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第56話 ロプトル決闘へ

「………」


 破壊され、もはや廃都同然の街並み。

 そこをロプトルは決戦場とへと向けて静かに歩いていた。

 左右に広がるは窓ガラスが割れ、民家だった砕けたレンガ。見知った街並みなのに、知らない情景を見ながらロプトルはそのガラクタとかした街へと思い出を重ねる。


 思い浮かべるのは夢の試練で見た黄昏の街並み。夕日に照らされた輝きも眩しく、そして何処か切ない。自身の中で最も焼き付いている瞬間。

 それと重ねている。だが、絶対にそれは一致することはない。


 地面は荒れ、光を返す民家は砕けているし、そもそも空に広がるのは真っ赤な血みどろのような怪しい光を放つ月面。見上げれば恐怖と不安をあおり、吸い込まれそうになるほどに禍々しい。


 世界はなぜこんなことになったのか。そんなこと今更説くまでもなく。全ては試練のせい。


 そして、今から向かうのはその試練。

 

「カレン…」


 壊れた街に想いを馳せて、おのが怨敵の名を呟く。

 自分の記憶。存在。それを絶対に許さないと言って消そうとする彼女。カレンは自分を目の敵にしてただそれを願って死闘を繰り広げた。

 結果はミカエの手を借りたとはいえ、ロプトルの勝利で終わっている。


 だが、それでもどういうわけかカレンは未だ健在で、こうしてロプトルはどういう訳かその決戦場へと歩を進めている。

 

「はっ……」


 なんというか。馬鹿馬鹿しいなって。


 どうしてカレンがそうまでして自分を消したいのか、ハッキリとしたことは分からない。

 ただ分かることは、自分の製器(ロザリオ)が元々カレンの物でそれをカレンが過去と共に消し去りたいということだけ。

 あれほどあったカレンへの恨み憎しみは不思議なほどに感じない。

 だからこうして一方的な恨みつらみにこうして付き合っている自分を、ふと冷めたように客観的に見ると、いやはや馬鹿馬鹿しいと、思わざる終えない。


「………」


 そう思って漏れた乾いた笑いに、それでもこうしてカレンとの戦いを選んだ自分に自嘲する。

 正直なことをいうならばカレンを相手に選んだのはただの成り行きだ。


 レアはなんだか目の前にしただけで怖いと思うし、フレデリカという子は何の絡みもない。クリア、あの子に至っては戦うという気にすらならない。

 だからカレン。試練とか正直なところ頭の悪い自分はまだよくわかっておらず、試練だからという理由だけで殺し合うなどできるほど無責任な性格なんてしていない。

 ゆえ、敵の中で最も戦いやすい相手を選んだということだけだ。


 だというのに。


「分かってる」


 分かってるよ。それだけじゃない。確かに消去法じみたそんな選び方だけれども、そこにはカレンではないといけないという別の理由も、こうして思い返してみれば確かにあった。


「アタシ、カレンを認められない」


 そう、認められない。

 彼女の言う、結局人はみな最後には不幸になって悲しむのなら、記憶を繋がりを消して無かったことにしてしまえばいい。そうすれば誰も悲しまない。なんてそんなバカげた思想。

 それがどうしたって認められなくて、正したくなる。


 何故なら自分はミカエが大好きだし、例え最後にはミカエと別れるなんてことになってもそれで悲しんだとしても。

 自分とミカエが幸せだった事実は変わらない。どんなに悲しいことが起きたってそれは変わらない。だから、それを消そうとするなんて認められないのだ。

 

 もしも何て事を考えて今の幸せをわざわざ捨て去るカレンの考えは絶対に間違っていると思う。


 それにカレンには一つの矛盾も感じていたから。


 そう――矛盾。 


 ゆっくりとした足取りが、街の中央広場にてゆっくりと止まり、視線は真っすぐ正面で空に浮かぶ城を眺めていたカレンへと向く。


「来たわね」


 決戦場(広場)へと来たロプトルを歓迎するように、振り返ったカレンは壊れた世界の中で浮き彫りになるかのように儚げ笑みを浮かべる。


「やっぱり、カレンの相手はアナタ。もし来なかったら試練を変えてでも勝手にアナタのところへ行っていたわ」


 鈍色の大鎌を顕現させて、薄ら笑みを浮かべるカレンはまさしく死の代行者。死神と言われてもそうだと何ら違和感のない様相を呈している。

 なにも変わらない。試練が始まった最初の天邪鬼と。であるからこそ、同じように氷の大鎌を顕現させてロプトルはカレンの矛盾を問う。


「アンタ、なんでアタシをそんなにも消したいの? アタシを消したいなら、最初、アタシ達を鍛えているときにそうすればよかったじゃん」


 そう、ロプトルを記憶ごと抹消したいのであれば最初からそうすればこのような面倒なことには

ならなかった。あの時のロプトルはまだ聖器を自分から使おうとしていなかった一般人同然だったのだから。例え、力を持たなくてもロプトルはロプトル、中身の聖器(道具)は変わらない。

 であるのにも関わらず、カレンはあの時、ロプトルを消すのではなく育てることへと徹した。先に殺ってしまっていれば、こんなにもしつこいストーカーじみたことなどするハメにはならなかったハズである。だから矛盾している。


 最初にしたことと、その後していること。

 いやそもそも、ロプトルを消し去りたいという渇望を叶えるのならば試練などそっちのけでしてしまえばいい。カレンの想いはそれほどまでに強い暴力的なものであるのに、それでも試練などというよく分からないことに付き合っている。


 それは、矛盾しているし、訳が分からないのだ。


「なにを聞いてくるかと思えば。そんなこと」

「そんなこと? 自分で言ってておかしいと思わないの?」


 その問いに、笑みを持ったカレンの表情は静かに真剣さを帯びた物に切り替わっていた。


「確かに、カレンはアナタみたいな道具は消したい。けれど、友人の頼みがあったもの。それは断れないし、言われた通りにしただけ。

 カレンは今が楽しいの。こうして生きてて常に世界は面白い光に満ち溢れてる。アナタという記憶の残滓に会ったり、壊れた世界で魔王の玩具になったり。友の頼みもそう。カレンにとっては、今この時この世に起きていること全てが道楽なの。

 だから、頼みを聞いた。アナタ達を鍛えて欲しい。そんな理解できない願いでも。いつも拗ねてばかりの友達が、カレンの予想を超えてそんなことを言ってくれるほど楽しいことはないもの。

 すべて楽しいの、今この時が、その瞬間が……。


 でも、所詮は全部その時だけ。結局、過去はすべて後から後悔するし悲しいことになる。

 アナタを鍛えた? ええ、そうね。楽しかったわ。その時は。でも、こんな面倒なことになっていることを考えると、それすら悲しいことよ。

 あの時あんなことしなければよかった。などと今はそうやって後悔しているし、アナタを壊したくてたまらない。


 もちろん今はこうして目の前にアナタが居て壊せることが楽しわよ。

 けれど、それはそれ。過去はすべて後悔まみれなの。だからいらない。

 そうは思わない?」


 その問いは理解しかねることだった。

 というよりも、そんな考え方。ロプトルは誰にも理解できないと感じてしまう。 


 ただ思うことは――


「知らない。大体アンタ、一体なににそんなにも怯えてるの?」


 怯えている。過去したことの何が恥ずかしいのか。誰かにそれを叱られるとでも思っているのか。疎まれるとでも思ってるのか。それとも、ただ自分を責めているだけなのか。失敗することを今その場では何も考えていない癖に、後から言動に後悔するなんて。

 自分は何かに支配されている、とでもいうのか。


「怯えてる? まさか、カレンに限ってそんなことはない」


「ああそう」


 結局それをロプトルは論理的に説明などできない。

 ただ、直感的にそう思っただけで、目の前のカレンの考え方には同意できないというのは変わらないから。


 互いに大鎌を構えて、蒼い念が迸り赤く燃える炎がチラつく。


 静かに荒れ始める覇道が領域を増して、互いに触れあおうとした瞬間――

 蒼と赤の記憶をかけた決闘が、ここに始まる。


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