぐになくなったらと思うと少しもったいない気持ちは確かに分かる。フーちゃんはそんな二人に「なくなったらまたプレゼントするから使ってほしいな」と言っていた。
お母様はフーちゃんが家族全員分の香水を買ってきたことを知って、フーちゃんを抱きしめていた。
「お、お母様?」
急に抱きしめられたことにフーちゃんは戸惑った様子である。
「本当にフーフィレエは良い子ね」
お母様はぎゅーっとフーちゃんを抱きしめて笑っている。フーちゃんは可愛くて、抱きしめたくなる気持ちも分かる。
フーちゃんは照れながら、だけど嬉しそうにしていた。可愛いなぁと私は思う。
「私も混ざるわ! ほら、ユーフィレエも!」
お姉様もぎゅっと抱きしめあうのに交ざりたかったみたいで、そう言いながら交ざっている。
私もくっつきたいなと思ったので、くっついて交ざった。
こうやって家族でくっつくのは心が温かくなる。大きくなってからこうやってお母様とお姉様とくっつくことも少なくなっていたけれど、たまにならいいなと思う。
私たちがくっついているのを使用人たちは笑みを浮かべながら見ていた。
それからしばらく会話を交わしていたのだけど、フーちゃんは少し疲れてしまったらしい。
「私、少し疲れたから休むね」
「うん。ゆっくり休んで、フーちゃん。夕飯の時間になったら呼びにいくからね」
「うん。ありがとう。ユーちゃん」
フーちゃんは少し部屋で休むと言って戻っていったので、残されたのは私とお母様とお姉様だけだ。
「そういえばフーフィレエのことで王国が少し騒がしくなっているわ。まさか我が家の娘だとは思っていなかったからと」
お母様がそう口にする。
私はフーちゃんを見つけて、すぐにそのまま連れ出したわけだけど、その後、フーちゃんがこのリュシバーン公爵家の娘だと王国でも噂になっているようだ。まぁ、ガギンは普通に公表するでしょうしね。
「私達と関わらないと誓約書を書いたあの家の人たちは混乱してそう。許す気はないけど」
「ええ。私も許す気は全くないわ。このままではどうしようもないからこそ、爵位返上か、別の者に爵位を渡すかになるでしょうね」
お母様はそう言いながら、目が笑っていない。
お母様も爵位を持つものが変わるなら考えるという所なんだろうなと思う。
私の可愛い双子の妹が、幸せになれるような選択はしていきたいなとは思っている。
彼らは足掻くかもしれないけれど、そもそも特別な所のないただの伯爵家と子爵家でしかない彼らが、私達に何かしようなんて出来ない。
その足掻き方次第では少しはマシなことになるかもだけど、まぁ、そもそもああいう場で婚約破棄なんて言う時点でまともじゃないからなぁと思った。