第6話 俺とテストとコーヒー厨 - 6
珍しくOFFモードの姫に遊び心が芽生えているらしいのだが、話が進まんことには俺も身動きが取れないからな。
こちらも最強のカードを切らせてもらうしかなくなるわけだ。
ふっふっふっ。恐れ慄いてくれるがよい。
「おーけー分かった。姫がそういう態度を取るなら俺にだって考えがある」
「……?」
「コーヒーONモードの姫のことを、クラスの連中一同に一から十まで全部バラしちまうぞ?」
「……ッ!?」
お、珍しく顔色を変えてくれたな。
片目だけだが明らかにこちらを睨んでいる。
……そしてまた、おい誰だ。
男らしくない行動だなって思ったヤツ。
正直、ごもっともだと思う。
黄金色の菓子を握らせてやるからどうか今回は見逃してほしい。
俺自身も男らしくないよなって感じてたところさ。
無論、言い訳をするつもりはない。
「………………さすがに、それは反則」
実際この脅しは姫に効果抜群であったようで、机に張り付くような体勢は変わらなかったのだが、鋭く目を細めては俺をジッと睨んできなさった。
この国には〝肉を切らせて骨を断つ〟という言葉が存在している。
あるかどうかも分からない好感度を犠牲にして、俺は何のプライドを守ろうというのか。
何の情報を得ようというのか。
ああ、畜生め。
初夏の空気が今だけは肌寒く感じるぜ。
とにもかくにも、である。
「……分かった。話す。でも、ここでは無理」
どうやら折れてくれたらしい。
微かな音量ながら回答をお返しくださった。
まぁ確かに普通に話せる内容のものであれば、ONモードの時に、それこそテストの前に教えてくれていたであろう。
だったら、俺たち専用のあの場所を使えばいいじゃないか。
体育館裏職員専用駐車場、孤高の眠り姫ご用達、あのパイン材テーブルに、である。
そこなら人目を気にする必要もあるまい。
最近は跡を付けられていないかしっかり後方確認してるから安心してくれていいぞ。
「なら、場所を移すか?」
そうなるともれなく美佳もくっ付いてきちまうかと思うが、その程度は我慢してくれ。
アイツに聞かれてマズい話だってんなら俺だってほとんど変わらないわけだろ?
「……いや、おそらく昼休みじゃ足りない」
目を伏せつつ、彼女はボソリとこぼした。
そんなにも重要な、もしくは深刻な内容なのだろうか。
俺はこのふと浮上しつつある柳有姫天才説についてを軽く考えすぎているのだろうか。
「なら、どうすれば?」
俺は再度彼女に問いを向けてみたところ。
彼女はふっと溜め息気味に息を漏らしつつ、今度は静かに目を開けて少しだけ首を上げなさった。
眠そうな瞳が俺のほうに向けられている。
だが、どうしてだろう。
微かに俺の顔色を伺っているかのような?
「……今週末、ヨウは私の家に来ることになっていたはず」
ああそうか、そういえばそうだったな。
今日は木曜日であるから、二回寝て起きたらもう当日になってしまうだろう。
心の準備をする暇もないはずだ。
いや、むしろ何の準備をしろという。
ええい、動揺している場合じゃないだろっ!?
「……詳しい話はそのときにする。土曜日、朝10時、駅前に集合。分かったら、返事」
「お、おう」
つい気押されて二つ返事をしてしまったのだが。
「……話は以上。寝る」
ついにはプイと反対側を向かれてしまった。
どうやらこれにて今日の会話は終わりを迎えてしまったらしい。
朝10時、そして駅前。
いや、なんだそのデート的な集まり方は。
浮ついた学生カップルならばそのままショッピングモール巡りでも始めそうなら流れかもしれんが、残念ながら帰宅部筆頭な俺たちにはそんな華やかな場所に向かう文化はない。
つい無駄に動揺しかけた俺ではあったが、集合の理由をOFFモードの姫に問い詰めたところで軽くいなされてしまうだけなのだろう。
全て週末に分かる、はず。
何故、こんなにも姫の成績がいいのか。
何故、授業中寝てばかりの彼女がテスト順位の断トツの位置にいるのか。
まだまだ二ヶ月と少ししか築けていない関係値ではあるが、現状、この学校の中で彼女と一番に口を聞いているのは紛れもないこの俺だ。
そんな俺がもっと姫のことを知りたいと思って何が悪い。彼女に直接怒られるまでは図々しくいってやるつもりだ。
とにもかくにも、今日はもう情報を集められるわけでもなく、姫との会話が弾ませられるわけでもない。
……仕方ない。
自分のテスト結果でも見てくるかな。
姫の順位ばかりに気を取られていたが、俺は今回、どの辺りにいたんだろうか。
あのバカ電波金パッツイン小娘よりは上の順位にいることを密かに祈るばかりである。
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