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転生したら(公社)魔法協会附属鍼灸院の院長になった  作者: MC sinq-c
第一章 首都イオニア編
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最善の選択

 ピリスの胸にあった機械もまた同じような機能なのだろうか。

 俺の疑問に答えるように、ピリスは背もたれが焼け焦げた椅子に座ると語りだした。


「我々、人間にはケイラスへのアクセス方法はなかった。魔術紋による力の行使も亜人に比べて五神族の血が薄い我々では、身体の負担が大きすぎて扱うのは困難だったんだ。我々の力無き先祖は、迫害されこの世界に生きる術を探した。そして、エレメントを見つけた……そこにたどり着けたのは神の恩寵でも、世界の気まぐれでもなく、人間の飽くなき探求と尽きぬ研究によって」


 ピリスの独演状態にもカヤは口をつぐんでいる。


「エレメントによって、ケイラスの恩恵はイセコスに暮らす者たちへと正しく分配されるようになった。神の系譜をうぞぶく者や神の印に跪く者たちの独占を排し、この世界はようやく秩序が構築され、人々の暮らす足元を安定化させた。未来にまい進するエレメントマスターと過去に拘泥する魔法使い……結果はご覧の通りだ」


 惜しみない賞賛を表すかのようにクラウスは拍手をする。

 その光景をゼンギョウは冷ややかに見つめ、カヤは今にも暴発しそうな表情を浮かべている。

 三人の反応にピリスはニンマリと笑った。


「っとまぁ、タケミツに命を助けられる前まではそう考えていた……実は今は、エレメントだけの世界で果たして良いのか? と思っているんだ」

「え? アイスクラ―さま、それはどういう……」


 クラウスだけではなく、他の者たちも怪訝な顔をしている。


「シュミットくん、私はね魔法は魔法でありなんじゃないかと最近、考えているんだよ。そこのオオカワ先生の下で学んでいたときは、なんて滅茶苦茶な理論で構築しているんだろうと正直バカにしていたが、いやいや奥が深い。もう少し学ぶ必要があるとね、そこのタケミツに教えてもらったんだよ」

「……スギヤマ・タケミツゥゥ! やはりキサマは危険な奴だ!」


 ある意味、クラウスの予想が当たったと言えるが、それこそ不可抗力だ。

 だけど、少なくともこれなら戦争を回避出来るんじゃないか?


「それなら戦争などせずにエレメントアーミーはボッカイの街に侵攻はしないと約束してほしい」

「ああ、そうだな『君が要求を飲んで』くれたからね。なんなら、ボッカイ魔法協会にボッカイの街の自治権を認めてもいい。というか既に上の了承はとってある」

「あ、あ、アイスクラーさま! ……シャギ―リ国内で魔法使いに自治権がある街など、そんな待遇、前代未聞です!?」


 これは思ってもみない気前の良い返答だ。

 カヤもきっと喜ぶはず……じゃなく、不安そうな顔で俺のことを見つめている。


「アイスクラ―くん、君の良識にはいたく感服するよ。我々、魔法使いにとって街規模とは言え、シャギーリ共和国内に自治を認めてくれるとは感謝してもしきれない……だが一応確認するが、今後、ボッカイの街に関してエレメントアーミーは関与をしないと、そう言い切れるのだね?」


 オオカワの言葉にピリスはニコリと笑う。


「ええ、『何が起ころう』ともエレメントアーミーは今後、ボッカイの街への武力介入はいたしませんよ。アナタ方の街ですから」


 オオカワはカヤ達とエレメントアーミーを争わせるつもりではなかったのか?

 オオカワの思惑を読もうとすれば、諸手を挙げて喜ぶべき事態ではないかもしれない。

 しかし、現状では最大の敵となるエレメントマスターとの戦いは回避された。

 ……今までの恩返しとしては、これで十分だろう。


「――待って! 勝手に話を進めないで!」


 俺の表情から何かを読み取ったかのように、カヤが大声で場を制止する。


「……シドウくん、アイスクラーくんはこれ以上ない譲歩を認めてくれたのだ。ここは素直に礼を伝え」

「武光をどうするつもりなの!? 要求ってなに!?」


 オオカワの言葉を無視して、怒りとも不安とも感じられるような声色でピリスに問いただそうとしている。


「シドウ、単純な話さ――スギヤマ・タケミツは私と一緒に暮らすことになったんだ」

「え……え、何言ってんのよ? どういこと、なにそれ……ワケわかんない」

「エレメントギアのお陰でタケミツは特別な能力を開花させている。その力をエレメントによって解明してケイラス病に苦しむ人々を救う協力をしてもらう……キミたち魔法使いの下にいるより、多くの人々を救える可能性を選んだだけだよ」


 ピリスは足を組み替えて余裕な表情を崩さない。

 そうだ、ピリスの言う通り、俺の力はエレメントギアあってのものだ。そして命さえもエレメントギアに助けられている。


「カヤ……アカネもンドルもケイラス病に苦しんでいた。まだ見ぬ人々も、ケイラス病に苦しんでいるのなら、エレメントによって解明した方がずっといいんじゃないか?」

「ふざけんな――勝手に会長の頭飛び越して決めんじゃないわよ」 


 カヤはピリスと俺の前に立ち塞がってきた。

 いつもの甲高い声ではなく低い声色だ。


「けどカヤ、他には方法が無い。俺がピリスの下へ行かなければボッカイの人達や会員のみんなを守れないんだ。カヤも会長なら」


 パシーンと頬を叩かれた。


「――そこにアンタは含まれてないとでも言うつもり!?」 


 カヤはまるでただの女の子のようにポロポロと涙を流している。

 だって……俺は異世界の部外者だ。ここで生まれたわけでも育ったわけでもない。

 たまたま、前職の知識のお陰で活躍出来たといえ、異世界の人間はイセコスでは存在を保てない。だったら合理的に考えれば俺が犠牲になればみんなを、仲間たちを助けられるじゃないか。

 そう思っていたが、カヤの滲んだ蒼い瞳を見ていると何も言えなかった。


「……三日猶予を与えよう。シドウも急にキミが居なくなるのは悲しいだろうしね」


 ピリスはため息を吐くが余裕な雰囲気を崩さない。

 魔法協会に送り込んでおいて、必要なら手元に戻す。

 全てが、ピリスの企みだとしたら……。


「別れを済ませた後、三日目に――エアシップ五十艇を引き連れてキミを迎えに行くよ、タケミツ」

 

 五十艇……ボッカイの街を焼き尽くすには十分な数だ、

 オオカワの反応を伺おうとしたが、いつの間にかオオカワの姿が見えない。

 奴の真意は未だ掴めないが、少なくとも魔法使いとエレメントマスターの戦争を止めることは出来る。

 今は、これが最善なはずだ。


「……武光、家に帰ろう」


 カヤから差し伸べられた手を握り返すことは出来なかった。

 大人な対応は出来る、だけど……誤魔化すのは嫌だった。

 俺の考えは――本当に最善なのだろうか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章力の向上には舌を巻きます。この作品がもっと多くの人から評価されるといいですね! プロの文章に近づきつつあるのではないでしょうか。
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