第45話 ミカエ&ロプトル対レア&カレン
弾ける鎖の旋風。唸り周囲を焼きつくさんとする劫火。
ミカエとロプトル、同時に力を開放し、同等のタイミングで己の相手を襲撃するも、それらは容易く獲物で無効化されて無へと帰り、どちらも弾けた意志力に危険を感じて跳び下がった。
レアとカレン両方とも既に降臨を発動している。それはロプトルも同じこと。リアとリムを先に行かせるために生み出した攻撃は巨大な岩すら焼きつくして溶かす程の威力を込めており、それを跳ね返すということはそれ以上の力を放出されたことになる。
この場で、ミカエ以外はすでに力の解放をしており、その状況にも関わらずミカエが拮抗できている不可解さはあるが、ミカエとロプトルにはそんなものはどうでもよかった。
ただ、今目の前にいる怨敵を倒さなければならない。
倒し、先に行かしたリアを追わなくては。その一心で全力を凌駕し力を解放し続ける。
鎖がしなり宙を舞って竜巻を作った。
それに炎が合わさって火焔の暴風となって敵へと襲い掛かる。
二人での協力技、互いに信頼しあっているゆえにその実力は最大限に発揮され超高火力になってレアとカレンへ襲い掛かる。
「まだまだね」
「あまいですわぁ」
じりじりと逆巻回転する劫火は二人へと近寄るも、同時に放たれた屠殺包丁と大鎌の一振り。なんの焦りも無くただ平然と繰り出して、それだけで巨大な竜巻は切り裂かれ弾けて消失する。
「っ……」
「えっ!?」
それにミカエとリム、同時に動揺するも、それぐらいはするだろうと直ぐに気合を引き締める。
「まさか。素直にリアとリムを行かせてくれるとは思いませんでした」
挑発するように、余裕を見せるさまは弱さを紛らわせるためか。いいや違う。圧倒的な威圧。ミカエは降臨を使えないというハンデを追っていながらも微塵も相手の強さに屈してない。
だから放つ言葉にも冷静さがあり沈着な行動によるもの。
真にロプトルのことを愛していると認めた時より、敵の想像を絶する覇道相手にも微塵も負けておらず、匹敵するほどにミカエの心は高まっている。
結果からしていうならば、それが降臨をつかえないというハンデを負いながらも対抗できていたのはそれだからである。
「別に、先に行ったところでフレデリカがいるし。アレはカレンほど甘くない。
それに、カレンはこっちの方が気になってね」
「なんだよ。まだアタシのこと気に食わないのか!?」
「ええ。嫌いではないわ。でも気に食わないと言われれば気に食わない。ただそれだけ、不要なものだから消す。ただそれだけよ?
ここにこうして攻めてくるとは思っていなかったけど、こちらから動く手間が省けたというだけにすぎないし、今度こそアナタには消えてもらう。そうしないとカレン、気が済まないの」
淡々と言われ、不快そうに叫び返すロプトルに、当たり前のことだとなんの疑問も持たないカレン。
それほどまでに、固執しておりロプトルへの消すという感情は以前とまったく変わらない。だがそれでも前回のような激情は持ってはおらず、むしろ吹っ切れて澄んでいた。
つまりは冷静で、前回のように視野が狭くなることもない。それは油断もなければスキもないということで、ここで対峙するカレンは最も万全な形で戦いへと望んでいる。
ゆえに前回のような不意打ちには掛からない。気位高く軽口をたたいていても、その間に攻撃をするというスキはなく、長く話していてもそこに割って入り仕掛けるなど二人はできなかった。
一方、レアはレアでこの城で奇襲を仕掛けて来たとき同様に汚泥に満ちているが、やはり凪のように清んでいる。思考と考えは読み取りを忌避する程に下劣であるものの、以前の時のような陶酔は存在しない。
見ている。こちらを。
敵としっかりと認識されている半面、その興味の対象はミカエへと向けられている。
無論のこと凪いでいるとは言え、レアから発せられる想いの丈は異常だ。真っ当な人であれば、近づけば嫌な気分になるし心が蝕まれる。それをまともに受けているのだからそれ相応の負荷になる。すくなくとも、常人では死にたくなるぐらいのぶっ飛んだものであるが。
それを苦も無く受けているミカエは、ある種の適応を有していることになるのか。
「我はやはりキサマが気になりますの。他は興味がないですわぁ」
無論のこと、その妙な適応力についてレアは気づいていない訳がない。
当たり前のように自身に近づけば皆不快な表情を浮かべる。それがレアに対する反応で、それ自体、気には止めて居なくとも自覚はしていたというのが彼女の本音のところだ。
城の中にいる他の者であれば、そのおぞましい念に耐える精神を持っているから嫌悪はしないが。普通はしない訳がない。そう分かっているから外敵であるミカエが芯から嫌悪していないということに対して興味が湧いた。
というより、異常者特有の同族を見抜く力とでもいうのだろう。
初めて会ったときからレアはミカエに対して自分に近しい何かを感じていたし、そう確信して告げていた。
ミカエに、その自覚がないのがレアにとっては面白くないところではあったが、自分と同じ趣味趣向の者が居れば興味がわかない訳がない。
語らいたいとは思っていたが、前回はあの始末。試練への期待に、先に自分の主への愛が強くなりすぎて我を見失ったが。
今回は違う。それゆえにどろりとした視線が舐めるようにミカエの全身を見る。
「ワタシを?」
「言いましたでしょう。キサマは我と同類。だから早く愛し合いましょう? 傷つけ傷つけられて、そうすれば、キサマならその良さがきっと分かち合える」
「悪趣味ですね」
「ミカエ、訊いちゃダメだよ。こいつの言ってることなんて」
「分かっています」
ねっとりと放たれる事実。だがそれをミカエは無論のこと知らず否定する。
「自覚がないなら教えてあげるわぁ」
「まあ、そういうことだから。少し遊びましょう」
二人の審判者から更に強く放たれる覇道の念は圧倒的で、周囲の大気を歪めて弾き飛ばす。
ここには遊びは存在しない。
「ミカエっ」
「はいっ」
放った念と共に同時に二人が跳びだして、各々の獲物が空を切る。
方や痛みと苦痛を祈る魔の斬断。
方や消去と抹消を願う斬撃。
斬断はまともに食らえばそのひと振りだけで、魂レベルまで刻まれる無限の痛みによる絶望を味わうことになるし。斬撃は斬撃で斬られれば記憶ごと切断される切り裂けない何もない無限の刃と化している。
魔の究極。
最上級までにまで磨かれた魂によって発露する異能は、局所的であるが森羅万象に自分の理を刻み付けるほどに極まっている。
よって受けて通常の武器や防具では防ぎきるのは絶対に不可能。どんなにすぐれた道具であっても、ただの物では対処などできない。それができるのは同じ魂を研ぎ澄まし理を見出す力に限る。
それほどまでに高まっている魂の究極のそれらがミカエとロプトルへ襲い掛かる。
だが、無論のことそれらに対抗するのがこの二人だ。
磨かれ究極へと近づいた魂は二人も同じ。ミカエを想い続けている間はロプトルの魂は究極に近づき、同じくロプトルを想い続けている間は共感性によって芋づる的にミカエの魂も究極へと近づく。
誰かを想い、想い続けてその想いを燃料として、誰よりも気持ちは強いと紅蓮へと燃やしてその心を見せつける。それもまた魂の究極に他ならず、すべてを解放して真向迎撃を行う。
よって対抗し放たれた鎖は屠殺包丁へ、氷炎の鎌と鈍色の鎌とぶつかり合った。
「くっ―――」
「このっ――」
ここに究極究極のぶつかり合いが巻き起こる。
弾けた念と念、魂の覇道(法則)と覇道(法則)。それらはたった一回の衝突で、万億回単位でぶつかり絡み合い、矛盾を起こしていがみ合う。
それが数十回と行われて、火花散ると共に空間が歪み乱れるほどに衝撃はすさまじい。だが、それでもまだ常人にも認知できる領域にあるのは、黒曜石のこの城であるがゆえに周りへの破壊的な被害がないからかもしれない。
それほどまでに凄まじく、力強い。どちらも小手先飲みの技など存在しておらず、策もない純粋な力比べであったが――
「くあっ――」
「ミカエっ!」
唸る力の渦の中、拮抗する二つ。どちらも打ち合い続け、ロプトルとカレンは平行線な状況であったが、ミカエとレアの打ち合いはそうはいかなかった。
所詮はロプトルに引っ付いた劣化品。真の究極ではないミカエの魂は瞬間的には拮抗するもそれを長く維持できず、たやすく屠殺包丁に鎖ともども弾き飛ばされる。
「大丈夫っ!? ミカエ」
カレンとの打ち合いを火炎放射にて強引に断ち切って、続くミカエへのレアの猛襲をロプトルが遮った。
「じゃまよぉ」
「くっ」
「わっ!?」
屠殺包丁が炎を纏う大鎌を弾き、二撃目には開いた胴に振り下ろされそうになる。
「ロプトル!」
その瞬間へロプトルの背後から鎖が伸びて落ちた屠殺包丁うち払いロプトルから逸らし、彼女は紙一重へ触れずにすんだ。
「このっ」
そうして続けざまに放った炎の展開。自分を覆うように回転させて近づいたレアを焼き払おうと尾するもそれは軽いステップで下がられ躱された。
だが、これにより拮抗の崩れたミカエの危機を退けてはいた。
「アハハッ! そんなんじゃダメよ。ちゃんと素直になったらどう? それあじゃその子に嫌われてしまうわ、よッ!」
哄笑を上げて、不快な笑みを浮かべた次の瞬間にはレアは消えて居た。
いや――
「ミカエっ!」
何故か唐突に、ロプトルの背後にいるミカエの正面へ、屠殺包丁を振り上げた形で移動していた。
「縮地? 違うわね。ああそういう。相変わらず他人の意識をコントロールするのは得意なものね。
――アナタの相手はカレンよ」
止めに入ろうとするロプトルへ走り出したカレンが鎌を振り入れて、それを受け止めさせることによりロプトルを妨害し足止めする。
ミカエへ断斬が降る。
「舐めないでくださいっ!」
「へぇ」
鎖が駆動し屠殺包丁を受け止めて。
一瞬止めるが、それでも受け止め切れず止まった瞬間を利用してミカエは後ろへステップし躱すと、屠殺包丁は振り落ち地面を抉った。
「舐めてないですわぁ」
それでもレアは止まらない。
「またっ」
再びレアが霞か霧へと描き消えて――
「はぁっ――。ああッ――!?」
背後に現れたのを見切った瞬間、回避行動をするも間に合わず、振り落ちた屠殺包丁がミカエの肩口を抉った。
結果、レアのアレが駆動する。
「っ~~~!」
傷口は自動的に裂けてその大きさと痛みを増し、ミカエは声にならない叫びをあげた。
「ミカエェェッ!」




