第39話 カレン戦決着
ようやくか。
倒れゆくロプトルを飄々とした視線で見据えて、カレンはこの場における勝敗を確信する。
これで彼女ともこれまでだろうと、消えゆく最後の記憶を惜しみながら、その存在が消滅するのを見届ける。
これだけは、絶対にやらなければいけない。
彼女の記憶がこの世界の誰からも忘れられてゆくならば、最後に唯一としてカレンが認識してあげるべきだと。
信じて、弔いとでも思っているのかカレンは倒れたロプトルから、決して視線は消滅するまで離さない。
「………」
そうして、自分だけが見通せる濃い霧の中、見届け続けるも違和感を感じる。
これまで見送ってきた者は幾万。無論、存在が消えて居る以上どういった人間だったのかカレン自身の記憶は無けれども、消える時のあの頭から何かが抜けていくような寂しい感覚は、体感で肌にしみついている。だからこそ気づいたことだった。
「消えない」
そう、消えないのだ。
今まで見てきた者たちならば、とうに消え失せているタイミング。
であるのに、ロプトルはいまだそこに倒れおり、姿が消えなければカレン自身からロプトルとその背後に存在する故人の面影も顕在のままだった。
理由が分からない。理解ができない。
なぜまだ存在を保てるのか。
すべての記憶は切り裂いて消去したはずなのに。
目の前の彼女はなぜまだそこにいるのか。
「っ……」
焦り、刃を飛ばして倒れた肉片の魂を切り刻むも、体が少し刃の衝撃で弾かれるがそれにはなんの意味はない。
既に中身はもぬけの殻。ただの人形を切り裂いたとしても何も起きない。
なら、ならば、なぜ? 疑問が湧き出るのはやまない。
カレンは覚えている。
楽しかった記憶も悲しかった記憶も。それらすべてを過去の輝きのまま。
愛おしいとさえ思っており、今でもそれが戻ってくるのであれば、どんな幸福よりも嬉しいと感じるほどに。
だが、過去は過去。過ぎたものは取り戻すことなどできるわけがなく。だからこそ幸福は幸福のままで終わればよいと思っている。
それは今も変わらない。
現にカレンの力の源であるそれは、こうして降臨として顕現している。
それも、その力の密度は過去に見ないほど濃厚なモノでだ。
元よりカレンの力は自身と関係性が強ければ強いほどその効力を上げる特性を有している。
他者を思うがゆえに、幸せのまま終わらせる。
それがどんなに無慈悲に記憶を消そうと彼女が抱く根幹なのだ。だから、自然と繋がりが強く気に入っていた相手ほどその効力は自然と強くなる。
こればかりはカレン自身がコントロールしようとしてできるものではない。想いというのはそういう、関係を持ったら切れないものであるゆえ、この世における誰よりもカレンと関係が深いロプトルに対してはそれ相応の力となる。
それは間違いなく全開。誰を相手取ろうと今後これ以上の力の発揮は不可能な程の全力を今流している。
そして、威力だけであれば、さらにそこに上乗せしている事象も存在しており。
二人の関係性はもちろんのことであるが、何よりその想いの源がよりカレンの力を活性化させているハズなのだ。
カレンの力は相手を想い、繋がりが大切だと思っているからこそ、発現している力。
一見、消すというのマイナスなイメージはあるが実際はその逆、繋がりを辛い思いをしたくしたくないから、それを守るために発現した力である。
だから、根本の部分でロプトルと共感してしまう。
ロプトルもまた、カレンと同じように繋がりを重んじていた。
呪いがあるから、関わると自分は相手を苦しめるというマイナスなイメージを有しているが、だからこそ相手が呪いで被害を被らないように自分から遠ざける。
その酷似した行動は、相手の幸せを想って今の幸せをそのまましようとする点においては根本のところでは同じ。
そして、何よりも二人を互いに共感させているそれは、どちらも自分というものを顧みないで他者へと想いの向き(ベクトル)が向いているということ。
だから引き合う。互いに、願望(共感)はより強固になり、他の審判者でも逃れられない程にカレンの覇道の力は密度を増していく。
けれども、結果はこの通り。
未だロプトルは顕在。戦闘不能に追いやったにもかかわらず、依然として消滅までとは至っていない。
これは不可解極まる事実だった。
同じく、共感により本人の知らないところでロプトルは耐性を獲ていたがために、魂を裂く斬撃に耐え、消える記憶の容量を縮めていたが、耐性はあくまで抵抗力であって反攻ではない。
本人が自覚していない以上、宝の持ち腐れで、無駄に浪費して終わるだけである。
それゆえに、こうして最後のトドメが決まらないということには決してなりえないハズ。
では、なにゆえこんなことが起きているのか。
無論のことそれを解明する実例や考えをカレンは持っておらず、その理由を知るよしはない。
何故ならば、それこそがカレンが切り捨てた最もかけがえのない物であるがために。
「消えないというのならば、そのまま破壊するのみ」
原因が分からない以上、これより考えても無意味だろうと、決断を下して、カレンは行動を変更する。
カレンにとって今ここで最優先される事柄はあくまでロプトルという存在の抹消。別にそこに時間に焦る必要もなければ、今になって焦る理由もない。すでに数千年は事の発端から経過しており今更後か先など気にする気などないのだ。
結果的に、あのクマのぬいぐるみを抹消できれば、それが今であろうが後になろうが何も変わらない。
だから先に器であるロプトルの人体そのものを破壊する方針へ変更した。
まずはロプトルを切り裂いて、そこから出てきた聖器を回収すればいい。そのあとにそれを煮るなり焼くなり、たとえ幾数万の年月が掛かろうと最終的に消滅さえできれば問題はない。
ただ単純に、この場で即決着をつけるのではなく、段階的な目標として掲げただけだった。
鎌を振り払いロプトルを刈り殺さんと、カレンは霧の中ゆっくりと歩み進める。
距離はさほど遠くない。数メートもなく、数歩進んだだけですぐに倒れたカレンの傍らへ立った。
「死んで」
そうして、冷淡な言葉と共にロプトルの首を落とそうと鎌を振り上げる。
振り下ろす鎌にはなんの力も込めていない通常の斬撃、触れれば例え金剛石でも容易く両断できる刃は間違いなくロプトルの肌に触れた瞬間に、紙切れ同然に裂くだろう。
そうして、二人の戦いに終止符がうたれた。
「――っ!?」
そう、あくまで二人の戦いの終止符に。
結果はロプトルの完敗。であるが、それでもロプトルが死に絶えたかどうかは別の結果である。
何故ならば――
「くさり……。しまっ」
トドメを入れる瞬間、いつの間にか、カレンの足へと巻きついていた鋼鉄の鎖が軋み、はなさいないとがっちり足を締め上げていた。
「はは……なんで来たのさミカエ…」
「こいつッ!?」
鎌で鎖を切り裂き拘束を解除するも、捕まった時点でそれは遅かった。
「くっ……」
ロプトルを中心に冷気が広がって地面が凍り、それは地を這いカレンの足へと触れると、足を伝って彼女の下半身を埋もれるほど氷の結晶をつくり拘束する。
加えて、それだけではない。
数本の鎖が霧を突き抜けて飛来して、的確にカレンを捕え上半身をグルグルと締め上げた。
下半身は氷で固められ上半身は鎖で拘束されたカレンが、鎖と同じく霧の中を抜けて割って入ってきた者と、狸寝入りしていた怨敵を苦し紛れに睨みつける。
「言ったじゃないですか。アナタはワタシのそばにいるべきと」
「なにそれ、なんかストーカっぽい」
苦虫を食い潰したように歯を軋ませるほど悔しそうに睨むカレンを前に、起き上がったロプトルと割って入ってきたミカエは、笑って冗談交じりで言葉を交わし合う。
「何故……」
そう疑問が拘束されながらもカレンの中では無限に渦巻く、ロプトルの記憶は確実に消去した。それは間違いない。記憶を消した手ごたえは間違いなくあり、それを歴戦の猛者であるカレンが見誤ることは決してない。間違いなくロプトルの記憶は消えているはずなのだが…。
であるのに、なぜ彼女はこうしてその女のことを覚えているのか。
ありえない。それだけは絶対だとカレンは断言できるハズなのに、事実はこうして異なっている。
これは異常極まる事態だ。記憶を奪って消滅しないということであれば先ほどのように別の対処法を取ればよいが、これではいかにカレンであろうと原因の解明と状況の分析と同様で考えることが精一杯で対応はしきれない。
それゆえにカレンは自身の混乱を利用して、不意をついてくるなど考えておらず、だから反応は遅れ、こうして捕まった。
しかも、霧の外からの乱入者付きで。
勿論のことミカエの乱入も不可解な点でもあった。この霧はカレンの覇道によって編み出された特殊な霧、視界はもちろん音やにおい、力の流れすら乱雑に反射して的確な位置を捉えることなど並の者では不可能であるはずである。
それでもミカエは正確にカレンの位置を特定して拘束しこうし、割って入ってきた。それもありえない事態であり。
こうして、カレンのとっての非常識は重なって、強者であるハズのカレンは見事に出し抜かれた。
「でもまさか、ミカエが入ってくるなんて思ってもみなかった。あのままアタシだけでカレンを捕まえることできたと思うのに……。
まさか、寝たふりしてた?」
「いえ、寝ていましたよ。でも起きてみたらアナタが居ないのでビックリして飛んで来たら、これですよ? でも、良かったです。タイミングはバッチリで」
二人はそう話し合ってお互いに顔を見合わせて笑い合う。
それに、混乱しながらもカレンは意地らしくイラついて――
「答えなさいッ! なぜ、なぜ覚えているのッ! それにどうやってここにッ!」
カレンは思いのまま叫び問いていた。
「どうしてって言ってもなぁ。簡単なことだよ、どんなに思い出が消えたって、忘れる訳ないじゃん。アタシはミカエが好き。だから思い返せばいつだっていくらでも記憶も想いも湧き上がってくるんだよ。だから絶対にアンタの力でアタシとミカエの絆は消せないんだ!」
想いとは記憶とはそう言ったもの。
そう、高らかにロプトルは謳い上げた。
確かにカレンは消去し続けた結果、ロプトルの大半のミカエの記憶は消え去った。だが、それでも全ては削り切れていなかったというのが実状であるのだ。
何故なら、記憶というのは常に作られ続けるもの。あるのは過去か現在であれど、その現在はコンマ零秒以下の単位で常に過去を作り続けている。
その為、そもそもカレンがいくら片端から切り裂いて記憶を消去しようとも追いつけるはずがない。秒読み以下でも時の流れを、未来的に干渉できない限りは決して全て消し去ることはありえず、それは同時にロプトルが心折れずミカエを思い続けて居れば対処可能だということ。
今のロプトルにとってミカエの存在は絶対。誰よりも恋しく愛し、もっとも切り離し諦めることなどできない者。だから絶対に諦めるとういうことはありえない。
とはいえ、これはイレギュラー重なったからこそ起きた非常識に他ならない。
元来であれば、カレンの力は間違いなく相手の魂(記憶)を消去(刈る)ことは造作もなかった。それは先に述べた原理があろうと、記憶ができる速度を軽く上端ねする程に消去する
規模が大きく並の者であれば容易く存在を消すことができる。
それは、それは間違いでは無い。
だが今回は、偶然にも互いに共感しあっていた。
それによりカレンの力は大幅に増していたのは確かだろう。だが、同時にロプトルのカレンの力に対する耐性も上がっていたために、記憶を消去する規模は平衡するように抑えられてきた。とはいえ、それではあくまで拮抗。元より素の力差ではカレンの上で、二人の共感だけではまだカレンの消去する速度に対抗することはできない。
けれど、そこにもう一つ別のかけ合わせが加わっていたら?
それこそが、ミカエだった。
ロプトルはミカエのことを愛しく大切に思っている。それは絶対で、ロプトルも他人とのつながりがあるから自分から離れるようにふるまうという想いよりも、ミカエとの結びつきの方が勝っていた。
確かに、カレンとの共感もあるが、それはそれ、共感をしているが、だからといってそれを願うというわけではないのがロプトル。
むしろ、ロプトルはさらにその先、どんなにお互いが辛くともその繋がりを絶やさず一緒にいるというのがより強固な感情で、それはミカエも同じだった。ミカエもどんなことがあろうと例え喧嘩してもその繋がりは決して切りたくない、切れない。そう狂い想っているがために。
ゆえに共感する。
共感の距離範囲は人によりまちまちであるが、この場合ロプトルとミカエにとって範囲など無いに等しかった。
それはなぜか?
理由は鎖だ。
ミカエはロプトルを放そうとはしない。
彼女はロプトルが何処か自分の知らない場所へ行かないように、事前に透過した鎖で繋ぎ常に繋がっていた。
結果としてそれが二人を繋ぐ交信の線となり共感は発動し、カレンとの共感に加えミカエとの共感が働きカレンの力を上回りこうして今に至った。
もちろん、そんなことミカエもロプトルの二人が知る由もないが、いずれにしても二人の想いがカレンを上回った事実であり、むしろ強い繋がりがあったからこその起きた奇跡なのだ。
「そんなハズは……」
事象の理由が分からないカレンには到底理解できなかった。
ただ、そんなことはありえないと。
何故ならば自分のこの想いは絶対だから。これだけは誰にも負けない譲れないがために。
「ずっとミカエのこと考えてたよ」
「はい、感じてました。だからこうして貴女がなにをしようと企んでいるかもすぐに分かりましたよ。ゆえにこうして合わせてみたのです。
どうです? タイミングはばっちりでしたでしょう?」
「確かにそうだけど……ミカエを守るのはアタシだよ。これじゃあダメ!」
「もちろん、たよりにしてますよ。お願いします。正直こうして抑えているだけで限界でなので」
拘束されているカレンは抵抗してない訳ではない。
動作はしていないものの、聖器の覇道の力を解放して鎖の圧と氷を弾き飛ばそうとしている。軽口を叩いているロプトルとミカエもそれは同じ、力を加え抑えており、共感で拮抗しているのものの、それは二人合わせての事。特にミカエに至ってはフルで力をすべてを拘束にあてがっているが為に身動きが取れない状況にいた。
「うん。ありがとうミカエ、分かってる。
カレン」
持久力でいえばカレンが上なのは変わらない。だから本当ならこんなやり取りすらしている時間も惜しいのかもしれないけど、一言カレンには言ってやりたかった。
■
ロプトルは拘束されるカレンの前に向かうように立った。互いの距離は一メートルもなく、手を伸ばせばすぐに触れられる距離だ。
睨むカレンの殺意は無論のこと、圧力は流石というべきか、拘束されても収まるどころかむしろその圧を強めている。
怒ってるんだね。分かるよ。いまアタシらはアンタの考えを真っ向から否定している。
アンタに何があったのか知らないけど、記憶を刈り取られながら受ける願いは相当なものだった。
ただ消えろ、記憶は繋がりは。
幸せは幸せのまま消えるべき。切り裂かれながら伝わった覇道の源はそれだった。
その感情の並はすさまじく、普段、天邪鬼のように考えをに匂わせない振る舞いをしていたカレンとは思えなかった。
けど、薄ら笑いをしている裏でそんなことを考えてたなんて……。
だから、真っすぐ否定する。
だってそれはアタシはもう乗り越えた想いだから。
「カレン、アンタの考えは間違ってる」
正面に立ち、取り繕い薄ら笑う余裕も見せる余裕もないのか、ものすごい重圧とともに睨むカレンへアタシはハッキリと告げる。
「何が?」
苦し紛れな不敵な笑みと共に、問いが返ってくる。
「大事なものを自分で消すなんて、どんな理由があってもダメ。悲しい思いさせるのが怖いのはアタシだって同じだよ。
だけど……それは本当にお互いに望んでいることなの?
アタシは確かに辛い思いをしてもらいたくなくて、ミカエに嫌われようとしてた。でも、それは間違いでミカエはそんなことないって言ってくれたんだ。どんなことがあったってアタシを思ってくれていることが幸せだって。
もちろん、怖かったよ、本当にそれでいいのか、それでミカエに悲しい思いをさせたら、でも同時に嬉しかったんだよ。だってアタシは嫌われようとアタシのことをそこまでして思ってくれてるんだもん。知らなかったんだよ、イヤなことがあってもアタシのことを好きでいてくれるなんて。
だからアンタのそれはただの押し付けだ! 確かに悲しいのは辛い。
でも、それは本当に相手もイヤなんて想ってるのか聞いたことも無いんだろ!
アタシはそういう最初からお互いに放そうともせず拒むのはダメだと思う。
確かに辛い思いをするのはイヤかもしれないけど、それはどちらも本当にそう思っている事なの?」
カレンの主張は結局カレンからの視点に限られてる。それではただ想いは一方通行なだけ。
本当に想うということは相手と自分、互いに感じたときになるもの。そうであるとアタシは信じているから。
「何を知ったような……。よく分からないことをごちゃごちゃと……。悲しい想いをするのはみんなイヤに決まっているっ! それをたまたま一度自分を受け入れられたぐらいで」
「そうかもしれない。否定はしないよ。
でも、その一回でアタシは十分。それで救われたから!」
「ロプトル」
「うん!」
氷の鎌を顕現させる。
だからもう誰も拒まないっ、たとえ迷惑をかけたって真っすぐ対等に向き合うと決めたんだ! だって、それがミカエを本当に想うってだと思ったからッ」
瞬間、カレンとの共感が途切れ、互いに力の威力と耐性が一気に弱体化して――
「我、ここに想ひを産み繋げえむ――形色せよ降臨 伊弉諾ノ軻遇突智ッ!」
アタシはもう、この心をとどめたりなんてしない。強く想ってミカエやみんなの為に生み出し続ける。
言葉が放たれたと同時、氷の鎌は燃えて炎を噴き荒れて天まで伸ばし引き戻ると、燃える鎌となり、アタシは振り上げ拘束されたカレンへ迷いなく振り下ろした。
「は……」
アタシが振り下ろす炎に瞠目し諦めたのか、一瞬カレンは食いしばっていた歯を自然とやわらげた様な気がして。
「……まあ、今回はそういうことにしておきましょう」
完全に弱体化する瞬間、顕出させたアタシの炎鎌が、想いの紅き輝きとなって弱体化したカレンを穿った。
そして――
そのままカレンは鎖と氷に縛られたまま燃え盛り火だるまとなって、全ての炎が消え去った時にはその姿を消失させていた。
「はあっ……」
「ふう……」
アタシとミカエ二人で、それを見届けると同時に腰を抜かして地へと尻もちをついた。
「あはははーー」
「フフッ、フフフーー」
互いに見合うと不思議と笑いが込み上げて同時に笑いあった。
「これで、勝ったんだよね」
「ええ」
カレンについては分からないことが一杯あって、まだ世界は赤いままだけれど、それでもアタシ達は勝ったんだ。
カレンに。
それは詰まるところ第三試練の突破を意味していて、同時に初めてアタシ達は自力で試練を超えることができたということになる。
「ああ…」
体が脱力して、ミカエの膝を枕に寝そべる。
「もう、そんなところに寝ては服が汚れますよ」
「地べたに座ってるミカエがそれ言う?」
「それは確かに…」
「あははっ! 変なの……。
はあ…ちょっと膝かして……」
「もう…」
お互いに体は疲弊しきって正直体は言うことはきかない。
カレンが消失したことにより、わすれていた記憶は戻ってきてその反動なのか精神的にも疲労が凄い気がする。
だから二人とも動けなくて。
「ねえミカエ」
「はい?」
「もう少しここで、こうしてていい」
「はい」
互いに勝利したことによる満足した顔を見合わせながら、アタシ達はその場で夜を明かした。




