第65話 最終決戦前
見事。そして至ったか。
もちろん、私は最初からクリアを打倒すると思っていたよ。
泥臭い戦いを見ていたエリザベートが、その行く末に満足し、同時――嘲笑い超越の力を振りかざす。
もはやここまで来て引きこもるなど白けたことなどしない。
待ちわびた、待ちわびた、待ちわびたぞ。
試練を超えて覚悟を決め、お前の心は絶望と夢の果てに何を見出したのか。ああ、それが知りたくてたまらない。破壊された世界を戻すために起こした試練は幾数千、ここに私の願った勇者がようやくなった。あとはそれがこの世界をになう次の代として本当に相応しいか、それをこの目で見定めるのみ。
「無論、加減などせんよ」
そんなことをして譲ったところで、私に劣る時点で世界の再構築と維持は不可能。よって見定めるとはなるものの、結果として超えてもらわなければ困る。すべての消滅という終焉を望んでなどおるまい。
お前が破壊(私)を壊せぬというのであれば、私がお前を壊すのみ。
ゆえに――ここまで来いよ勇者。
「我が総力をもって、この世の業を教えてやろう」
血色の月を背に遥か天へ降り立って、方陣が足元に広がり片手を振るうと方陣の線が幾多もの図形を作り階段を作り上げていく。
まなじりをけっしてこちらを睨む己が敵へと。
「来い――まずはその力、私に見せてくれ」
■
そう、これこそが正真正銘、最後の勝負。
残るは魔王エリザベートただ一人。
みな、わたしと共に並び立ってくれている。そんなみんなに答えるためにも、こんなところで負けたりなんかしない。
「そうだよね、みんなっ」
瞬間、天へと続く階を、大剣を顕現し握りしめて、わたしは超疾走で駆けあがっていた。
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そうだこい、それでいい。
まずお前たち(・・・・)が本当にこの破壊を受け止めきれるのか見せてもらう。
加減はない全身全霊。それを打ち砕けなければ話にならんし、乗り越えられねば破壊の身たる本身と打ち合うなど不可能。ああ、だから期待は裏切るなよ勇者よ。
広がり、砕け燃え、破壊しつくせ。我が破壊の夢よ真なる姿を現せ。
ここに、魂を謳った詩が唱えられる。
「道具の価値、それはかの日、試練となりて現れしめすことになるだろう。
主は火の中に現れ、そなたらの価値をその火によって試される」
紡がれる唱と共に紅き月は鳴動しその赤さと黒さを濃くしていく。そうして膨れ吐き出す覇道は黒い煉獄の焔となり、月は黒い太陽となり替わる。
そこから放たれる数億もの黒の焔が、天から挑戦者目掛けて降り注ぐ。それらは全て破壊の法を交えたもの。一撃一撃が恒星そのものであるが。
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だから何だというのか。もはや、わたし達にそんなものは通じない。
「夢は広く無限に広がり溢れ出でるもの。
それは記憶の結晶であり私の経験が理想と芽吹く」
そう、理想と夢とは全て本人の経験と記憶から起きるもの。破壊、消去などされればなにも夢は起きない。
だから――
「記憶や、思い出があるから人は想いを燃やせるんだ」
「そして、それが人を人とたらしめてより強くする」
『だから絶対に破壊なんてさせないっ!』
ここに、記憶と存在の代弁者は二人。
ロプちゃんとカレン、二人の魂が夢から再び現れて、無数の焔を薙ぎ払う。
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「道具の価値、それらはかの日、試練となりて現れしめすことになるだろう。
主は火の中に現れ、そなたらの価値をその火によって試される。
火に耐えねば、試練を受けたものをはその報いを受け。もしもその試練で焼ければ損失を受けるが、お前たち自身は火を通るようにして救われよう」
焔よ焔。まだ、燃え盛り試練となせ。救いが欲しいのならば耐え超えろ。
試練はまだこんなものではない。その重圧に耐えられるか?
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「どうか聞きてほしい、理想をいまこそアナタに伝えたいから」
そんなこと言うまでもない。
その程度じゃわたし達は止められない。一人で耐えるのが辛いなら、辛いって言えばいい。言って、誰かと一緒ならば。
だから理想は、わたし達はこの程度でくじけない。
そうでしょ!?
「アハハッ――そう。伝え、まずは訴えかけることが大事」
「本音で語り合うからこそ通じ合い、共になせるのです!」
残っていた数万にミカエちゃんとレアの二人の魂が顕現し、共感し想いを訴えかけるかのように鎖が無数に飛び交って絡み合い残りを打ち払う。
すべての焔が消失する。
道は見えた――だが
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「そして道具よ、主に逆らうことなかれ。
言葉で人の子に逆らう者は許されるが、言葉で精霊に逆らう者はこの世においても来世においても許されることはない」
足りぬ、足りぬぞ、真に道具として反逆を真に翻すというのならば、より絶対を超える力を示せ。
でなければ、永遠の苦しみを受けることになる。
「祈り、願い、試されられる」
焔の炎弾が消え去った次には、巨大な太陽から摂氏数億度の灼熱の熱風が吹きすさぶ。
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「だから一緒に願って欲しい、私の理想と夢を、それは輝ける未来の創造だから」
最初に願ったように輝ける明日へと。そうだよねロプちゃん、ミカエちゃん。
そのために、こんなものへでもない。
それに、わたしたちはもうみんな道具なんかじゃない。
「そうです。リアが繋いでくれたこの魂はアナタの人形なのではない」
「アタシらはアンタの願いの為じゃない、リアとアタシらの願いの為に生きてるんだ」
「ミカエ!」
「はいっ、ロプトル!」
「道はワタシたちが開けますっ!」
「道はアタシたちが開けるっ!」
再度顕現した二人の魂が先行し、二人は灼熱の暴風から守る盾となる。
二人とも…。ありがとう。
熱波を切り抜けると同時、二人の魂もまた一時的にその場で光と溶け消失する。
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「されど、いたりしとて、死者の蘇りを願わなければ救いは無益で空しく。
敬虔に眠りに入った者たちへ、無情な報いが準備されおろう」
超えたのは所詮は覇道の前身にしか過ぎない。森羅万象司るその力これより先が真骨頂。ゆえ、であれば真なる神威は人に至ったとして、そう簡単に超えられぬものではないぞ。
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大気が鳴動して、黒い太陽が炎を放つ。それは先ほどよりもどす黒く、紫に光る魂。この世界にいた人達の嘆く塊のようにマイナスな感情の詰まったもの。一撃で数億個の焔ほどの威力があることは瞬間的に理解できた。
けど、そんな力なんかに負けやしない。
「アナタの為ならば、この身を焦がそうとも願い叶えられる」
悲しい思いを度返しするぐらいに、二人の想い、はせる気持ちは軽くない。
「バカみたい。今回だけよ」
「ええ、そうね。これも今回だけ」
『でもっ』
顕現した魂はおねえちゃんとフレデリカ。
おねえちゃんが大斧となったフレデリカを強く握り。降り落ちる災禍の焔へと向かって大きく振りかぶる。
「あたしが認めた奴のために、この程度に負けてられないっ!」
「私のリアのために、この程度で負けてられないっ!」
呆れるほどすれ違う重い想いは、違う方向を向いていても、そのどちらも一途な重く強い想いなのだ。だから一つになればとてつもなく圧倒的な神威でも容易く屠る。
振り下ろされた大斧は見事、災禍の焔を瓦割と両断させた。
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「聖い信心深く考え。その為に我はかのものの為の償いの生贄を捧げ、罪から解き放つ。
かの者、主の試練。
いまこそ火を通り、救われよう」
いいぞ――しかと力を示した。ならば来い。
始めよう。これよりは正真正銘、最後の決戦を。
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「夢は夢で終わらせるなんてしたくないから。だから力を貸して欲しい」
これが最後、負け足りなんかしない。
わたしたちは、明日を夢を見て試練を超え未来へと行くために。
「幻想を現実に夢を叶えるために。今こそ力を合わせて。一人でできないことでも一緒なら。不可能はないから。
さあ――だから始めよう。夢への第一歩を」
おねえちゃんっ!
リアっ!
大斧を放し落としたおねえちゃんが大剣を顕現させて、駆け抜けるわたしと共に並び一体となり構える。
『秘跡っ!!』
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「煉獄より始まる(カサルティオ)―――」
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「理想の夢へ(エーディイデア)――」
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「人形劇」
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「語るは試練を超える我らの物語(オミリア ディシアム ノースヒストリア)!」
ついに駆け上がった頂上で、刃はぶつかり合い最終決戦の火蓋は切って落とされた。




