エピローグ
「夜美、ミヨ~、起きてくださいっ! 夜美ッ! 遅刻しますよッ!!」
「おわッ!? 己佳?」
自室の扉から、特大音の叩かれた音が鳴り引き夜見は跳び起きるようにしてベットで目が覚めた。
今の…己佳がまたアタシの部屋の扉を思いっきり叩いた音だ。もしかして、怒ってる。
「夜見ッ!」
「わっ、起きてる。起きてるっ!!」
このまま放っておいたら扉を破られてぶたれそうなので、慌ててベットから飛びおり――
「ほら……」
扉を開けて、制服姿で腕を組み不満そうな顔をした己佳へ自分の顔を見せた。
「って、あれ……。制服」
なんで制服なのか?
「あれって、今日ら新学期ですよ」
「へ……? って、あああっ」
「あじゃありませんっ!」
春休みも終わり今日から新学期、本日はその始業式で……。
「忘れてたや」
「もうっ、遅刻しますよ。早くしたくしてください」
言われ、時計を確認して遅刻寸前の時間を見ながら、大慌てで支度を始める。
■
「もう……。リボン曲がってますよ」
「ん~」
「ん~じゃありません。ご飯は食べながらでいいので、早く行きますよ。遅刻してしまいます」
大慌てで着替えて、玄関にて出発の準備をする。
そんな時に、部屋の奥から一人眠そうに目をこすりながら出てくる。
「二人とも、もう行くの?」
「フレデリカ…。起こしてしまいましたね。ワタシたちは今日から学校が始まるので。
フレデリカは明日ですよね。少しは早めに起きて体を慣らしておいた方がいいですよ」
「わかってるわよ……」
そうは言っているもの、眠そうで、ウトウトしている。
「己佳、もう行かないと遅刻するよ」
「誰でのせいでですか」
「え~。もう少し早く起こしてくれない己佳のせいでしょ」
「まったく、アナタって人は…」
「ほら、いくよ。行ってきます。フレデリカ」
「行ってきます」
「いってらっしゃい……バカみたい……」
二人は扉を開けて出ていき、フレデリカは二度寝をしようと自室へ戻っていく。
■
扉を開けて外へ出る。
太陽の日差しが眩しくて目を細めながらも、夜見は天を仰ぎ見た。
「ん~、今日もいい天気だねー」
「そうですね」
出てきた教会を見ると、光を反射するステンドグラスは美しい。
それに心もキレイにされて、二人は歩き始める。
己佳と夜見。二人は教会の孤児院で育ちこうして同じ道を歩んでいる。
■
通学路――しばらくし適当に二人は話して歩いていると、背後から声がかかった。
「ヨミ~」
「あ、華憐に玲愛だ。ごきげんよう」
「ごきげんよう、ヨミ~」
走ってくるなり、華憐は夜見へと抱きつく。
「もう、華憐。あつくるしいよぉ」
「ワタシもいますよ」
「あら、いたのミカ」
「―――。アナタって人はまったく……」
「フフッ…ごきげんよう。己佳、夜見」
「はい。ごきげんよう。玲愛」
「今日は二人一緒のですね」
「まあ、通学路が同じだからね~。腐れ縁ってのもここまでくるとうっとおしいものよ。ね~ヨミ~」
「ん~」
頬で頬をすりすりされる。
「ですから、華憐」
「フフッ――こうしている暇はなくってよ。遅刻寸前ですわあ」
「ああっ……」
「そうですっ、早く行きますよ」
全員で道を駆けていく。
■
『ごきげんよう』
『ごきげんよう』
「もうすぐ朝礼ですから、急いで下さいまし」
学校の門が見えてくると、同じ制服を着た生徒が門を抜けていくのが見えて来る。
その門で、一人立って挨拶をしている子も。
「英里無~」
「夜見さん、ごきげんよう」
「ごきげんよう英里無」
「はい。己佳さんに玲愛さん、華憐さんも」
「生徒会長も大変ですね。新学期そうそう門番とは」
「はい。でも実際は春休み期間中も、新学期の準備とかで登校自体はしてたので、さほど問題でないでのす」
「うっわ、休み中も来なきゃいけないとか、大変」
「いえ、そんなことはないですよ。生徒の皆さんが楽しく学校生活が送れるようにするのが生徒会の役目。それがこうして皆さんの楽しそうにしていらっしゃるのを見ると、疲れなど感じませんわ。
夜見さんもどうです? 今年から入ってみては。会計ぐらいなら務まると思いますが」
「ええ……」
「フフッ――夜見にそんなの任せたら、おかしな出費が出てくるわよ」
「それは確かに、そうですわね」
「えー、これでも数学は得意なんだよ?」
「数学だけだけどね~」
「華憐は余分なことは言わないの」
「うふふっ…」
「ですが、そうですね。正直代替わりしてまだ生徒会長以外の枠が空いているのも事実ですし。己佳さんには副会長。夜美さんには会計。華憐には書記。玲愛さんには広報。と、身内びいきになってしまいますが、推薦したいのは正直なところです」
「アタシなんか推薦したら頭どうかしてると思われるよ」
「確かに。普段の奇行を鑑みるに。かもしれません」
「イタズラのことを奇行っていうな。これでも至高的美学に基づいた芸術を目指してるんだから」
「それで一番被害を被っているのは己佳だから。他の生徒としてはただの面白い見世物がゆえ、悪い意味で二人とも有名なのだけどね」
「ホント、いい迷惑ですよ。夜見がイタズラするたびに呼び出されるのはワタシなのですから。保護者ではないっていうのに。今年は、ほどほどにしてくださいよ」
「え~」
「止めろって言わない辺り、甘いのよねぇ」
そこでチャイムが鳴る。
「あら、いけませんわ。朝礼の予冷が…。では皆様、遅刻する前に行って下さいまし」
そう言って、挨拶をするとみな下駄箱へ走っていく。
■
「さっ、ワタクシも準備を……」
門を閉めようとしていると、外に一人、こちらを見ていたのか生徒がいた。
総ての生徒のことを把握しているはずの英里無にとっても、彼女は初見で子であった。
長い銀髪を春風になびかせて、艶やかな女生徒がそこにいる。
「ごきげんよう。アナタたしか……転校が一人くると聞いていましたが……」
その問いに、彼女は微笑みかけてくれる。
彼女がそうなのだろう。
彼女を向かい入れる。それと共に――
春の優しい風が、新たな物語の始まりの鐘を鳴らしていた。




