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第25話 幕間 魔王初登場


 深淵から深淵へと沈む。深く深く奥深くへと。

 悪意渦巻く暗黒の城の内部を登り、真なる闇が吹き荒れ暴風となって身を突き刺す。

 ここは狂気渦巻く異界。


 それは事実として、常人ではこの空間に三分と正気ではいられまいだろう。

 周囲に漂う怨念の濃さは凄まじく、家一軒は収まるだろう部屋の壁や装飾に至るまで、地獄にあるマグマの川につかる亡者群れでもいるかのように、苦痛と後悔と怒りを視覚的に心を犯すと錯覚させる精緻な作りでこの場を異界と至らしめている。

 だがそれもいつも通り、侵入者にはなんら関係もなかった。その理由は二つある。

 一つは単純に彼女の精神強度。この場に足を踏み入れるのに見合うほどの精神性を有している。

 そしてもう一つは、同調。この場における邪悪さに、この城に住まうものの中で最も近しい趣味趣向を持っているということだった。


 レア・オルショリャは、この部屋にたまらない心地よさを覚えていた。

 黒曜石の壁一面に埋め込まれた武器の数々。剣から始まり斧や槍、槌に至るまで。それら一つ一つが呻いているかのように共鳴して悪性のある念を放って嫌らしく笑っている顔にすら幻覚する。

 それだけではない。室内を照らすシャンデリアからは微弱な光とともに誰かに見られているような不快感が伝わってくる。

 部屋の最奥の中央にある高貴な玉座からは、直視するだけでそこに座す筈の者がいるように錯覚し、目は潰され百数回殺されるイメージを叩きつけられる。


「ぁ……」


 それが気持ちよく。たまらなく感じてしまう。

 悦に浸る喘ぎ声を漏らして、自分の体を抱きしめる。


 現在、この部屋の今の主は不在だ。そのため、幾分かはマシ方であるが、それでも異界であることは変わらなかった。

 魔王城――王の間。玉座のある部屋を見渡して、自然と笑みがこぼれる。城の中では特に気にせず常に垂れ流し続けているハズの、レアの邪悪さが部屋に残る魔王の残り香で抑えられている。ここはそういう他の介入を一切許さない聖域。


「あら?」


 そんなことをなど気にも留めず、玉座の間にたどり着き、レアは首をかしげる。家主を訪ねてきたのに、だれも居ないなんて、どういった風の吹きまわしなのだろうと。普段ならばそこの玉座にふんぞり返っているのに。


 お母様がこの場を離れるなど、なにかあったのだろうかと。


 気になるも、すぐにそんな疑問も吹き飛ぶ事になる。


「これは…」


 恨みと嘆きの瘴気が濃くなった。

 目に見えぬ不吉な空気は全身をなめまわすようで、それにいっそうレアが感じて愉悦の声を漏らす。


「ぁ……」


 それから遅れて、コツコツという空間を響かす足音が聞こえてくる。

 コツコツ。

 コツコツと……。


 それは扉の前まで近づいてきて、ようやくレアはその足音に気づき、ただれそうなほどの愉悦と歓喜の笑みを浮かべて首を扉へ振り返らせた。


「ああぁ…」


 扉が開き、同時に吹き荒れる波動の突風。それに突き刺されてレアが酔いしれる。

 軋む音と共に開かれた扉の先には、


「どうしたのだ? レア・オルショリャ」

「エリザベートお母様……」


 この城。この部屋の主。エリザベート・リベリア・ハウライト――魔王がそこに居た。

 紫と真っ黒に染まったドレスを城の悪性に同化させて、精緻な人形でもあるかのよう美しくも整った美顔で鋭く不敵に笑みを浮かべる。

 黄金色の右目がレアの動きを静止させると不敵に煌めいて、捕捉してじっとりと舐めますように目を細めた。

 圧倒的な華麗で高貴な魔王は、溢れんばかりの後悔と懺悔と苦悩と怨嗟の念、マイナスの感情の塊と言ってもいいだろう。この部屋同様に常体で念を流しており、レアなど羽虫程度に思わせるほどに想は天と地の差であった。


 目を見て対等に会話などすれば軽く飲み込まれる。であるのに、あえてレアは目を合わせて、飲まれる精神力に気持ちよさを覆えて歓喜し、そして――


「私はお前の母ではないと、何度言えば通じるのか。まあいいだろう。それで? 何の用なのだ? まさか茶でも飲みに遊びに来たわけでもなかろうに」

「はあっ――お母様、クリアがまたおかしなことを考えていまして」

「それはいつも通りだよ。それに、お前のしたいのはそんなことではないだろう?」


 そう、元よりここに来たのはクリアの事を告げ口しようなんて思ったからじゃない。

 我慢できなかった。せっかくの生贄が一杯居るのに我慢をするなど。

 クリアが頭を下げた手前、我慢してやっていたがその限界が来ている。だから、いつも通り最後の挨拶をしに来た。

 早く、早く食らいたい。それは不幸な魂を食事とする悪魔にとって当たり前の生理現象。あの街に不幸を落とし、そして芳醇果実として食らいたい。食らってその愛を感じて与えたい。愛に、愛に飢えている。


 だから次の試練をとりおこなう。ここに来たのは、その前の儀式のようなもの。


 試練を与える自分たちは、敗北する事を常に視野に入れている。それは自分が消える事に対する覚悟と、試練を乗り越える期待。

 消えれば二度とこの世界に戻っては来れない。それを分かっているから、毎回こうしてレアは挨拶に来て、来て――


 ああ、もう我慢ができない。

 狂気を抑えきれないレアを知ってか知らずか、魔王は笑みを漏らして言う。


「来いよレア、遊んでやる。それで少しは落ち着くでだろう」

「お母様ああああアアアアアアアア!!!」


 挑発と同時に、屠殺の包丁を手にして鎖は無数に舞い、レアは魔王に向かって飛び出した。


 愛に飢えて、愛する事を傷つけて壊すこととはき違えた拷問狂(少女)は、砲口を上げて溢れんばかりの愛を魔王へとぶつける。




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