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第29話 レア戦 開幕

 迸り煌煌しく浮遊する金光の弾。レア・オルシャはその中で優雅に舞い踊り、それによって光は彼女の舞いに合わせて天へ黒と赤の虚空へと導かれているようであった。


「きれい……」


 それは美しくも、同時に悪魔へと捧げ物が集まりつつあることを示していた。登り上がる光はすべて悪魔へ捧げる魂(供物)。それらは街にいる者たちの物に他ならない。こうして踊り続ける今も、街の至る所から光はレアへと集まり全て贄になる。


 そうして、叶えて叶えてと願いながら踊るのだ。最高の供物を代価に、(ワタクシ)の願いを叶えよと。


「もっと、もっと……」


 レアは恋をしている。身を焦がすほどに、狂うほどに。ゆえにこの儀式はあの方のためである。過去に自分を救った勇者へと、彼との会合を夢見てその愛を伝えるために、今一度会いたいと、叶わぬ夢を悪魔へ呪い(願い)ながら踊る。


 その狂気、真なる思いは尋常ではない。

 通常悪魔召喚には専用の魔陣と決められた供物と呪文が必要となる。だがレアは儀式道具も陣も、贄となる人間、呪文すらオリジナルな構成でまともな物は一切用意していない。

 その上、通常最低でも3日かかるという、前準備すら無視して、執念のみでこうしてまがいなりにも儀式を発動させてしまっている。

 これはあり得ない現象だ。

 

 常識ではまず不可能だし、発動するまでの強い念など、まずまともに生きていれば持たない。

 だから、彼女はまともではない。というのは聊か乱暴であるが、彼女の生い立ちを顧みれば、なるほどそれはまともでは居られないだろうと、誰もが必ず思うし、そんな事実から目を背けたくなる者もいるだろう。


「はぁっ……」


 教えられた人を苦しめる手法は幾数千。それらの一つ一つ細部まで、教育を受けたレアは全て覚えて、その身を持って体験している。

それらの情報は無垢な少女の心を歪めるには十分過ぎた。


「お母様……いたい、いたいです……」


 軋み痛む体は過去の残留か、皮膚が裂け肉が焼けるような苦痛は、舞い踊る彼女を蝕み侵していく。

 無論のこと、そんな傷など彼女にはない。肌は美しく、色白く、穢れなど知らないという清純などに高貴たる素肌をしている。

 

 だが、記憶は、心は記憶している。今ない片腕からすら感じているのだ。


「いたい、いたいの」


 痛む、軋むのだ。泣きそうになってしまうほどに。


 爪と爪の間に針を突き刺され、爪を抜かれた全ての指先が痛む。

 打たれ、殴られ、踏みつけられ、青く変色した肉が傷む。

 刺され、傷口に焦げた鉄を差し入れられた肉が燃えひりつく。

 投与された知らぬ薬品が、全身を震わせ血管から体内を溶かしつくす。

 股に刺された杭が熱を持ち、子袋を貫き暴れて腰からしたが立てなくなりそうになる。


「ああっ……」


 その痛みは、自然と生きているだけで残留し彼女を蝕んでいた。


「痛い、ごめんなさい。お願い、助けて」


 それは、彼女が生きている以上、常に変わらずまとわりつく苦痛であり、救いようのない悪夢に他ならない。


 だが、そんな彼女でも自分を救ってくれた勇者を思うとその痛みは消え。

 いや、それどころか――


「気もちぃい」


 痛みは快楽へと変わる。この苦痛を受けている間は、あのお方に助けてもらえる。ずっと(ワタクシ)を見ていてくれる。苦痛は愛から快楽へと変わりもっと満たされたくなる。

 だから苦しみを、ワタクシもアナタも皆すべて、傷つき、壊れろ、苦しむモノが周りにあれば、あのお方は(ワタクシ)だけを見てくれる。

 ゆえに悪魔よ皆に苦しみを。願うのは苦痛と悲しみ。

 

 瞳を閉じて、快楽に飢えて。

 次に瞳を開いたときに視界に映ったソレに、お前たちもと、みな苦しめばもっと、もっともっとと。


 残留する痛みに耐えるために狂気で覆った精神が、身を焼きつくすように駆動し、全身全霊で膨れ上がり飛び出して。


「アハハハハッ―――!」


 悪魔のような咆哮を放ち、数百を超える拷問器具を宙に顕現させ、彼女らの痛み(快楽)を奪うべく全てが投擲された。




 


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