カヤちゃんヌードル
(公社)ボッカイ魔法協会の表札の前で一度立ち止まる。夜の会館からは光が零れて見えている。
……まだ起きているよな。
ピリスが帰ったあとに、直ぐにはお開きにせず、結局、夜中まで飲む事になった(俺とアカネはミルクだが)。
主にパシーの絡みが凄くて、最初の方はカイルがなだめていたが、徐々にカイルも愚痴っぽくなってきて、挙句にンドルが泣き出し、アカネが寝だした。
マイペース協会に名前を変えようかな?
はぁ、っとため息を吐いて、気持ちを整える。
ある意味第三ラウンドの開始だからな。
そーっとドアノブに手をかけて扉を……開けない。
ガチャガチャと鳴らすが開かない。
鍵をかけなくても誰も入るわけがない魔法協会会館に鍵が掛かっているということは。
「……あれー、誰かしら? こーーーーーーんな夜遅くに訪ねてくるなんて?」
「……カヤ、開けてくれないか?」
「えーっと、どちらさま? もしかして、エレメントマスター関係の人ですかぁ? すいませーんここは魔法協会ですから、お家間違っているんじゃないですかぁ? イオニアにどうぞぉー」
なんて分かりやすい拗ね方なんだ!
ここからイオニアまでどれくらいかかると思っているんだよ。
「はぁ……じゃ、また馬車で送ってくれよ、俺の為にクッキー焼いてさ」
「はぁぁ? あ、あ、アンタの為に焼いたんじゃないって言ったでしょ!? そ、それに馬車って……思い出させないでよ」
怒ったと思ったら急にしおらしくなって……あー、あのマジでキスする五秒前の事、か。
「……」
いや、意図していたんじゃないが変に気まずい空気になったぞ。
「そ、それより、大変だったよ。ピリスが先に帰っちゃってみんな酔っぱらって愚痴がすごくてさ」
ガチャと扉が開き、カヤが満面の笑みを浮かべて出てきた。
「へー、ピリス先に帰ったんだ、それは残念だったね!」
言葉と表情が違いすぎる。
いつものパジャマ姿だ。髪もツインテールではなくロングヘアーのお休みモードのカヤ。こうして見れば年齢より幼く見えるし、角と犬歯が無ければ暴虐のカヤの異名もウソのように聞こえる。
「寒っ! 早く入りなさいよ」
プルルっと震えるカヤに促されて会館に入る。靴を脱いでいるといい匂いがしてくる。シチューかな?
「……少し多く作り過ぎちゃったから、アンタが処理して」
「処理ではないけど、ちゃんと食べて無いから助かるよ、カヤ」
「そ、そうなの? じゃ、じゃあ、他も出さないと」
カヤは、ぱたぱたと急ぎ足で廊下を抜けキッチンに向かった。
……打ち上げで食べてこなくて良かった。
思っているより、カヤは講座の事を気にしてないのかな?
俺もカヤに続いて廊下を通り、ダイニングルームへと入る。
「はい、余り物しかないけどね」
と机に並べられた料理は余り物とは思えない。
打ち上げに参加してきた俺の為に用意しておいたとは考え辛いが、こう見えてカヤは気配りが出来る娘だと一緒に暮らし分かってきた。
何かを欲しているときに必要としている物を差し出してくるので、イセコスにきて身体の不調で困ったことは一度も無い。咳をすれば魔法ののど飴、腹を下せばマジクルト1000、小腹が空けばカヤちゃんヌードル。
……俺の方がよっぽど気が配れてないよな。




