ジジイの妄執
アカネの言葉が合図かのように半壊した家は消え去り、気づいた時には水のヴェールに包まれて更地に座っていた。
空を見上げてみると、青赤黄白黒のイナズマを纏った巨大な龍が空を支配していた。
金色の龍、五神族の王、皇帝の証、それが今のカヤなんだと分かった。
しかし、カヤとはまるで違う所は、あの澄み切った蒼い瞳ではなく闇で濁ったケモノの眼だ。
その異様な光景に戦っている魔術使いやゴブリン達は動きを止めた。
「カヤちゃん!! どうしたの!? 苦しいの!?」
アカネの声に反応したのか五色のイナズマが夜空を駆け巡る。
「素晴らしい! 流石はケイラスの麒麟児カヤ・シドウ。私の最高傑作だ!!」
オオカワ!!
声の主に向かって駆ける。
コイツのせいで!
飛び掛かった。
しかし、それは空を切る。
「……何とも興醒めな。異世界の無能力者は灯影術を知らんらしい」
地面から顔を起こすと確かにオオカワがいる。しかし、言葉の通り投射された立体映像のようにノイズが走った。っクソ。
「カイル、コイツはいらぬ」
オオカワの横に立つカイルは右手のひらに小さな水晶を載せていた。
魔術の力か、水晶からオオカワは投影されている。
「……会長、シドウさまは覚醒なされたのです。これ以上、無辜の者たちの犠牲は必要ないと考えます。それに杉山さまは、シドウさまにとって特別な存在です。我々が彼を害せば、シドウさまの覚醒にも影響が出る恐れも」
「カイルよ……貴様が何故、この小僧の事を庇うのかは考えたくも無い。もっと早く、この小癪な存在を知っておれば、容易にシドウくんの覚醒を図れただろうに」
「……取らぬ存在と侮っておりました」
「フン、この不始末、全てが終わった後に待っておれ」
カイルは俺の存在をオオカワに伝えていなかった? なぜ?
「オオカワ先生……カヤちゃんに何をしたのですか!?」
アカネがオオカワに詰め寄る。
「ミソノくんか、今までシドウくんへの補佐、大変だったであろう? エレメントマスターどもの傲慢さ、無資格どもの厚顔無恥な振る舞い、良くぞ耐えてくれた。見たまえ、この不正に満ちた世界をカヤくんが正してくれる日が来たのだ」
悦に入ったような表情でカヤに向けて両手を広げている。
ジジイの妄執はどんな世界でも厄介なものだ。
「……カヤちゃん苦しがってる、ケイラスもおかしいし、こんなの間違ってます!」
アカネの毅然とした抗議の表情に、オオカワは顔をしかめる。
「ミソノくん、キミはまだまだ若い。いずれキミも私の考えが」
「分かる日なんてこないね、俺が、分からなくても良い協会にするからな」
「お兄ちゃん……」
立ち上がる俺をオオカワは忌々しそうに睨みつけてきた。
「部外者の分際で! キサマに魔法使いの矜持の何がわかる!? ようやく見つけたのだ、ケイラスの全てを引き出せる逸材を! ……だが、シドウくんには甘さが残っていた、無資格どもへの憎しみが足りなかった。ははは、だからあの女狐に力を与え、この街に無資格どもが跋扈するよう仕向けた。浅ましい無資格どもの本性を見てシドウくんは魔法使いの矜持を示すはずだったのだ!」
自分の言葉に酔っていやがる。
あの女狐とはパシーのことか……カイルを介してパシーに魔術紋をバラまかせていたのもオオカワ。
この酔っ払いジジイからもっと言葉を引き出そう……カヤは最悪な状態だが、解決できるヒントがあるかもしれない
「つまり、アンタは魔術使い達へのカヤの憎しみを利用して、こんな風にさせたかったのか」
「こんな風ではない! ケイラスにチュウヨウをもたらすものだ!」
「ちゅうよう?」
中庸か!? バランスを与える者という意味なのか。しかし、今のカヤは明らかにバランスを崩しているようにしか見えない。
「本来なら計画どおりに進んでいた。だが、無資格どもを会員にするなどと愚かな選択をした! 奴らはカヤくんの覚醒の生贄としての機能も果たさず、挙句に後始末のためのゴブリンまで不安定なカヤくんに処理させ、朱雀の暴走まで引き起こした」
ゴブリンは憎しみに駆られたカヤが魔術使い達を虐殺した場合のアリバイ……エレメントアーミーへのアリバイ工作か。流石に魔法使いだとしても大量虐殺者をエレメントアーミーが放置するわけがない。
だが、パシーはオオカワの思惑とは別に動いた。気づいていたかは分からないが。
そして、ゴブリンはオオカワの手引きで野営地だけでなく、もう一カ所にも駐留させアカネの守護のポーションで強化させていた。
そして、幸か不幸か自治権をもらい、エレメントアーミーの介入が無いと確信して動いたという事か。
朱雀の現出はカヤが原因だったのか? あの朱雀は虚していた……虚させたのはカヤ?
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