モコモコ草
「それじゃ、新会員に武光の鍼灸魔法を見せてあげなさいよ」
「……魔法じゃないから」
カヤの言葉に促されて、先ずは鍼の準備とベッドメイキングをしてから、問診票を探す。
すると、サラは不思議そうな目でこちらを見ながらメモを渡してきた。
『杉山さまの鍼灸術ですが、鍼のみなのですか? 噂に聞くモコモコした草はお使いになられないのですか?』
「――え? モコモコした草? それってまさか……」
噂? サラのニュアンスから推測するにそれはモグサのことに違いない。けど、俺はこの世界ではモグサによるお灸はしたことがない……なんの噂なんだ。
カヤにモコモコした草に関して通訳してもらう。
『シャギーリには流通してないのでしょうか? 噂というのは斉秦帝国では近年、杉山さまと同じように鍼灸術が行われているようで、フリーライト合衆国でもモコモコした草、名前は忘れてしまいましたが、それに火を着けて脚に載せるとケイラス病に良いと聞いています』
モコモコした草に火をつけて脚に載せる……まさしく三里の灸だ。三里は胃の経絡だが、健康長寿の意味合いもある。ケイラス病に効くのかは不明だが、民間療法的な広まりがあるのだろう……つまり、お灸の知識を持つ者が斉秦帝国にはいるのか。
名前からして明らかに中医学な鍼灸師がいそうな気がしたが鍼灸が行われていると聞くとなおさらだな。
「斉秦ねぇ……あの国に関しては外部との関係を閉ざしているからアタシもあまり詳しくないけど、魔法使いが結構いるみたいだし、もしかしたらアンタと同じような鍼灸師がいても不思議じゃないわね」
ピリスから聞いた話でも斉秦帝国に関する情報は乏しい。そもそも、シャギーリ共和国と敵対関係にあるらしく、国境沿いでの小競り合いも度々あるようだ。
モコモコ草がシャギーリで手に入らない理由も分かる。
モグサの仕入れと斉秦帝国の鍼灸に関する情報……フリーライト合衆国に行く理由が俺にも出来てしまうな。
「姐さん、ホラ、起きてください、会館に着きましたよ」
「……うー、あたまいたーい」
「あの後も、朝までハシゴするからですよ。杉山さまに二日酔いの鍼灸治療してもらったらいかがですか?」
サラの問診に入ろうとしたところなのに、騒々しいのが来たな。
「……えー、あいつ、あたしのことぉ、おばさんって言って治療するからいやだぁ」
「まだ、酔ってるんっすか、姐さん」
やっぱり気にしてた!
「アニキ! すいません、遅れまして。姐さんが二日酔いで……え」
「どうしました、ンドルさん? 入口の前でとま……まさか」
「うー、なによ、とまって……あー、あんたは、たしか魔とう……あ、吐きそう」
シリアスな雰囲気をぶち壊すように、わーっと古参会員が騒ぐ中、入会したの間違えたかなと顔をしたサラ新人会員を俺は見逃さなかった。
すいません、ゲロリストで。




