10.朝食を食べて、領地を見て回る ⑥
「リュシバーン公爵領で一番の名物と言えば、竜なのだけど……。小麦粉や牛乳、あとは林檎なども有名なのよ。だからこういった竜の姿を模した焼き菓子が有名なんだよ。ちなみに中には林檎のカスタードが入っているの!!」
私がそう言って笑えば、フーちゃんもにっこりと笑う。
私達が今いるのは、有名な焼き菓子のお店。私が里帰りした時は、職場の皆にここのお菓子を持って行ったりよくするのだ。
「美味しそう」
「実際に美味しいよ。買って食べようよ」
「うん。ちょっと他のお菓子も見ていい?」
「もちろん。フーちゃんは甘い物とか好き?」
「うん。大好き」
私の問いかけに、フーちゃんがそう言ってにっこりと笑っていて可愛いなぁと思った。
私はフーちゃんがこうやってにこにこしているだけで本当に幸せな気持ちになる。だって私の大切なフーちゃんが笑っているんだよ。
私も甘い物は好きなので、お揃いだと嬉しくなる。
離れていた分、一緒のものを見つけるとより一層心が温かい気持ちになってしまう。
このお店には前から時々来ていたから、店員とも顔見知りである。私が散々、フーちゃんのことを探していたことを知っているからか、「よかったですね」と感涙していて……私ももらい泣きした。
「ユーちゃん、これも……ってなんで泣いているの?」
お菓子を見ていたフーちゃんは、私が泣いていることに慌てた様子を見せる。ポケットからハンカチを取り出して、私の目元にあててくれる。フーちゃん、優しい!
「フーちゃんが本当に見つかってよかったなと、もらい泣きしちゃって……」
「えー?」
私の言葉にフーちゃんは困惑した表情で、だけど、小さく笑った。
私のフーちゃんへの気持ち、凄く重いものだと思う。なんていうかずっと会えなかったから、私はフーちゃんに対して色んな感情を抱いているのだ。
あまりにも重すぎてフーちゃんに引かれてしまわないかと心配になる。
「フーちゃん、重いからって……引かないでほしいな」
「え? 引かないよ? 寧ろ、嬉しいなって。……私、血のつながった家族なんていないってずっと思っていたから。だから、ユーちゃんたちが私のことを大切に思ってくれていると実感するだけで、嬉しいんだよ?」
フーちゃんがそう言ってくれたのが嬉しくて、そのままフーちゃんに抱き着いてしまった。
「フーちゃん、私はフーちゃんのことが大好きだからね。お母様たちだってそうだよ。それにおじさまたちだって。リュシバーン公爵領の領民たちだって皆、フーちゃんが帰ってきたのを本当に本当に喜んでいるからね?」
何度めか分からないことを、私は抱き着いたままフーちゃんに告げた。
私に抱き着かれたフーちゃんが耳元でくすくすと笑っていた。そしてフーちゃんを話した後に店員にも問いかければ「もちろん、フーフィレエ様がご帰還されて嬉しい限りです」とにっこりと笑って言ってくれた。
それからフーちゃんが気になったお菓子を全て購入する。だってフーちゃんが欲しがっているなら全部買うべきだよ?
「ユーちゃん、こんなに買っても食べられないかも……」
「家族で食べて、食べきれなかったら使用人たちに渡してもいいしね」
私は入らなかったら皆にあげたりしている。ついつい買いすぎてしまうことはよくあるからね。でも余剰な分には問題ないと思っている。ないよりは全然いいしね。
私がそう言って笑えば、フーちゃんは安心したように頷いてくれた。
それから購入したものは護衛たちに持たせておく。その後、私達は飲食できるスペースで名物のお菓子を食べることにした。一緒に飲み物を頼んでおく。
その場には若い女性が多い。
やっぱり甘い物が好きな女性が多いからだろうなと思う。
食べる前にきちんと毒物などが入っていないかなどを確認してから食べる。私たちは公爵令嬢なので、もし仮に私達が毒殺されるようなことがあれば大変なことになってしまう。
というかそういうことになれば護衛たちの首が飛んでしまうし、ちゃんと考えて行動しなきゃならないもの。しばらくはフーちゃんの周りには誰かしらの家族がいるとは思うけれど、後から大変なことにならないように色々教えておかないと! まぁ、急ぐことではないけれど。
「美味しいっ」
フーちゃんはお菓子を食べて思わずと言ったように声をあげていた。名物菓子を気に入ってくれたみたいで満足した。
私はフーちゃんにこの領地を好きになって欲しいと思っている。好きな物が沢山増えたら、フーちゃんもここが好きだって改めて思ってくれると感じるから。
「ね、美味しいよね。私もこのお菓子お気に入りなんだ」
私がそう言ったら、フーちゃんも笑ってくれる。
こうやって私がたまに訪れるお店にフーちゃんと一緒にこられるのも、本当にうれしいなと思う。
皇都にいったら、皇都のお気に入りスポットとかも色々フーちゃんに案内しよう。
私はそんな風に思うのだった。