第66話 最終決戦 01
「見ろ、この世に残るのは我ら二人のみ。お前が敗北すれば正真正銘、全てが崩壊するぞっ」
「っ――」
弾け合う激烈な刃、黒炎を纏う太刀と大剣が激突し、降り弾かれてわたしは方陣の上へと降りた。
そこは上空というのに物理的な足場となっていて、地上のレンガよりも強固なものだと理解し踏みしめる。
エリザベートの言うこと、そんなことは分かっている。
もうこの世のどこにも生き残っている人などいない。わたしへ助力するために集まったみんなも、おねえちゃんも魂だけの存在だ。
けれど、みんながこうして味方してくれている。ロプちゃんもミカエちゃんもおねえちゃんも。それに、各々目的は異なるのかもしれないけれど、審判者の彼女たちも。
ゆえに彼女たちの想いに答えるためにも、はい分かりましたと諦める訳にいかない。そんなこと、助力してくれている彼女たちへ面目が立たないじゃないか。
だから――
「アナタを倒すっ! どんな想いや理由があっても関係ないっ! わたし達の世界は破壊させないし、この記憶と想いは消させない。
そうだよ……わたし達はもう、あなたの人形なんかじゃないんだからっ!」
足場となっている方陣を踏みしめて、グッと力を入れると跳びだした。
「ならばっ」
そしてぶつかり合い鍔迫り合う。
「お前は新世界に何を求める」
そんなの、知れたこと。
「アナタみたいなのが居ない、みんなが幸せになれる世界」
「世界から絶望すべてを取り除くのは不可能だぞ。
誰かが幸せになれば、誰かがその下敷きとなる。この小さな浮島程度の規模ならまだしも、一つの巨大な世界となるとそれはできん」
「そんなことっ」
そんなこと。
「そんなことないっ!」
大剣へ夢の覇道を乗せて、エリザベートの破壊の法を打ち破り彼女を弾き飛ばす。
サクラメントにより、わたしの覇道は世界へと流れ出て、いまも刻一刻とそれは広がり領土を広げている。それはクリアがやっていたことと同様であるものの、クリアのあれは全ての消去に他ならない。それとは異なり、わたしの場合はわたしの色でエリザベートの破壊という法を、夢という覇道で塗り直している。
夢――それすなわち、わたしの理想で、わたしの願い。
それはみんなの幸せで、同時に膨れ上がった領域全てがわたしの思いのままの現象が起こせる世界。
ゆえに誰一人だって不幸になったりなんてしない。悲しんでいる人がいればわたしがその人を幸せへ導いてあげることができるから。
だからエリザベートの言うようなことなどありえない。
そう信じて。
気合と共に領域がさらに広がりわたしの力がより強固なものになっていく。
わたしの力、エリザベートを倒しみんなを幸せに導く力。願い見て現れるのは、エリザベートと戦うための力の発露である。
身体強化はもちろん、感覚はもはや予測を超えて予言へと。物理法則を無視した強固な得物へと大剣を具現し創りかえていく。その強さは彼女と打ち合うたびに確実に夢を叶える物へと近づいていく。
「ならば、私を打倒してそれを示してみろ」
「言われなくても」
「できれば、だがな――」
「っ――」
今度はエリザベートが切り込んできて、大剣でそれを受け止めると、太刀の刀身からあふれ出る黒炎は燃え盛り、その熱波を警戒してわたしは跳び引いた。
そして、同時――
「………」
太刀の周囲が黒い炎で燃え上がった。その炎はロプちゃんの比ではない、大気どころか空間そのものを燃やして溶かし、消滅と破壊という覇道の法で変えられた世界は燃え去り永劫消え去る。
あのまま鍔迫り合っていたならば、力に飲まれ一緒に燃やされていたのかもしれない。
そう思うと力のすさまじさに生唾を思わず飲んだ。
エリザベートの能力。その力は今見た通り。
フレデリカのようにただ破壊の覇道を垂れ流して砕くだけではない。黒炎となって領域を蝕み溶かし崩して破壊しながらそれを自分の領域へと塗り変えていく。
捕まれば破片などできる間もなく消滅させられ、この世から溶けて消える。究極の闇の焔こそが彼女の能力である。
とはいえ、それに鍔迫り合い拮抗を瞬間的にも起こしたのは事実で、エリザベートの力を感じると同時、それと渡り歩いているという高揚感はそこが知れない。
勝てる。今のわたしとおねえちゃんなら勝機はない訳ではないと。
そうだよね? おねえちゃん。
『ええ』
響くおねえちゃんの声。今この時この瞬間も、わたしはおねえちゃんと融合を果たして二つに分かれた力は一つになっているのだ。
ひとりでダメならおねえちゃんと。
誓った通り、おねえちゃんはわたしを守り、おねえちゃんをわたしは守っている。
「随分と力に余裕があるようだが、それではダメだ」
「何がダメって言うの?」
太刀を構えなおして、エリザベートは薄ら笑うとそう言ってきた。
「サクラメントとは覇道という法則を広げ領域を創り理想の世界を作り上げること。それはつまり、この世界に接続し森羅万象三千大千世界を総べることだが。
それゆえに、同時にこうい恩恵もあるのだよ」
そう言って、練られる神威――瞬間、エリザベートが正面へ掲げた左手の前に、現れた道具にわたしは驚愕し震えた。
「世へ接続した私たちは、この通り――世界の裏側へ治められた勇者の遺物への使用権が与えられる。そして、それらを自由に取り出し扱うことができる。このようにな――
その呪いはついえず、そして邪悪。マガツの写し見――」
「ロプ、ちゃん…」
その手に有ったのはロプちゃんの本体。地獄の川の氷水を吸った呪いのぬいぐるみ。その力は、不幸の体現。つまりは、わたしが思う一番イヤな現実が巻き起こるという凶悪極まりない力であるが。
力が起動し、膨れ上がる呪いの奔流。
ぬいぐるみから黒い靄のような物が染み出て、わたしへゆっくりとだが周囲を埋め尽くし逃げ場を消すように広がり迫る。
「これの力は、忌避、絶望の具現。触れれば今のお前はどうなるだろうか」
それは――
『大丈夫だって』
『ふっ――エリザベートも面倒なものを出したものね。
もとよりそれは、カレンがどうにかできなかったから、力が弱まるのを願って宝物庫に治めたものよ。狙い通り弱まって全盛期ほどではない以上、そんなものに意味は無いわ。
それに――』
『前のアタシ程度に負けるわけがない』
『そういうことよ』
「黄泉下りて千人絞め殺しいむ――形色せよ降臨、伊弉冉ノ黄泉惨首」
「ここに想ひを産み繋げえむ――形色せよ降臨 伊弉諾ノ軻遇突智ッ!」
「ロプちゃん、カレンっ」
二つの魂がわたしから離れ跳びだし、周囲を覆った負の霧と激突した。
同時に白い輝きを放つと周囲の呪いは四散し消え去る。
それはロプちゃんとカレンの魂も、わたしから抜け落ちて。
「ふふっ、はははっ――」
その光景を目にして、わたしは唖然とし、その様相にエリザベートは頭に手を当て、腹を抱えて笑っていた。
眼前には砕け綿が散らばって輝きと共に消えるぬいぐるみの姿もある。
それすなわち、ロプちゃんとカレンが道具を破壊したということで。
それも、相殺、相打ち……。
それが、それの何がおかしいというのか。
くの字に体を曲げ腹を抱えて笑うエリザベートへ思わず睨みをきかした。
「ふっ、まあそう怒るなよ。
そうか、相殺するか――くははっ。
道具の純度は宝物中でも最上級の代物なのだがな。
まあ――ならば、まずはお前のその周りの魂、順にはがしてやろう」
「―――!?」
笑いを止め、邪悪な笑みがわたしを見ると次に現れたのは、水晶の天秤だった。
「なに……」
「ああ…、これを見るのはお前たちは初めてだったな……」
言った瞬間――
天秤の皿が片方へ傾く。
「それは罪だそうだ」
「うわっ」
言われると同時、水晶の槍が雲より上の遥か天から、わたしの脳天目掛けて空を割りながら超高速で落下してきた。
「っ……うそ……」
それを反射的に躱すと、方陣を抜けて地面へ墜落し、着弾と同時にわたし街は地表ごと粉砕し消し飛んだ。
あとには巨大なクレーターへと街を無残なものへ変えて。
なんてことを……。
「エリザベートっ!」
「そう怒らんでくれよ、いまの起きたことは全てお前の責任だぞ?」
「わたしの責任? ふざけなでっ!?」
「ふざけてなどいおらんさ、この道具はお前が創り出した人形の元々の部分だぞ? それをどうこういうのは、友人に失礼ではないのか?」
「それって……」
『リア、あれは、あれこそがワタシです』
ミカエちゃん? ミカエちゃんの魂が一人でに現れて鎖を展開する。
「この道具の力は言うまでもないだろう。罪の断罪。お前の中に少しでも悪いと思う心があれば反応して、その罪にあった罰が下るぞ。
このようにな――」
天秤が揺らめいて再び片方へ傾く。
『そうはさせませんわぁ』
だが、傾ききる寸前、わたしからもう一つ魂が抜け出て彼女はミカエちゃんと同じく鎖を展開するとそれを天秤の皿へ向けて飛ばし弾き飛ばした。
レア……!?
抜け出したのレアだった。
「だが、秤が壊れれば無条件で傾くぞ」
『ならば――』
待ってミカエちゃん、それを壊しちゃ。だって、それミカエちゃんの……。
『構いませんよ、今のワタシはリアが産んでくれたもので、あんな禍々しいもの何かではありませんっ!」
ミカエちゃん鎖が、残った天秤の逆方向の皿を穿つ。
『レアッ』
『アハハッ―― 愚者よ、壊れて泣き叫びなさい 降臨――愛情にまみれて残留する(チェイテエルジャベート・レジドユアル)』
レアの力が駆動する。
瞬間、二人の鎖が創った天秤の傷跡がレアの力により大きくなり、水晶の天秤が砕け散った。
だが、同時に――
砕け散った天秤から力の衝撃波が広がりミカエちゃんとレアの魂を光と破裂させ消し去った。
「天秤の破壊もまた罪だ。共にいったな……」
「エリザベート、あなたよくも二人をっ!」
激昂し、大剣を握りしめて駆け出し振るう。
「友を思いすぎたな。それで冷静さを欠いていては生き残れんよ」
「っ――このっ!」
大剣は受け止められて、弾かれるとわたしはもう一度振り下ろすが、それは避けられてできた隙をエリザベートは逃さない。
「劫火よ――」
こちらへかざした左手の前に方陣が現れて焔がそこから生まれ放たれる。
迸る黒炎と超高速の恒星も及びもつかない熱の塊。
よけられない――なら、覚悟を決めろ。
「くあぁぁっ」
防御の姿勢を取って直撃するも。
「耐えて…」
「耐えさせはせんよ」
「ぁ……」
焔を受け去った後にエリザベートが目と鼻の先におり、振るわれる太刀に冷や汗と共に全身毛穴がそうけだつ。
黒炎を纏い振られる太刀。それを受けてわたしの総身が破裂した。
そう、思った。けど――
「ほう」
フレデリカ……。
破裂はしていたが、わたしはなんともなく。その音の元はフレデリカによって起こされた破壊の覇道の余波だった。
大斧状態のフレデリカが太刀と打ち合って、破壊の覇道同士がぶつかり合ってわたしを守ってくれている。
『バカみたい……』
常通りの言葉と共に、その黄金の身を輝かせる。
「フレデリカ、お前にはこれが相応しいだろう?」
言って、エリザベートの左手に顕現し握られたのは巨体な白と紫の大剣だった。
『月夜の大剣……』
「友と共にゆくがいい」
太刀を右手に大剣を左手に二刀振るい弾き、横一杯に振るわれた大剣。大剣を見て瞠目していたフレデリカは瞬時に対応する。
『くそがっ、砕けっ! 形色せよ降臨――月に導かれし大斧の幼女!!』
「きゃっ――」
独りでに動く黄金の大斧はエリザベートの大剣と打ち合って、一振りを交えた瞬間。その余波で周囲を吹きすさぶ。
そして、それは共鳴しているかのようで――たった一撃で互いに刀身へとヒビが入り耐えられず崩壊し、銀粉へと塵ゆく。
今の一瞬で何が起きたのかわからない。
とてつもない力のぶつかり合いが起きたというのは理解できるが、その力の源がなんなのか。わたしの世界(常識)を超えた異界のそれは知覚はできても認知はできない。
だけど、これでフレデリカは……。
彼女の魂はみなと同じく消失していた。
「よくも……」
これで残りはおねえちゃんだけ。みんなの魂はもはやこの世にはなく、わたしの知らないどこかへと消え果ててしまっている。
エリザベートの言った通り、わたしの周りのみんなの魂は剥がされて、わたしの自身の守りが薄くなっているのを感じる。
■
「残るは一つだぞ」
「くっ――」
太刀を振るい打ち合って。残りの魂を盗み見る。残るはリアと同化しているリムのみ。それを剥がせば丸裸となり我が総力には耐えられまい。
とはいえ、あれを守る魂のリムは私の力の写し身そのもの。
エリーゼは元をたどれば私と同一個体で同一存在。性悪と性善の二つが分かれて生れたがためにエリザベートとエリーゼという存在に収まったに過ぎない。
ゆえにエリーゼも私の悪なる力を持ち得ているし、私もエリーゼの善なる力を一部とは言え持ち合わせていたから表裏一体ではあったのだが……。
私の写し見であるこいつもエリーゼとまったく同じ存在。その上、エリーゼにより私の力は盗み取られている。あの時、城で、狙ったのかどうか分からまいが、その行動による恩恵はすさまじい。
奪った力は満ちていなかった性悪の力を満たして、かつて二つに割れた私達は、別の存在として今目の前に復活させた。
だが、それは未だ不完全。
ならば――
「お前たちを破壊するには、私の覇道そのものが相応しいっ」
両腕を広げて、高らかに。浮遊する太陽へ笑みを向けて言い放った。
「太陽が…」
同時、力に引き寄せられて動き始める黒の太陽。
お前、私が世界を牛耳るに相応しいとは思わんのだろう。ならば躊躇なく壊せよ、なに油断ばかりして周りに助けられてばかりいる。勇者ならば少しはカッコいいところを見せてくれよ。
失望させるな、力をかした友(審判者)らを道化にさせないでくれ。お前がいたから彼女たちは前へ踏み出すことができたのだぞ?
ああ、分かるさ。辛かっただろう、痛かっただろう。悲しかっただろう。私を許せんだろう。
ならば超えよ。夢を謳うならば、お前がそれを実現できると見せてくれよ。
私も踏み出そうと思うのだから。
ゆえ――落ちろ。
今より世界は消滅し、この太陽の落下を新世界の産声とする。
「避ければその時点で世界が崩壊し、総べて無へと巻き戻るぞっ」
■
落下を初め、太陽の引力に引かれて巻き上がる星屑たち、それらは浮遊し空(太陽)に導かれて近づきすぎたためにその熱で燃え消え去っていく。
「このっ……。おねえちゃんっ!」
『ええ、これは、これだけは止めないと』
この太陽が落ちれば総てが終わる。それはわたしもおねえちゃんだけではない。世界も破壊されて再びエリザベートの試練の循環へと巻き戻ることになる。
そんなのは絶対に阻止をしないといけない。
力を振り絞り、夢を駆動させる。
共に大きく飛翔して、大気圏を抜けて大気を黒く燃やしながら墜落する太陽へと立ち向かう。
「っ……」
迫りくるはエリザベートの覇道そのもの。世界を破壊しリセットするというエリザベートの覇道の法そのものの源であり、力の度合いは凄まじい。
彼女と同等の領域まで上がって、夢を駆動し神体となった身でさえ、感じる熱と重圧は凄まじく、近づくほど肌はひりつき体が潰されそうになる。晩年数千年単位で勇者を願って壊れかけの世界を維持して続けてきた彼女の想いは、それほどまでに何よりも強く、わたしだけでは到底超えられないほどのものであろう。
このまま行けば、太陽に触れる前にその意志に飲み込まれて潰されてしまう。
だけど――
わたしは一人じゃない。
みんな逝ってしまった。わたしの落ち度でわたしを守るために、この身からはがれて魂はどこに行ったのか分からない。
それで――
どうしても――
「負けられないんだからあああぁぁぁっ!」
わたし一人の想いではどうにかならなくても、例え魂がわたしから離れようとも。今この時は絶対にみんなの気持ちは一つだから。
妨害する圧力へとおねえちゃんと大剣を突き立てて拮抗し、圧力の中を流星していく。
『そう、負けてはなりません。お嬢様を呪縛から解き放ってくださいまし』
「クリア……」
わたしの魂に共感してか、ずっと奥底で眠っていたクリアの魂が呼び覚まされ、ここに復活を果たす。
彼女の魂が太陽へ突っ込むわたしよりも先行し、吹き荒れる太陽風の盾になる。クリアの覇道は総ての奇跡を無効にする。それは魂になった今この時も駆動しており、周りの奇跡を消滅せしめるが。一つ、わたしと戦った時と条件は異なっていた。
それは、わたしへの絶対共感。それによってクリアの能力の対象からわたしは除外されていて、事実上この世界でわたしの能力(奇跡)の否定はされない。もはやいま、わたしの存在はクリアにとっては奇跡ではなく、わたしが結び掴んだ必然の力という認識となっている。
先行するクリアが近づく太陽の力を総て無効と化して、わたしの突入は楽なものとなる。
けれども、クリアが抑えている太陽の覇道。それはエリザベートの芯のなる覇道そのもの。それは波半端なものではなく、例え同じサクラメントでも拮抗は難しい。
結果――
『っ……ワタクシが手を貸せるのはここまでです』
「クリアっ!?」
先行するクリアの魂がエリザベートの覇道に押し負けて削れ、薄れゆく。
「ありがとう」
そして消え去り――同時にわたしとおねえちゃんは到達する。
「おねえちゃんっ!」
「リアっ!」
魂状態に分離していたおねえちゃんが実体を持って顕現して。
それから共に――
「はああああああああああああっ―――!!」
「あああああああああああああっーーー!!」
落ちる黒い太陽へとそのまま突撃して、二人で大剣を突き入れた。
拮抗し、太陽風が吹き荒れる。覇道と世界を覆い広がっていた神威が悲鳴を上げて暴れまわる。それをわたしの夢の覇道で消滅を願い削りゆく。
迸る残光は遍く星々のごとく。穴をあけ砕けた覇道が散って。太陽の内部を突き進むわたしの夢は中核へとついに届き、
「こんなものに――」
「負けて――」
「「たまるかーーッ!」」
こんな破壊なんていう法に負けてたまるか。
破壊なんか否定して、わたし達が笑顔で笑って居られる世界を願い、その思いがついに怨嗟と苦痛の根源であるエリザベートの太陽と化した神格を打ち砕く。
「やった……」
黒い太陽を貫通し、遥か天へと突き抜けたと同時に大爆発を起こして太陽は消滅四散する。巻き起こる破壊の光は周囲を吹き飛ばし、表面的ではあるがわたし達の世界を傷つける。
けれど、消滅は免れた。
それはつまり、まだ世界の巻き戻しと不完全な再生はまだ起きていないということ。
そして――
「まだよ、リア」
「うんっ! 分かってる」
おねえちゃんに言われるまでもない。
破壊したのはまだエリザベートの芯たる覇道より出た太陽のみ。
中核を破壊しても、エリザベートが消えたわけではない。想いを沸かせ流し続けられる彼女がいる限りこの太陽は再び現れる。
ゆえ――
「おねえちゃん」
「リア」
大気圏を抜けて互いに世界から飛び出ており、浮遊した体が離れないようにわたしは左手を、おねえちゃんは右手を繋ぐ。
そうして同時に持つ大剣を振り上げ一つに重ね合わせる。
わたしの力はエリーゼとエリザベートの二つが分かれてできたその象徴のようなもの。それは存在だけにならず、運命も、力も、彼女たちの存在を体現している。
それはつまり。わたしはエリーゼを、おねえちゃんがエリザベートの力をもっており、分かれた二つは不完全だということ。元々はわたしはエリーゼとエリザベートの日記。それが道具として日記の再生という力を体現したことが原因で、おねえちゃんを夢と産んだのがこの運命を生んだの始まり。
だから――
分かれた魂を今こそ一つに。
完全な融合を果たしてしまえばわたしはわたしじゃなくなるかもしれない。おねえちゃんもおねえちゃんじゃなくなるかもしれない。けれど、例えわたしやおねえちゃんじゃなくなっても、二人の思い合ってる心は消えないはずだから。
「………」
溶け合っていたのが心だけではなく、魂も、存在全ては一つになっていくのを感じる。
怖くはない。むしろ、今まで以上におねえちゃんと通じ合っているのを感じて。
「大丈夫? リア」
「うん大丈夫」
「そう、なら――」
『一緒に行こう』
今ならはっきりと分かるよ。おねえちゃんがわたしのことをすっごく思ってくれていること。わたしもおねえちゃんのことをすごく大切に思ってる。
重なった大剣が二人の融合に合わせて一つへとなる。
片割れだった剣は一つになって、聖と悪どちらの属性も持った明日を紡ぐ夢の結晶と出来上がる。
けれど、わたし達はそのまま。二人とも確かに一つの存在となっているはずなのに……。
「これ……」
「きっと、リアの夢が通じたのよ」
「わたしの願い……」
「一緒にでしょ?」
「うん!」
「じゃあ」
さあ――いこう。
頷き、大気圏外から空を蹴って、今度は遥か世界の外、天空からまなじりを向けるエリザベートへと、一振りとなった大剣をおねえちゃんと共に握って落下する。
「「エリザベエエエエエエエエェェェェトッ!!」」




