第57話 レア 決戦へ
綺麗ですわあ。
生れたときから何も不自由がなかった。煌びやかなお城に美しいドレス。ただ美しく美しく美しく、美の究極を突き詰めた世界は最初から広がっていて、それを作り上げたお母様はそれはとても素晴らしいと思ってきた。
その美の追及は、限度を知るところを知らず。
黒魔術に手を染めてまで母は維持しようとしていた。
魔術には生贄が必要。
壊して、苦しめて、そしてそれが美となる。それを突き詰めた。それは子でもある少女へと、もの後ごろつく前にから始められていた。
レア・オルショリャは悪魔の子である。
などと、そんな異端めいた言葉を聞いたのはいつ頃のことだろうか。
人の血に骨に臓腑、そしてそれらを祭り立たせる悲痛な叫び声。痛め、苦しめ、恥ずかしめて、地獄よりも地獄らしい光景と共に開かれるは魔の儀式。
ただ美しくあれと、それを学び見て聞いていた。最初は人を殺める方法から。
そして次には死を寸止めで、その次は叫び声を上げさせる練習。使うものはいつもいつもバラバラ。斧かナイフか、ノコギリか。はたまた釘か、ハサミか針か。用途とは異なる使い方を学び、そしてそのどれも大した違いなどなかった。
いつもいつもお母様は厳しくて、ちゃんとやっているのに怒鳴り怒られる。
そんなんじゃ一人前(美しく)なれない。美しくないお前など嫌い。なんて――
お母様は美しい人が好き。
なら、ワタクシもきっと美しくなればお母様は褒めてくれるよね?
もっともっと美しくならなきゃ。
立派な胸が欲しくて乳房をペンチつまみで引き抜いたら女の悲鳴が響いた。食べたけど大きくならなかった。
綺麗な声が欲しくて喉をハサミで引き裂いたら汚いうめき声に変わった。こんな汚い声じゃだめ。
じゃあ、綺麗ですらっとした足が欲しいわ。だからそのままかじりついた。
流れる血は宝石のように赤く美しくて、それを浴びている自分はきっと美しくなっているの、なんて感じる。
だから一杯、一杯。もっと一杯、美味しい(綺麗な)部位が食べたいな。
そうすれば美しくなってお母様も褒めてくれる。
ほら、お母様。綺麗でしょう? 美しくなりましたわぁ。
四六時中食べ続けた美しくさは一杯。毎日どこか綺麗な人から貰って、たまに吐いてしまうけれども、美しくなるための努力は怠らなかった。
そうして、それが実って、美しくなった。
城の家人も領地のみんなもワタクシが歩けばみんな頭を下げる頬度に美しく。
母が求める美しさを手に入れた。
これでお母様に認めてもらえる。美しいと言ってもらえる。優しくしてもらえる。
けれどお母様はワタクシを認めてくれない。
すごかったね。頑張ったね。なんて一言も言ってくれない。
睨まれ、そして取り押さえられて、ワタクシはお母様の美しさとなった。
お母様がいる。笑っている。ワタクシの為に?
ワタクシの綺麗なルビー色の瞳が、片方が抉られて食べられた。
きれいな肌って、褒めてくれた。
鉋で肩から腕の肉がハムにされて食べられた
やめてお母様。
イタイ、イタイの。綺麗じゃなくなっちゃっう。綺麗なのがお母様は好きなんでしょう?
どんなにお願いしても謝っても、お母様のそれは終わらなかった。むしろ、ワタクシがさけば叫ぶほどにお母様は笑っている。
いたい。いたい。
綺麗で自慢の胸にお母様が噛みついた。歯で強引に噛み切られて、視界がぼやける。
立派な殿方に愛されるように。
そう言って、股に杭を打ち付けられて、世界が舞い戻る。
お腹がイタイ。お母様がワタクシの処女を舐めとっている。
あああ、お母様。お母様。ごめんなさい。もうやめて下さい。もうやめて…。
美しくなくなる自分に、母に嫌われていくと思うと怖くて絶叫は止まらない。
止まらない止まらない止まらない。
鳴りやまない。
それから、毎日毎日壊される。もっと美しく、美しくと。
美しく? 美しい?。
………。
お母様の為に、もっと美しくありますわあ。
魔の狂気に落ちた彼女はいつまでも壊れ続ける。
美しくあるために。
■
「アハハッ……」
乾いた笑みを漏らしてレア・オルショリャは紅い夜を飛翔する。
誰も愛してくれなかった。愛してくれたのはあの人だけ。
ずっと我慢して来たのに。嫌な拷問もして、受けて。それでも愛してほしいって思ってきたのに。愛してはくれない。
「だから、言われたの。好きなら好きって言えばいいって。嫌なら嫌って言えばいいって」
そう言われた。そう願われた。だから心のまま欲のままに生きている。それこそが自分が幸せになれる真実だと信じて。
「ミカエと言ったわね。今のままでは共に犬死よ。そんなものは我は認めない。ゆえに――」
溢れる狂気を高ぶらせて、その狂気を教えよう。痛めて痛めて痛めて(愛して愛して愛して)。キサマは我が壊して(美しく)してあげますわ。
「行きますわっ! ただ、あの方のためにっ! アハハッ、アハハハ―――ッ!!」




