第1話 眠り姫との出逢わない出会い - 2
彼女の顔立ちには微かな幼さが残っていて。
しかしなから、どこか大人びた雰囲気も纏わせているような気もして。
単なる寝顔とは言い表せない妙な華やかさを感じられてしまうのである。
ほら、顔のパーツの節々に成長期特有の女性らしさがあるというか、つい目を奪われてしまう麗しさが滲み出ているというか、いや何を呟こうとしているんだ、俺は。
……ええい! ままよ。
こよテンションの昂りに乗じて続けさせていただこう。
何より彼女の身体で特徴的なのが、後ろ一本に纏められたその長く整ったポニーテールであろう。
背中まで綺麗かつしなやかに伸びている。
今は机からテロンと横に垂れているだけなのだが。
ほんのり茶髪掛かっているのは地毛なのか、艶やかな毛の一本一本が、教室のボケた蛍光灯の光を適度に反射させてキラキラと煌めいているのだ。
おまけにその雪のような色白肌と相反させるかのようにして、両者の綺麗さを一層際立たせているのである.
もしや色白なのは低血圧のせいだからか、と。
低血圧だから疲れやすく居眠りしやすいのでは、と。
憶測こそドンドンと湧き上がってくるのだが、もちろんのこと俺にはその答えを知る術がないわけなので。
「…………すぅ……すぅ…………」
ただ、見つめることしかできないのである。
机にべたーっと頬を張り付けて、いかにも夢の中万歳むにゃむにゃ祭りを開催させている通称孤高の眠り姫さんや。
この学校特有の女子登校服、簡単に言えば極深緑ベースのブレザーとやらが変にズレていても、はたまた襟元がすっかりめくれあがっていても、全く気にも留めていないご様子なのはいかがなものだろうか。
勝手に解釈してしまえば、寝ている間の身なり服装は完全に彼女の思考外のモノらしい。
そりゃあ夢の世界と現実世界は全く別物ですもの。
寝ながら動けたらビックリ人間の仲間入りである。
まぁ、見ている限りでは、その無防備さこそが彼女の魅力の一つとでも言っておくべきだろうか。
俺としてはイイ感じの暇つぶし兼目の保養にはなっているので、是非ともそのままでいてもらいたいものである。
それにしても授業終了のチャイムはまだなのかね。
いっそのこと俺も彼女のように眠ってしまいたい。
つまらぬ現国の小説の登場人物の心情を考察するよりはよっぽど価値のある睡眠となることだろう。
黒板より^_^寝顔を優先的に見つめること約十数秒。
彼女はなおも眠り続けているらしい。
それゆえに俺も時間を忘れて彼女の寝顔を見呆けていられる。ふふははは、実にありがたい限りである。
……いやいや待て待て。
畜生め、心の中はいい。勝手に緩むな俺の頬よ。
どうして俺は素直に嬉しがってしまっているんだ。
一目惚れしたから、とかいう単純な理由ではない。
実に興味深い寝顔だから、というわけでもない。
ただ席替えで美人と通路を挟んでの隣になれた、そして授業中の暇潰しにちょうど良かった、という偶然が重なっただけなのである。
別に手放しに喜ぶほどのことでも何もないはずなのに。
ああ。言葉では言い表せないこの気持ち。
天にいる神様よ、自分でも理由は分からんが一応感謝しておいてやる。
「……くぅ……くぅ……」
隣の孤高の眠り姫からは、心なしか、線の細い寝息まで聞こえてきている。
これが下品な大いびきと成り代わっていたのなら、即刻俺は担任に席替えを要求しているところだったぞ、うん。
そうだよ、ただ見るだけならタダのはず。
見るだけでも変態のすることだろうが、そんなことは今は関係ないのだ。
俺的には彼女の顔を眺めるだけでももう充分。
昼の白飯、茶碗半分くらいはイケるかもしれん。
よーし、決めた。今決めた。
もうすこしだけ見続けさせていただこうかね。
「……………………すぅ……」
しかしながら。
こんな酷く暇な授業中の、酷く滞った時間の流れの中で、ホントになんとなく、ほんの少しだけ抵抗のようなモノが発生した一一ような気がしちまったんだ。
そう。とりあえず、ホントのホントになんとなく。
俺の見つめている先から、何かの不穏な気配やら視線やらをピリリと感じ取ってしまったのである。
言い表しようのない危機感に一瞬だけ黒板の方に目をやって、けれどもやっぱり気になってしまって。
俺はまた半機械的な動きで……再度彼女の顔の方へと首を向けてみたのである。
すると、だ。