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第2話 ホット缶コーヒーの奇跡 - 6


 急いで振り返ってみると、案の定。


 そこには眠そうなジト目でこちらを見つめてくる眠り姫の姿があったのである。


 多種多様な自動車ばかりがある駐車場に、明らかに異質な存在感を醸していらっしゃる。


 こういうのを紅一点と言うんだっけか。

 いや、車に対してのヒトではおかしいか。


 早速ながら動揺が思考に現れ出てしまっている俺だ。



 見つめ合うことほんの数秒。


 だが、この数秒こそが永遠にも感じられる。

 

 たらり冷や汗を垂らしそうになってしまう俺を他所に、彼女は再びに小首を傾げた。



「………………何故?」


「いや、何故と言われましても……」



 孤高の眠り姫様はその二文字しか知らんのだろうか。


 まるで口から出せるのは最小限のワードだと定められているかのように、必要な情報やら補足やらを全部吹っ飛ばして俺に疑問符をダイレクトに向けてくるのである。


 残念ながら俺の語彙力は思考と感情の両方を簡潔明瞭に言い表せるほど優れてはいないぞ。


 でなけりゃ現代国語の授業を半分上の空で聞いているはずもなかろうて。



「あー、強いて言うなら風の吹くまま気の向くままってやつだな。もちろんどこかの誰かさんを追っかけてきたわけでもなければ、興味心に唆られて出向いてきたわけでもない。そ、そうだよ。全くの偶然だよ偶然。ははっ、はははは」


 とりあえずしょっぱい言い訳やら戯れ事やらを並べてみたが、まさか〝あなたの後ろをこっそりと追ってきましたテヘぺろりん☆〟なんてストーカー紛いな発言など、絶対に言えるわけがないだろ。


 今更彼女の顔色を伺ったところで、何を考えているのかも分からない、版画のようなバチリとハマった無表情を返されてしまうだけさ。


 ……正直に言わせていただこう。


 とんでもなく、居心地がよろしくない。

 今すぐにでもこの場から逃げ出してしまいたい。


 せめてもと申し訳なさげな笑みを返しておくことが今の俺にできる唯一の誠意提示である。


 あー、悪かったよ。

 アンタのプライベートに首を突っ込んだりしちまってさ。


 ただでさえ耳目を集めちまう唯我独眠スタイルを貫いていらっしゃるんだもの。


 そりゃあ、たまには一人で静かになりたいときだってあるよな。


 気持ちくらいは分かるぜ。

 俺も他人からの干渉はあまり好きなほうじゃない。


 ちょっとした興味心にまんまと乗っちまった俺をどうか許してほしい。


 反省もする。この通りだ。



「ってなわけだからよ。ワリィな、邪魔しちまってさ。邪魔者は退散させてもら――」


「待って」


「うぉっ」



 踵を返して、そそくさとこの場から立ち去ろうと試みたのだが。


 なんとまぁ。


 眠り姫ご本人に呼び止められてしまっては、足が動かなくなってしまうのも当然である。


 どうした急に。

 今日はやたらと饒舌じゃないか。


 まさかこの春の空に(ひょう)でも降らせるつもりなのだろうか。


 ここでやったら車通勤の職員勢が泣きを見ることになると思うぜ。


 凹んだ愛車を見て凹む、小さな背中の大人は見たくなかろう。



「……着いてきて。特別に……見せてあげる」



 うおっほん。すまん。


 男は特別という言葉に弱いのだ。

 世の中の真理そのイチである。

 

 

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