一家だんらん
外の喧騒と隔離されたかのようなシーンと静まり返る室内。
窓から炎の赤い光が室内を照らし、リビングの一家団欒に使われているであろう食卓テーブルの席にカヤが座っていた。
「カヤ!? 何しているんだ? アカネが住民や魔術使い達を守っているけど、このままじゃもたないぞ」
戦火の赤い光に染まったカヤは無表情で微動だにしない。
……明らかにまともな状態じゃない。
ゆっくりと傍まで近づこうとするが、
「来ないで!!」
悲痛な叫び声をあげた。
「……アタシだってアカネを助けたい。みんなを守るのが会長の役目と分かっているわ! ……でも、みんなって何? 誰の事を指しているの? 助けたとしてアタシに何か得があるの? そもそも何故、ゴブリンが街を襲うの? それも野営地に居た奴らよりも『意図的』に魔術耐性がついた」
ゴブリンはオオカワの手引きに決まっている、しかし『意図的』に魔術耐性がついた?
『ギルドへの依頼で街の防衛力を高めるために城壁に魔方陣を施そうと考えております』
そういえばアイツはオオカワの……もしかして、あの時の守護のポーションは――
「結局、運命は変わりませんでした、か」
涼し気な声に若干の憂いが混じったトーン。
「カイルさん……あなたの仕業か」
白と黒のチェック柄のスーツを纏ったカイルがドアの近くで哀し気な表情を浮かべている。
「……杉山さまに勘違いして欲しく無いので端的にご説明させていただきますが、私は裏切ったわけではありません――初めからこうなる手筈を整えていただけです」
淡々とした口調で事実のみを述べたかのように語る。
「裏切りじゃない? ……なら、カヤとアカネはアンタらの計画を知っているとでも言うのか?」
「シドウさまとミソノさまは、オオカワ会長のお考えをよくご存じのはずです。正しい魔法世界の在り方、そのためにはどんな犠牲も厭わないと」
「……アカネはどうなの?」
虚ろな表情をしたカヤがぽつりとつぶやく。
「……ミソノさまの魔法薬のお陰で無資格魔術使い達は一掃されるでしょう」
カイルの言葉を打ち消すようにテーブルを叩く。
「詭弁だ! アカネはお前にあの魔法薬を何に使うか聞いていた! つまり、こんなことの為に使われると知らなかったはずだ。それに今も魔術使い達を助けるために戦っている! カヤ、騙されちゃだめだコイツ」
「――アカネと一緒に、ピリスの所に行くんでしょ?」
「え?」
「アンタの部屋から聞こえてきた」
……それは違う。
「それは違う!」
「違くない! アタシ聞いたもん、アンタとアカネがアタシを裏切ってピリスの所に行くって、ボッカイ魔法協会なんてどうでもいいって。もうこれ以上、大切な人を失いたくない……だから、アンタが生きててくれるなら……でも嫌だ、いやいやいやなの!!!」
――ああ、そうか、俺が一番、分かっていなかったんだ。
大切な人の笑顔を守る、そんな物語だったことを俺は理解していなかった。
「お兄ちゃん!!」
その声で、カヤの瞳が黒く染まったのが、分かった。




