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第59話 リム対フレデリカ決戦 01

 風をまいて空撃は走る、刃と刃が交差する。

 弾ける剣劇の調べが煌めき合い、乱れ咲きながら空間を彩る様はさながら花吹雪のようだった。


 余波のみで荒野が砕け散る破壊の黄金光は、打ち合う大剣と大斧から生れた爆薬。ここには破壊の力しかない。間違いなく、滅とした法が渦巻きぶつかり合って弾け合う。


 壊せない物が無いとそれを示すかのように、破壊の理がここに二つ。


「っ……」

「気に入らないっ」


 ロプトル、ミカエ、二人が同時に戦いに身を投じた時、リムは既にフレデリカとの死闘へと身を投じていた。


 互いに出せる力の全力。一撃に駆ける想いとその威力は凄まじく力の回路が焼けて切れるほど後先など関係なく振るっている。

 前例として、その威力は最初の試練でフレデリカが見せている通り。世界に被弾すれば一撃で街の三分の一を破滅させる程のものであり、それはフレデリカの想い(力)を投影(コピー)しているリムも同じ。

 リムの力は相手の夢を叶える力。だから寸分たりともズレはなく同じ力量で相手の力を再現できる。結果的にそれは破壊と破壊のぶつかり合いになって、拮抗し皮肉なことに相殺されている。

 この光景、この展開。まさに最初の試練そのものであろう。フレデリカは力を振るい破壊するだけであり。リムは街を守る為に打って出る。そう、つまりそれはあの時すでにリムは一部であろうとフレデリカの力を自身の力でなぞっていたということ、現状は全てその焼き直しにしか過ぎない。


 だが、この先は違う。前回のような受けきれずフレデリカの攻撃が世界へと漏れて周囲が消し飛ぶなどということはありえなかった。


 何故ならば今この場には二人しかおらず、リムの意識を邪魔をする者は居ないから。あの時はレアとカレン二人からの追撃への警戒や、足手まといだったミカエが居た。それらを気にしながら全開で戦うことはできる訳がなく、その結果が招いたのがあの大惨事である。ゆえ、この試練に置いてリムの全開を阻害する要因は有らず。正真正銘、本気の一騎打ちである。


 そしてその結果としてフレデリカは荒れていた。理由はいたって単純。前回のように簡単には行かず、完全な拮抗をしていたからに他ならない。


 周囲の荒野が破裂する。互いに振り下ろした大剣と大斧、触れあっただけで地面どころか大気共々空間を弾け飛ばし、次の瞬間には別の角度で同時に二つの武器(獲物)はぶつかり弾け合っていた。

 それは音速の壁を超えているということで、弾けた剣戟のしぶきに追いつく様相は光にすら達しようとしている連撃であった。


「気に入らない、気に入らない気に入らない気に入らないッ!」


「っ――へえ、なにが?」


 全たる破壊を受け止めて、力に対抗しながら荒れるフレデリカへとリムは余裕を嘯く。

 既に冷静さを欠いているのか、フレデリカの斬撃はハッキリ言って単純だ。それでもなお全てが一撃必殺。破壊そのものが願いであるかのように、振られる一撃一撃は常に殺気と死という圧力(プレッシャー)をかけて来て、受けるたびに死を覚悟する。だから嘯いた。余裕などでは断じてなく、むしろ少しでも弱気が出ればフレデリカの力に飲まれて拮抗などできやしないし、フレデリカとは、これはそういうものだろう。と、リムは理解している。


 フレデリカは荒れているが冷静でない訳ではない。これこそが彼女の戦いの本質。常態であり、つね。単調ゆえに隙はあろう、だが武の技が介入する余地など皆無。小手先でどうにかなるようなものでもないし、そもそもそんな隙を狙うなどという甘さを見せた時点で振るわれるたびに受ける殺意に殺される。だからこれが王道。


 荒れる相手には、強気で。


 受けた一撃をはじき返して、笑みをこぼすようにリムは口もを引く。

 それにつられてかフレデリカの次の一撃もさらに想い(力)を増す。


 その中で、フレデリカはリムの分からないことで終始激昂していた。


「おまえも、こんなバカげた試練も。それに臨むあたしもおまえたちも。他のバカも全部。なにより、こんなことに本気になる自分がぁッ‼」


 リムにしてみれば八つ当たりもいいことであり、彼女としてはそもそもフレデリカが何故こんなにも荒れているのかわからない。戦闘開始前から約束の地に現れた時には既に怒りを露わにしており、互いに目を合わせるや否や問答無用で大斧を巻き割のごとく脳天へ振り落ちてきた。それかずっとこう、振るいながら、バカだの気に入らないなど口走り大斧をヤケのように振るっている。


 とはいえ、それはフレデリカからしてみれば仕方がないことであった。リムは知らないが、こうしてフレデリカが高ぶっている原因を創ったのはクリアとの城でのやり取り。アレは一種の挑発の域を彼女たちの中では超えていた。

 あのやり取り、あの指摘はまさしくフレデリカのこの試練に駆ける想いの真実に触れていたことで、最も彼女が望まない結末を先として下されて居たから。何よりも大事な想い、祈り、それを捨て去ってお前は道具として人権も、それを主張することすら許されない状況と命令を運命という線路に当てられ指摘し浮き彫りにさせられたのだ。


 分かっていた。知っていた。だが、それを道具を全て放棄したクリアがいうのは許せないし、例え運命や定めだとしても認められないし、納得できないことには変わりないというのがフレデリカの思いのために、こうやって八つ当たり同然にリムの破壊を祈る。


 そうして高める想いの奔流、同時に放たれた破壊の理たる大一撃は空気を破裂させ大轟音を鳴らし、真っすぐ正面からリムへと振るわれる。


「なら、なんでこんなことしてるの?」


 しかし、爆撃もかくやというそれは大剣で受け止められ相殺され、余波のみでリムより後ろの荒野が塵も残さず数十メートルほど地面に消しさりクレーターを創っただけだった。


「さっきから聞いていると、戦いたくない感じなのだけど、なのにアナタはなんでこんなことを続けてる。戦うのが嫌なら、試練なんか止めて私たちと一緒に魔王を倒そうとすればいいじゃない。 協力しなさいよ、私たちに、本当は試練何てしたくないんでしょ」


 試練などしなくとも、魔王であるエリザベートを倒せばいいのではないかと。

 だから協力して、皆でリアのためにと。


「それが嫌だからこうしてムカついてんのよッ!」

「っ⁉」

 

 激昂したフレデリカが飛翔する。

 依然としてリムは強気を嘯くも、それがあだとなり、いいや、そもそも何故か素の反応速度を超えており、続く振り下ろしの一撃を受け止めることができなかった。

 結果、振り下ろされた大斧はリムの足元へと被弾して地面が崩落する。


 狙ってやったのか破壊の一撃は大地を二つにたたき割り、地中深くまでそのヒビは伸びてて地面は乱雑に破られた紙端のような渓谷を産みだした。

 二人は足場を失ったことでその中へ落下する。

 その深さ、その大きさ、仮にこの世界が惑星であったならば外核まで衝撃を与えているであろう。しかしこの世の真実は天体に有らず、所詮は異界に浮かぶ浮島程度の大地であり、球体でもなければ惑星を形成する地の構造などありはしない。


 落下、落下する。その落下先は何処なのか。数千メートルはるか先は暗闇で視認などできず、その中をリムとフレデリカは破壊の衝撃と共に落ちており、その間にもフレデリカは次の追撃へと出ていた。

 渓谷の壁を落下しながら蹴り飛ばし、先に落ちるリムへと彗星の如く飛来する。


 落下の位置運動力が合わさって、フレデリカ自体のスペックを超えた超高速の動きにリムは無論反応できない。


「くああぁっ」


 飛来したフレデリカはリムを肩口こと腕を切り落として弾き飛ばし、渓谷の壁へと衝突して壊れてできた足場に立残り、リムもまた、弾かれた勢いで反対側の壁へと激突して破壊と共にできた足場へと片腕を失ったものの立っていた。


 そうして二人は底の見えない渓谷の中でにらみ合い、再び飛び出し死闘を再開する。


「っ……」


 とはいえ地上でのやり取りのような相殺は起こりえず、リムが片腕を失ったことはかなりの痛手だ。それによってフレデリカの力を殺しきることはできていない。

 だから二人がぶつかり合うたびに力は相殺されず漏れて周囲をより凄まじく破壊する。一撃ぶつかれば渓谷の壁が割れて、さらに渓谷が重なり合うように出来上がり、さらにぶつかれば周囲は融解するかのように消えてなくなる。

 浮遊する岩々は解け、砂となりその砂さえも塵も残さず分子レベルで破壊される。足場はおろか壁すらも、周囲にあるありとあらゆる物は二人がぶつかり合った後には消えてなくなり、落下をしながら何処までも終着点を見失ったまま破壊しつくす。

 だが、それでも二人は真っすぐ立っている。落下をしながらという現実は変わらないものの、砕け消滅する寸前に壁や浮遊する岩石に飛び乗って跳びだしそして弾き合っている。

 だからその光景は宙の上に立っているようにしかみえず、飛び交う剣戟のさまは切り抜かれた夜空の中で、流れ星が無数に流れている夜空のよう。赤と赤、黄金と黄金。振り落ちる二つの天体同士の破壊は揺るがない。


「こんなことをして、バカみたい!」

「それは私? それともアナタ?」


 強気に出るも、劣勢となったことは変わらず、さらに覇道(ギア)を上げ続けられるのかフレデリカの意志の力はヤケクソ気味に増していく。


「どっちもよッ! おまえも道具のくせに道具のくせに。大体、さっきから知って聞いてるそれがバカみたいなのよ!」


 うねり広がり上がる、それも本来のフレデリカの力量を超えて。

 彼女の力(想い)を完全に投影(コピー)しているはずのリム。それであるのに力の差が生じているのはつまりはそういうことだった。フレデリカはこの戦いで成長している。想いを、渇望を燃やして覇道とし、燃料として、エンジンメーターの数字を限界の遥か先へと回る程に。ゆえにリムはフレデリカを超えられない。リムが有したのはフレデリカの夢(力)そのものだが、所詮は他人のもの、昂らせ、燃やし、回転させる。同じようにそれをするのは不可能。他人の想いである以上、その理由となる芯を知っていてもそんなことはできなし、自分の夢(願い)ではないのだから。それに本気になれというのがまずそもそもの間違いで、その願いが遂げられたところで、リムに取っては何の興味もないゆえに。


 荒れ狂い、周囲にあふれ出る渇望の念。その中でフレデリカは何を思っているのか。



 彼女の理想(想い)それは自分の主だった勇者に扱われることである。

 彼女は道具であり、人ではない。

 今こうしてフレデリカ自身が持っている黄金の斧自体が彼女の本来の姿であり、それを写し見にして武器にしているだけ。こことは違う世界、違う種族。人ではない人智を超えた存在より生まれたその身で、分類的には”人”というよりは道具。他人にすがらなければ生きてはいけず、誰かに使ってもらうことで心に喜びを思う。それは道具として創られた身ゆえに彼女にとっては至極真っ当で当たり前。そもそもが、いかに世の理が変わろうがそういう風にできてしまっている以上、そこは何があろうと渇望は覆せない。

 理屈ではなく、本能的に。存在そのものが道具としてあるがため。誰かに使ってもらわないといけない。誰かに使ってもらいたい。フレデリカの願いとは、根っこの部分はハッキリ言えばそれだけ。


 それだけなのだ。


 フレデリカという大斧が願う想いなど。

 だからこそ強く、願い思う。自分はそんな理に縛られているから。ならばせめても自分を扱う人は自分が選んだ最も素晴らしい人がいい。そうでなければならない。

 そして、自身もそれに見合うだけの道具として居る。ゆえに破壊する破壊だ。フレデリカは所詮は戦争の道具。であれば、そこに期待されるのは破壊という全たる力。愚かにもそう既決したがゆえ、この力、この破壊の理を有しておりそれにふさわしい人は知っての通り一人しかいない。


 勇者。勇者だ。あの人こそ至高のお方。


 だというのに、クリアは試せと言った。見極めろと。フレデリカへ、リムがお前を扱うに相応しいかを。

 それを試せと、この試練で。


 そんなことはふざけている。フレデリカにとって今も所有者は勇者であり、あの人を超えられる者はいないと思っているし、そもそもリムも経緯は違えど道具なのだ。


 リアから生まれた。リアを守る(・・・・・)夢幻(道具)。それに、扱われというのは侮辱ではなくてなんなのだというのか。道具は道具を扱えない。リムが勇者以上でないというのはもちろん。人でもないリムが自分を扱うというのは論外なのだ。

 だから許せず激昂し、より力の回転率を上げて否定する。


 だが、それでも、彼女の本当の実力というのは実際のところまだ出ていないのが事実で、これより先へと数段階も跳ねあがる余裕すら残しているが、道具ゆえにそれはありえない。道具は使われるものであり、道具が道具を使うなどという矛盾はありえない。


 そして、自分の夢を願い力を奪った時点で知って居ながら問うリムがやらしくも腹が立つ。


「知って居る癖に知らない振りして! あたしのことを覗いたって言うだけでもムカつくのに、それで余裕ぶってなんなのよっ、 おまえっ! そんなにバカにしたいの、ふざけんじゃないわよ!」


 そうやって咆哮し地底を爆散しながら荒ぶる攻撃は、涙ながらであり、彼女の頬を伝って離れた水滴が破壊の圧力で割れて弾け飛ぶ。

 大きな一撃がリムへと正面から入るのと同時で、真っすぐ渓谷の深淵へと突き落としてゆく。


「くっ――。別に、アナタのことがどうとか、興味ないもの。

 そう、手一杯なの。私には、あの子のとだけで手一杯なのよっ!」


 渾身の力を叩きつけられてなお、諦めるでもなく負けを認めでもなく。リムは片手で抗い、自身の力を発動させる。感じる、フレデリカの願いと想いが。そしてその思考が。相手の心を受けて自分の力にする能力を使い続けて、成長を続けるフレデリカへ追いつく。

 そして同時に流れ込むのだ。フレデリカの想いの熱さとその執念。

 彼女への理解は誰よりも深い部分まで超えていき、その想いに同調すら覚え始める。けれど、リムにとってそれは重すぎるのだ。フレデリカ、彼女の想いはリムには重いと。

 自分自身の全てを捧げるに相応しい者。それは強くて勇ましくてカッコイイ、そんな誰もが思う理想像で、そこにならば、沼につかり無限に沈み溺れるほどに愛して思う。そんな愛の重さがフレデリカの力を加速させている。

 それはリムには重すぎる。


 リアという一人の女の子を助けるためだけ(・・)に生きている彼女にとって、それ以外の他者との関わりやそれを思うことなど、もとからそういう風にできていないが為に手に余ってしまう。


 だから、答えられない。フレデリカの気持ちを力を投影して受けるも、こんな重い女を受け止める余裕などリムにはありえなかった。


 落下する。下へ下へ。その速度は空気を破裂させる域まで達して、世の裏はどこなのか探求するように無限に落下は繰り返される。


 その中で、リムはただ思う。

 自分が最も愛すべきもの。守るべき存在。それはリアであり、フレデリカではないと。

 

「私はだからこそ、リアの為に戦う。あなただって、元の持ち主さえいれば――」


 リムの言葉に力はよりし烈さを増す。


「知ったような口聞くんじゃなないわよっ!

「わたしに持ち主なんていない。ええそうよ、誰の持ち物でもないからなに? わたしは

わたしが認めた人にしか使ってほしくない。それを見極めろだとか、クリアもふざけたことを言ってっ!! 物にわたしが仕える訳ないじゃない!! 認めない、認められない!! それだけは絶対に‼ なのになのに、こんなことっ‼」


 かけ続ける力の圧力。落下に伴い与える重力の重さは数千トンは遥かに超えているハズ。それでも潰れず押し戻そうとしているのはどういう理屈か。リムの力はフレデリカへと反発を続けている。

 それはつまり――


 リムは変わらずフレデリカなど手に余ると思っている。リアだけが自分の大切なものだと。絶対と信じ切っている。

 フレデリカは勇者という愛した幻想(理想)をリムは超えられないと思っている。

 それは二つのすれ違う互いの重い想い。絶対に相まみえることはありえない。だというのに。


 リムはフレデリカという重さに耐えていて――


「何のことか知らないけど、八つ当たりもはなはだしいわよ。アナタッ!」

「五月蠅いッ‼」


 フレデリカの理想はここに――


 互いにおもい違いと不器用さを全開にして、星の裏側へと流星する。


 





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