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第42話 みんなで相談

 ロプちゃんと二人で教会に戻って地下室で待っていると、ほどなくしておねえちゃんとミカエちゃんも戻ってきた。

 なんだかよくわからないけど、ミカエちゃんは顔真っ赤に膨れていて、なんかそれに触れたら、なにもありませんっ。っと何故か怒鳴られたけど…。

 とりあえず、喧嘩はしてなさそうで安堵した。

 

 それから全員地下の机に着いて、これからのこと、わたし達が眠っている間に何があったのか話すことになった。


 ロプちゃんの隣にミカエちゃんが座り、おねえちゃんの隣にわたしが座って机をはさみ相談をする。


「それで、私たちが寝ている間に何があったの? カレンを倒したって?」


 切り出したおねえちゃんにミカエちゃんが頷いて、説明を始める。


「はい。そのことですが、まず二人は体に異変などありませんか?」

「異変?」

「特になにもないけれど?」

「なにか思い出せないとか?」

「いいえ。リアは?」

「う~ん。ううん」


 首を振ったおねえちゃんに問われ、特にこれといって大きく思い当たることもなく続けてわたしもくびを左右に振った。

 とはいえ、何かないと言われれば、ん~。


「ただ、あえて言うならカレンと戦った時のことを、どうやってやられたのかが思い出せない?」


 倒れる瞬間のため、そもそも認知する前にやられた可能性を考慮すれば、それ自体はたいしたことではないとは思うが。


 頭をひねってもやはりそれぐらいかな?


「そうですか。なら良かったです」

「それがどうかしたの?」


 おねえちゃんの問いに説明をロプちゃんが引き継いだ。


「カレンの能力、あれは相手の記憶を消す力だったんだ」

「記憶?」

「うん。相手っていうか。多分、ものでもなんでも記憶とか記録を消して、その存在を無かったことにする。それがカレンの降臨アドベントの能力」


 なにそのずるっこい力。


 わたしとおねえちゃんの降臨アドベントはせいぜいお互いの力を相乗効果で掛け算的に上げるだけなのに。

 カレンの場合は、もはや消すことに特化した最強の力とも言っていい。

 でも確かに、それならば二人が記憶について心配してきたのも頷ける。


「カレンを倒したから消す効果もなくなってるはずだけど、一回消えたからその影響で記憶が混乱してるのかも。それで戦った時のことが思い出せないのかなって」

「んん~。どうなんだろ?」

「まあ、消えているかもしれない以上。考えても無いものは分からないわよ。

 とにかく、私とリアは記憶を奪われて倒れたってことね」


 問われ、そこには二人とも首を縦に振った。


「恐らく。詳しいことまでは倒れてずっと眠っていたので分かりませんけどね。

 それで、二人が倒れた後、やられそうなとこを全員を救出して戦線離脱したのですよ」

「カレンから? よく逃げ切れたわね」

「はい。運よく。カレンが見逃してくれたおかげで逃げ出すことができました。

 彼女の性格ならありえない話ではないです」

「確かに」

「それからリアをここに寝かせて、もう一度カレンの所へ行ったんだ」

「ええ、勝手に。あれほど一人ではダメだと言ったのに」

「もうっ、それは謝ったでしょ」

「あははっ…」


 ロプちゃん勝手な行動をしたんだね。


「そーいう問題ではないのですよ。危ないことばかりして」

「いやでも、あれはカレンが許せなかったから」

「ダメですっ」

「む~。ぶーぶー」


「乳繰り合ってないで、話の続きを聞きたいのだけど?」


 何故かヒートアップしていく二人の言い争いをおねえちゃんが差し止める。


「あ」

「はい…。ロプトル」


 二人は席に着き直して、説明の続きを始める。


「アタシがカレンと戦って、それでカレンの力で記憶を消されそうになったところでロプトルが来て倒したの」

「どうやって?」


 訊いたわたしに、ロプちゃんがにひひーとイタズラっぽくやらしい笑みを向けてくる。


「聞いて驚けー。アタシも降臨アドベントを使えるようになったんだー!」

「へえ」

「えっ、ほんと!?」


 まさか、それはビックリだった。

 降臨アドベントを使えるようになるにはわたしは死ぬ思いをしたぐらいだし、あれの力の恩恵は肌身で感じている。

 少なくとも、カレンたち審判者と対等に渡り合うには必須の力であり。場合によってそれは、カレン達ですら超えることができる。

 戦いの戦力としてはこれほどまでに頼もしいものはない。


 それに、そうか。

 ロプちゃんも使えるようになったんだ。


 降臨アドベントとは、自身の想いを力として発露できるまで最大限まで高めて扱えるもの。どんな願いであれ、何かを想う意志力を備えたということだ。それは精神的にも強くなったことを意味していて、純粋に成長したということになる。

 それが分かるから、わたしは自分の事のように嬉しかった。


「本当に、土壇場のギリギリでしたけどね」

「いいじゃん! 結果的にそれで勝ったんだから」

「確かに。それは否定しませんが……」

「ミカエちゃんはどうなの?」

「ワタシですか? ワタシは残念ながら」

「そっか……」


 ミカエちゃんの場合はカレンの試練の際に、自分の聖器(ロザリオ)と敵対した上に破壊してしまっている。

 だから、力を使うこと自体に一抹の不安がある。仮に降臨アドベント取得していれば完全に力を扱えるようになっている裏返しであるので、そうであったらば安心でしたのだが……。


「でも、そっか。ロプちゃんがか~」


 まあ、ロプちゃんが使えるようになったということだけでも御の字だ。ここで悲しんでいい場所じゃない。


「なにリア。アタシじゃダメだって言うのぉ?」

「いや、そういうわけじゃなくって…」

「そういうわけじゃなくて?」

「えっと、どんな能力なの?」

「そうだな~、うーん」


 なんだか責められたので話の話題を逸らした。

 そうして、訊かれたロプちゃんが何故か唸り首をかしげる。


「魂(炎)を燃やす力」


 唸っていたロプちゃんの隣から、ぽつりと言葉が呟かれる。


「炎を燃やす? それってどんなの?」

「んー。まんまかな? 鎌をこうボワーって炎で燃やす」

「氷だけじゃなくて、炎も使えるようになったということね」

「まあ、そんな感じ」


 なんだか根っこのところは言いたくないのか、はぐらかされてしまった感じがある。

 けど、その気持ちは分からなくもない。

 降臨アドベントは本人の一番強い想いだから。それを人に知られるってなんだか照れくさい感じもあるし。使っている本人にとっても無意識でアレば曖昧な認識のこともある。

 自覚がないといえばどうだけど。むしろそれが今のわたしな訳だし。

 けれど、その根本は間違いなく自分の一番の強い思想ということは分かってる。

 

 まあ、ロプちゃんの場合はどうだか分からないけど。本人が言いたくないのならそこへ言及しても仕方ない。


「そっかぁ、使えるようになって良かったね。それでカレンに勝っちゃう訳だし。凄いよロプちゃん」

「え? あっ、うんっ。でもカレンが油断してただけだよ。最初に上手く最初に逃げられたのも運が良かったかもだし…」


「うーん。そんなことないと思う」

「どうしたの? リア」


 カレンが油断していた? わたしはそこに引っかかった。

 カレンは本気でやる時はやるタイプだ。事実、最初のカレンの訓練による試練ではボコボコされた訳で、わたしがトドメを止めた時は自分なら迷いなく最後トドメを刺すと言っていた。

 常に本気で、油断はありえない。

 全部を信じるわけではないが。はぐらかしたりバカにしたりはするけど、明確な目的もなく遊びでウソや騙したりはしない。

 そう考えると、油断して逃げられたなんてことはない。確実に。

 だとしたら……。

 カレンにとっては、勝っても負けてもどっちでもよかったんじゃないか。そう思った。


 まさか、ロプちゃんが降臨アドベントを使えるように誘導したのか?

 分からない。

 けど、それをいま言っても仕方ない。


「うんん。なんでもない」


 戸惑った感じがあったけど、ロプちゃんはわたしの言葉に笑顔で返してくれた。

 それだけでいい。


「カレンを倒した事は分かったわ。そのあとは、さっきまで何をしていたの?」


 横で見守っていたおねえちゃんが話を進める。


「そーですね。

 まず、会った時に言った通り周りの安全を確認していました。守護(マリア)も消えてしまいましたし、いつギニョールが現れてもおかしくないですから」

「確かに。でも、守護(マリア)はいつ消えたの?」

「カレンから逃げてこの地下室へ逃げ込んだ直後です。すでに見た通りその時、一緒に教会も。

 その時ギニョールが大量に攻めては来ましたが、殲滅したあとパタリと現れなくなったのです。

 ギニョールも守護も、まるで、もうワタシ達をこの街に縛っておく必要がないみたいに。

 ロプトルとも相談しましたが、恐らく意図的なことは間違いないでしょう」

「まあ、街の人が誰一人として残っていないのだから、そう考えるのは当然でしょうね」



 確かに。一度そう簡単に消したりつけたりできるものではないと言っていた気がするが、もうその必要もなくなったということなのだろう。

 それはミカエちゃんにもおねえちゃんにもワタシは同意できる。

 でもだとしたなら。一つ疑問が浮かび上がる。

 今まで、試練のことで頭がいっぱいで考える余裕がなかったが、よくよく考えると妙な話なのだ。


「なんで、守護(マリア)を消したりできるんだろ」


 いや、そもそも――


「マリアってなに?」



 生まれついてからそれは最初からあって、街を外の荒地から守ってくれているもの。そう信じて止まなかったが、敵はそれを自由に消したりつけたりできている。


 本当にわたし達を守るものなら、そも消すことが敵側にできることが間違っている。

 仮に敵が守護(マリア)を自由にできる何らかの力を持っているとしよう。なら何故今まで試練を行わなかった? 勇者を強く求めているので居るのであれば、わたしの街に試練を起こした時に一緒に全ての街へ同時にマリアを消せばよかったのに。


 同時にマリアを複数消すことができないのか。街がそもそも何処にあるのか把握していないのか。

 分からないけれども、やることが全て遠回り過ぎている。

 あんなに勇者を欲しているなら、バラバラにやるよりも一気にやればいいのに……。

 できない理由がある。

 そう考えるのが妥当で、だとしたら、守護の本来の目的って…。


 わたしの質問に、みんな守護については詳しく知らないようで首を傾げている。

 その悩むみんなの雰囲気の中、ミカエちゃんが意を決して言葉を紡ぐ。


「えっと。守護(マリア)とは生命の源で、聖なる神が大地と共に我々を守るために作ってくださったものと言われています。

 知っての通り、ギニョールのような悪いものを通さないようにと」


「でも、そのギニョールはわたし達から聖器(ロザリオ)を抜き取った成れの果てだってカレンが……。

聖器(ロザリオ)が無かったらわたし達は悪いものなの?」

「それは…、聖器も神様から授けられた祝福だと言われていますから」

「ん~」

「つまり、なにが言いたいの?」

「えっと。本当に守護はわたし達を守るためだけのものなのかなって。

 確かに守護の中にいれば安全なんだけど、守るためならなんで出たり入ったりできるんだろうって。

 仮にわたしが神様で守護を作るなら、絶対安全なように誰も守護から出れないようにするよ?」


 守るだけならば、中の者の安全が第一。なら、わざわざ危険な場所へ出れるように出入り自由にする訳がない。

 少なくとも、わたしならそうする。間違って外なんかに出られたら困るから。

 それに、街同士が遠くて認識できないのだから、複数の街があるからそれをつなげるためという名目もない。


「それは、言われてみればそうですが」

「確かに」


 自分から外へ出ていたこの場の者なら、これは共通して同意できる事実だ。

 外の危険は試練が始まる前から、身をもって体験しているのだから。


「リアの言うことはもっともね。守るだけなら外に出る必要はない。でも、それだけじゃ守護がなにか余計分からなくなる。

 まだあるのでしょ。リア」


 さすがおねえちゃん。よくわかってる。

 問われ、頷いてわたしは説明をつづけた。


「もし仮にだよ。もし仮に、守護がカレン達側の力によるものだったら? って思ったの。

それなら消したりできるのも分かるし。それに、試練を受けさせる候補を探すためのものに使われていたとしてもおかしくない」

「ん? 試練を受けさせる候補を探してる?」

「うん」


 首を傾げたロプちゃんにわたしは頷いた。


「だって、ここにいるみんな一度は自分の意志で外に出た事があるから。

 それに、ミカエちゃんとおねえちゃんに至っては誰に言われる訳でもなくギニョールを聖器を倒しているし。

 わたしとロプちゃんだって、間接的だけどそれに関わってる」


 勇者の芽を摘むために。利用している。

 その可能性が。


「外に出て、ギニョールを倒した者が試練の対象者だと…」

「あくまで、わたしの勝手な想像だけど。かもしれないなって」

「完全には否定はできないわね。だとしたなら私たちは自ら進んで虎の尾を踏んだということになる。

 出るなと言われてる守護から出た。まさに、その天罰ってところかしら?」

「そうだとしたなら、その神様は彼女らだと言うのですか? ふざけないでくださいっ!」


 飽きれるように言い捨てたおねえちゃんに、ミカエちゃんは聖職者ゆえか、机を叩き立ち上がり怒っていた。

 でも仕方ないとは思う。自分たちが信じていた神様が、街のみんなにあんなことをする非道な人たちだなんて誰も信じたくない。


「けれど。事実、神にも等しい力を有している」

「それでもロプトルは超えることができました。神ではないはずです!

 神とは人々へ祝福を与え罪を許す存在なのですよ!」

「ミカエ…」

「おめでたいわね。神がどうだの祝福だの。本当に私たちを救ってくれる存在なら何故いまこの状況を無視しているの?

 なんでも神様が恵んでくれたからとか、神様がきっとすくってくださるとか。

 そんなの、なにもしない奴がたまにいいことがあったら、それを神様のおかげだとか理由をつけたがって勝手に言っている妄言にすぎない。

 そうやって自分じゃ何もできない事を正当化しているだけでしょう?」

「おねえちゃん…」

「アナタなんてことを! ここは教会ですよ! アナタが神をどう思おうが構いませんっ、ですがここで、神の御前でそれを言いうのは許しません!」

「アナタがそれを言うの? 

 それに、もう教会なんて壊れているのよ。壊れた教会に神様は耳を傾けているのかしらね?」

「それはっ」


「ちょっとおねえちゃんストップ!」

「ミカエもだよ!」


 これ以上は二人が武装して地下で喧嘩し始めそうだったため、ロプちゃんと二人で間に割って入り制した。


「あくまでも、かも知れないって話だよ。まだ決まったわけじゃないし」

「あの、ごめんなさい。わたしが変なこと言っちゃったせいで喧嘩になるなんて……」


 こんな可能性の話をしてしまったせいで二人が喧嘩するなんて思いもよらなかった。

 意見としては捨てきれないけど、二人に喧嘩してほしくはない。


「ほら、何二人ともリア泣かしてんのさっ!」

「リア。喧嘩なんかするつもりは…」

「そうです。別に喧嘩したいわけでは…」

「うん…分かってる」

「てか、なんで二人ともすぐそう言い争うのかなぁ」


 ロプちゃんが不安そうに二人を見て言う。


「それは。リアが大切だからよ!」

「ロプトルが大好きだからです!」


「いや、よくわかんないし…」

「うん…」


 それは、わたしもそう思う。


「とりあえず、守護のことは気になるけど、今は置いておいて話を戻すよ。

 ミカエ、座って」


「は、はい…」


 ロプちゃんに言われ、興奮して立ち上がっていたミカエちゃんが席へ大人しく座り話を戻す。


「それで、これはミカエと相談したんだけど。

 ここでこうして居てもしょうがないでしょう」

「ええ、そうね」

「だから、あの城に攻めに行こうと思ってる」

「攻める? それって、空に浮いてる奴らの根城に?」


 ロプちゃんとミカエが同時に頷いた。


「だから、二人にも力を貸してほしいのです。

 試練はいつ来るのかわかりません。相手のタイミングに合わせているよりもこちらから仕掛けて行った方がいいかと。

 幸い、ロプトルも力を使えるようになりましたし。レア、カレンは撃破済み、残るのは三人です。

「攻めるのなら今のうち」

「はい」


 確かに。それは妥当な判断なのかもしれない。

 相手の戦力は大きく削れている今。こちらから攻めて、勢いに任せるというのも戦略的にはなしではない。

 カレンを倒したのは事実だし、それで勢いづいているいまならば問題はないだろう。

 けれど、それは普通の敵が相手だった場合だ。

 相手は天変地異すら簡単に起こすであろう審判者。

 特にその中で、フレデリカには街の三分の一を既に一度破壊されている。

 規模が普通ではないのだ。例え、勢いづいたとして攻め込んだって、そのことごとくを力技で強引にでも吹き飛ばされる。

 月に吠える野良犬とはこのことだろう。

 天体規模の絶対者に、ただの人はいかにして非力か。


 だから至って冷静にそして、怖くて。

 

「無理だと思う」


 静かにわたしは告げた。


「ねえ、そんなことやめよ。相手の強さはみんな知ってるでしょ? 攻めこむなんて難しいよ」

「とは言え、このままこうしていても試練がまたやってくるだけですよ?」

「じゃあ、逃げよ?

 そうだ、わたしの来た街は? もう教会も壊れちゃったし、街にいても仕方ないでしょ?」


 戦って誰かが傷つくぐらいなら、逃げ出した方がいい。


「リア」

「アナタ、何処から来たか分かってるの?」

「それは?」

「おねえちゃんは?」


 わたしの返しに三人が少し寂しい表情をして顔を見合わせ、それからおねえちゃんは首を左右に振った。


「ごめんなさい。分からないわ」

「リア。戦いたくないという気持ちは分かります。ですが、流れを一気に掴むには今しかないのです。カレンを討った今しか。

 それに、何処に行った所で彼女たちは追ってくるでしょう? 違いますか?」


「それは…」


「大丈夫。カレンだって倒せたんですから。ワタシ達には対等に戦う力はありますよ」


 その言葉に、わたしは目を伏せた。


 言われていることは理解している。

 例え何処へ逃げたとしても、試練をするために追ってくるに違いないし。

 そもそも、逃げ場などあるのかすら分からない。相手は街を一瞬にして屠る存在なのだから、簡単に捕捉され、逃がしてもらえるなんて思えない。

 

 ミカエちゃんが言っていることはもっともだ。

 わたしは街の場所を知らないし。たとえ知っていたとしても、逃げ切れる訳がない。それに例えわたしの昔いた街へたどり着いたところで、あそこはもう廃墟になっているだろう。


 ゆえに攻める。願い誓った平和な未来は戦いの果てにしかないのだから。

 それに、

 ロプちゃんとミカエちゃんでカレンと戦って勝ったのだから。可能性がないと言えばあるのかもしれない。


 理屈では分かっている。けれど、そう簡単に、うん。と頷ける訳もない。


 これまで何度も危機的状況はあったし、それを打破することだってできた。それは紛れもないわたしの力だと自身だって持てる。


 けれど、それでも怖いものは怖い。

 あの城にゆくのは。戦うのも、それで傷つくのも。


「少し、考えさせて欲しい」


 わたしの返答にミカエちゃんとロプちゃんは真剣な顔をして頷いた。


「どのみち今日はもう日が暮れるぐらいの時間です。まあ、ずっと夜ですが。

 行くか決めるのは明日の朝の時間にしましょう。

 リア。それ以上は待ちませんよ?」

「うん」

「とりあえず、今日の話はここまでにしましょう」

「ええ」

 

 ミカエちゃんの言葉で、話はここまでとなった。


 とにかく。今晩は少し考えることにしよう。起きて間もなくて、安心したばかりで精神的に疲弊しているといえば、そうだし。

 落ち着けば、考え方も変わるかもしれない。


「ねえロプちゃん。ちょっといい?」

「なに?」

「花壇へ水やりしようかなって。わたしが寝ている間。多分、誰もしてないでしょ?」

「あーうん。ごめん」

「うんん。大丈夫。だからいこ?」

「ダメですよリア。これからロプトルはワタシと夕食の準備をするんですから」

「ええ。何それ聞いてない」

「今決めました。

 ほら、行きますよ。台所は外なのですから、油断しないでください」

「えっちょっ、リアごめーんっ」


 あっという間に、ロプちゃんがミカエちゃんに腕を引かれ外へ連れてかれてしまった。


 どうしたんだろう。

 ロプちゃんにはカレンとの戦いで、自分だけやられてしまったことについて謝りたかったのだが。

 仕方ないか。


「リア。私が一緒でもいいかしら?」

「うん。いこ、おねえちゃん」


 頷いて、席を立ち二人で地下室を後にした。







 地下室を出てわたしは早速、花壇へと向かった。

 起きた時は不安で慌てていたから気づかなかったが、花は少し元気がなく萎れているものの花壇でまだ咲いており、水を上げればまた元気になるぐらいだった。

 小走りで向かったわたしは、その状態の花を見て、よかった。っと、そっと胸をなでおろした。


 そうして。早速、チョロチョロと小走りで走って井戸の横からじょうろを取って、ポンプを漕いで水を入れていく。


「おねえちゃんっ、早く」

「そんなに慌てなくても大丈夫よ」


 後からゆっくりついてきたおねえちゃんへじょうろを手渡して、もう一つ別のじょうろへ水がたまるのを確認するとそれを取っておねえちゃんと花壇の方へ戻ってゆく。


「ふう。元気になってね」


 花壇の前に着くと、花へ水をあげていく。

 並んで、おねえちゃんも同じように花壇へ水を与える。


「なんだろ。おねえちゃんとこうしてまた一緒にお花にお水上げられて嬉しいな」


 ついこの間一緒にあげたばかりだけど。それでも、大好きなおねえちゃんと一緒にこうすることができるのはうれしい。


「ええ。私も嬉しいわ」

「えへへ。

 ………ねえ、おねえちゃん」

「なに?」

「本当に、二人は城に攻めていくつもりかな」


 花をジッと見て水を与えながらポツリと訊いた。

 本当に。本当に二人はそのつもりなのかなって。

 疑問はするけど。おねえちゃんの答えも実際どうなのかも知っている。ズルい質問。


「もう、そう決めているのでしょうね」


 ほら。ただただわたしが不安で信じたくないだけだ。

 それは分かってる。頭では論理的に分析できており、その結果は間違っていないって。

 それでも、理性は追いつかない。怖くて不安で、何度決意を決めてもやっぱり、それは上辺ばかりだけなんだって。

 わたしはきっと心の中ではずっと怖くて、試練へ立ち向かう勇気なんてない。


「わたしが断っても、二人ともそれでも行っちゃうのかな? 

 ねえ、おねえちゃんは? おねえちゃんはどうするの?」

「私は、それがリアを守る為になるなら。

 ーー行くわ」


 じょうろの水が切れて、おねえちゃんがじょうろを下げると紅い月夜に浮かぶ暗黒城を見上げていう。


「そっか……」


 行けば戦わなければいけない。

 それが怖い。


 行かなければ独りぼっち。

 それも怖い。


「わたしは……」


 どっちも怖い。けれど、それならば。

 

「わたしも行く」


 わたしの知らないところで誰かが戦って、傷つく方がもっとイヤだ。

 大切な友達が居なくなるなんてイヤだから。


 おねえちゃんと同じように空に浮かぶ城を見上げる。

 浮遊している城が月と重なって、その魔性を示すかのように真っ黒な影となっている。


「大丈夫?」

「うん。ここでずっと怯えてる訳にもいかないもんね」


 そう。こうしていたって現状は何も変わらない。

 できるならやれることをしよう。

 いまはただ、悲しい気持ちはなしだ。


「さっ、そうと決まれば水をたっぷりあげないと。もう一回だよおねえちゃん。

 あと、しばらく帰ってこれないかもしれないから肥料もまいておかないとだね。

 あっでも、お日様でてないけど大丈夫かな?」

「なら少しでも早くどうにかしましょ」

「うんっ」


 おねえちゃんに心配する顔はない。

 それは明るく振る舞うわたしに合わせてくれているのか。元気に見せるわたしを本気で信じているのかわからないけど。いま一人じゃないことは確かだから。大丈夫かな?


 一抹な不安を若干残しつつ。けれど、わたしもあの城へ行く気持ちは整った。


 そうして。じょうろに水をくむために再び井戸へ二人へ向かう。




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