11.朝食を食べて、領地を見て回る ⑦
フーちゃんと名物の焼き菓子を食べた後、次に私たちが向かったのは見晴らしの良い塔である。これは水害などが起こった際の避難所としても機能する建物なので、高さはそれなりにある。
リュシバーン公爵家の治める領地は水源が豊かである。大きな川が流れているのだ。それは大いなる水の恵みであると同時に、災害の原因ともなりうる。何代か前の当主の時代に大雨で洪水が起こった時は大惨事になったと聞いている。
そういう過去があるからこそ、川周辺は整備がきちんとされている。それ以降、洪水は起こっていないらしいけれど……でも自然というのは何が起こるか分からないものだ。
だからこそそういうことが起こった際の避難所なのである。
「はぁ…はぁ」
「フーちゃん、大丈夫? 私が抱えようか?」
「ううん……大丈夫」
フーちゃんは階段を登る過程で疲れた様子を見せていた。時折休んでいるフーちゃんは、体力があまりない様子だった。
「それにしても……ユーちゃんは元気だね」
「当たり前だよ。私は現役騎士だからね。他の人よりはずっと体力あるよ? 泊まり込みの訓練とかに行くと体力尽くし」
私がそう言えば、フーちゃんはキラキラした目で私を見る。可愛い。
「本当にユーちゃんは凄いね。『竜姫士』の名に相応しいというか……」
「ふふっ、ありがとう。フーちゃん」
私は仮にも公爵令嬢だからこそ、『竜姫士』という名ばかりの騎士だと勘違いしている人もたまにいる。本当に私を甘く見すぎだと思うけれど、騎士隊に所属しているだけで実力は皆無とか思われたりするのは本当に嫌。
過去にそういう風な形だけの竜騎士がいたらしいから、そのせいかなとは思うけれどね。
私はフーちゃんを探すために動きやすい竜騎士になることを選んだわけだけど、ちゃんと入隊試験を受けて、実力でもぎ取ったものだもの。
寧ろおじさまたちにももしコネで入れようとするなら嫌いになるって、言い放っていたわ。皇国所属の竜騎士隊だからこそ、正直コネ入隊しようと思えばできる立場だ。でもそんなものを私は求めていなかったから。
勘違いで突っかかってくる新人もいないわけではないけれど、全部、実力で黙らせている。
フーちゃんの体力を見ながら、ゆっくりと上へと登る。
一番上まで登ったころには、フーちゃんは息切れを起こしていた。椅子に腰かけてもらって、水を渡す。ごくごくと、フーちゃんはそれを飲む。
私はフーちゃんのことを幾らでも甘やかしたいと思っている。フーちゃんが言う言葉なら何だって頷いてほいほいいうことを聞いてしまいそうだと思う。もちろん、問題行動だったらやらないけれど……。でもフーちゃんって今回のこともそうだけど、あんまり甘えようとしないんだよね。
自分でやろうとしていく強さがあるというか。流石、私のフーちゃんだなとは思う。
そもそもそうでなければ――育て親たちが亡くなり、大変な状況下にあった時に前向きに生きられなかったと思う。大変な状況に陥って絶望していたら、自ら命を落としていた可能性だってあるのだ。
……フーちゃんがそんなことにならなくてよかった。フーちゃんが生きていてくれてよかったとそう思ってならない。
「フーちゃん、立てる?」
「うん」
少し休んだフーちゃんに手を伸ばし、立ち上がってもらう。
そうして、そこから見える光景を見る。
「ほら、フーちゃん。ここからだと街が隅々まで良く見えるでしょう?」
「うん。凄く綺麗な景色」
「竜に乗って見下ろした時にも、綺麗に見えるように整備されているんだよ」
竜騎士の家系だからこそ、上空から見える情景もよく見えるようにしてあるのだ。私も竜に乗って帰ってくる時、街を見下ろすのが好きだ。
「そうなんだ。……此処に来る時、街の景色まで見る余裕なかったな。竜の上から見ておけば良かった」
「見たいなら、また乗せるよ? 街を良く見えるようにぐるりっと一周する?」
「ありがとう。乗りたい」
「じゃあ、屋敷に戻ったら竜に乗ろうか。あ、でもフーちゃん、今日は色々見て回って疲れた? 明日にした方がいい?」
私は体力が有り余っているけれど、フーちゃんはこうして色々と見て回って疲れているのではないかと思った。
「うん。明日がいいかも……。ごめんね、私が体力無くて」
「謝る必要はないわ! フーちゃんの健康の方が大事だもの」
私がそう言えば、フーちゃんも笑う。
「ねぇ、フーちゃん。あれがね、私達の屋敷ね。で、あっちが――」
私はそれからフーちゃんに、街のことを説明していく。
私にとって生まれ育った街。
竜騎士として働き出してからは皇都住まいだけど、ここは私の大事な故郷。それをフーちゃんに沢山説明出来ることが嬉しかった。