第1話 眠り姫との出逢わない出会い - 3
彼女の酷く眠そうな瞳がこちらを向いていた。
俺は今、彼女のほうを見つめている。
そしてまた彼女も俺のほうを見ている。
つまりは必然的に目が合ってしまっているわけで。
この場を支配する、無言、沈黙、静寂。
何と言い表せばいいんだこの空気感を。
誰も言葉を発しないからこそである。
正直に言わせていただこう。
いやマジでホントに気まずい、と。
「………………何?」
頬を机に貼り付けたまま、彼女は淡々と呟いた。
もちろん俺に向けてのセリフなのだろう。
こういうときに限ってさぁ。
イイ言葉ってヤツは見つからないんだよ。
「あー、その何だ。別に、何でもない」
残念ながら俺は即座に上手い言い訳が浮かんでくるような口巧者ではないわけで。
咄嗟に口から飛び出してきた言葉がコレである。
何とまぁ極消極的かつ抽象的な内容であろうか。
我ながら軽く落胆してもいいところであろう。
「………………見るな。寝にくい」
聞いた彼女の発した言葉がコレであり、その後はわりとすぐに再び目を閉じられてしまった。
なるほど唯我独尊を素で貫きなさっていらっしゃる。
発言の内容とは裏腹に、視線をそこまで気にしてはいないご様子で。
けれども言葉尻に確かな圧があったことだけはビシビシと伝わってきたわけで。
「す、すまん」
中身のない情けない謝罪を並べるしかない俺をいったいどこの誰が責められようか。
こうして対話とも呼べない簡素なやりとりは、時の流れのように呆気なく終了してしまったのである。
後々思い返してみれば、これが彼女との初会話だったのかもしれないな。
彼女との出会い自体は数週前のこの高校の入学式にまで遡る。
あ、別にガッツリ回想に浸ろうとかそんなつもりはないぜ。
ただほんの少しばかり整理しておこうかと思ってさ。
あれは〝ありきたり〟に〝月並み〟をかけて、それをまた〝ごく普通〟で割ったような、これまた取り止めもない高校の入学式だった。
そこそこの田舎特有の、中学の頃と顔触れのあまり変わらない持ち上がり入学。
そんな中、他の中学からやってきた僅か数人に含まれていたのが、この隣に座る眠り姫様だったのである。
――入学式、当日。
真っ先にコミュ力のド高い友人やら顔見知りやら女性陣やらが、他校出身の生徒へと積極的に絡んでいき、
「初めまして! これからよろしく!」
とかいう当たり障りのない言葉だの、
「今日からみんなの仲間だな!」
などという思わず聞いたこちらが恥ずかしくなるようなクサい言葉を投げかけて、いわゆる俺たちの〝中学メンバー〟にイチ早く溶け込めるよう、これまた善意100%の優しいやりとりが交わされていたわけだ。
もちろんそんな善意に助けられてか、件の極数人の面々はわりとすぐに溶け込むことが出来たらしいのだが。
……そう。しかしながら。
件の孤高の眠り姫サマだけは違っていたのである。
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