エピローグ
その後、私が婚約破棄を打診したことを黙っていたことで怒り狂ったクレイグに切り捨てられそうになったと訴えるクレイグの父子爵様に「おじさんは、まだ死にたくないんだよ」と再び泣かれた私は、毎日子爵家に呼び出されて、子爵夫人指揮のもと、ものすごい勢いで結婚式の準備をさせられた。
途中他の仕事も入ったので、本当に目の回るような忙しさだった。
そして、わずか半年後には結婚式となったわけだが、驚いたのは、それよりも早くに王太子殿下の結婚式があげられたことだ。
あの後、噂によるとアメリア様は、公爵家には戻らず、王太子殿下に連れられてそのままお城で暮らし始めた。
そして、僅か三ヶ月後には式を挙げられ、一年後には王孫殿下が誕生した。
「セルマ!」
「アメリア様!」
今日、私は王宮に上がっている。
実は、アメリア様のお輿入れ前の臨時メイドとして二ヶ月だけ王宮に上がっていた私も、結婚後はお勤めもなかったので、久々の再会だった。
アメリア様は、大きな藤製の椅子にゆったりと腰かけられ、その腕には三月前にお生まれになった王孫殿下を抱かれていた。
アメリア様に手招きされ、近くに寄らせていただく。
アメリア様と私の脱走事件は、一応公には伏せられているので、今日は同じ年頃の臨時メイドに王孫殿下を私的にお披露目するという名目で呼ばれているのだ。
王孫殿下の負担にならないようにと、少人数だけ招待され、一人一人別々に謁見するようになっている。
だから、私も心置きなくアメリア様と王孫殿下の側に寄ることができた。
「――かわいい」
思わずつぶやいてしまってから、王孫殿下に不敬だったと慌てて口を押さえた。
「うふふ。そうでしょう」
アメリア様は、相変わらずで私の発言も気にされた様子はない。
「セルマももうすぐね。乳母には間に合わなかったけれど、男の子だったら、一緒にクレイグに剣の指導をさせましょう」
その時は付き添いでお茶をしに来てね。
そう言って、私の少し膨らんだお腹をなでるアメリア様。
その笑顔はとても幸せそうで。私まで嬉しくなる。
日当たりのよい部屋の温かなお母様の腕の中で、すやすやと眠っておられた王孫殿下が、不意にアメリア様の腕の中で大きくのびをされた。
「ほら、この子もやる気満々よ」
私たちは顔を見合わせて笑い合った。
私の嫁いだ子爵家が、二代に渡って国王の懐刀といわれる近衛を務めることになるのは、まだまだ先のお話。
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