普通であること
「……ピリス」
「……そんな顔をするなタケミツ。解析不能なケイラスを依り代とする魔法、お前なら今日までの魔法の力を見ただろ……ごほっごほ」
満身創痍な身体を起こしピリスは咳き込む。
「先生ぇ、まだ起きるのは」
「いいんだ、パシー嬢……タケミツ、お前の世界でケイラスという存在を観測すればどうする? そして魔法があれば」
「管理される」
ピリスは悲し気に笑う。
「そうだ、だからエレメントなんだ。イオニアの街の人達やシュミットくんのような人間が生き残るために必要なモノが……エレメントなんだ」
「だけど、その為に世界が滅びてもか!?」
ピリスに当たっても仕方ないとはわかっている。
クラウス・シュミットの必死な表情、イオニアの街で暮らす人間、俺の世界と一緒だ。
地球環境を汚染するエネルギー利用と同じように、ケイラスにて循環すべき魔力をエレメントマスター達はエレメントコア化させてエレメントとして秩序の下の安定を作り出す。
秩序の在り方が間違っていたとしても、そこでしか生きられない人達もいる。
みんながみんな、魔法使いにはなれない。魔術使いだって懸命にもがいてカイルやパシーのような生き方をしている。
「イセコスは滅びるのが運命なのか……」
ピリスは曇りの無い眼で首を振る。
「運命などは知りたくない……私は人の物語が知りたいんだ、根拠やデータでは測れないこの物語の続き。タケミツが救ってくれた私の物語の続きを……きっと紡いでくれる、と私は信じている」
俺が……紡ぐ……物語。
ニヤニヤと笑うジャキに向き直る。
「全てを回帰させるということは……イセコスの全ての命は死ぬということか?」
「死して蘇るのヨ、ケイラスがある限りこの世界は巡り続けル。ただ、中庸の者、キサマはこの世界の者ではナイ。キサマもこの世界の永遠の円環には相応しクナい」
「その姿で部外者扱いされるのは正直、グサッとくるね」
だけど、部外者であるのは間違いない。
そう、部外者だからこそ、俺にしか紡げない物語があるはずだ。
【中庸の者】
偏らず、常に中立、調和をとる者だ。半分とか真ん中とかではなく、その時々で判断される最善の道。
正直、地球でこの域に達する人なんていないだろう。
究極の概念を持っている者ということになるが、俺はそんなのではない。
「俺は、ただ、ここで……会館の掃除をして、街で買い物して、薪を割って、風呂を焚いて、美味い飯を食って柔らかいベッドで寝る。時々、カヤのバカ話を疲れながら聞いて、アカネの発情を発散させて、ンドルに色々手伝って貰って、パシーの横文字にイラっとして、カイルさんに愚痴を話して、ピリスと議論をする。【普通な毎日】を守りたいだけだ」
「……ツマらんナ、では死ンでクレ」
五色のイナズマの収束が先ほどよりも勢いよく光を放っている。
まるで、某戦艦が放つエネルギー収束のように破滅的な光だ。
その射線には俺を先頭にみんなが居る。
後ろから、いくつもの声が聞こえる。
「大丈夫」
聞こえているか分からない声でみんなに返す。
そう、もう大丈夫なんだ。
ここで紡いだ『ぐだぐだ』もまた俺が守りたい【普通】だから。
巨大な光の束がこちらへ放たれた。
オブザーバーが突如、光り輝き目の前にステータスが映し出される。
【普通S】が【中庸S】になっている。
そんな立派なものじゃないよ、俺はただ、みんなの笑顔を見たいだけだ――
――巨大な光の束は俺の前で掻き消えた。
その光景に、その場にいた全員が驚愕している。




