ピリスの手の上
「……っぬぅ、ここで、この二人を争わせるわけにはいかん。このままでは計画に支障がでかねん」
喧噪の中だがオオカワの呟きを聞き取った。
コイツ、やっぱりボッカイでカヤ達とエレメントアーミーをぶつける気だったのか。
計画通りに進んでないのは良いが、カヤとピリスの争いをこれ以上広げるわけにはいかない。
「アイスクラ―特務大尉! 何事ですか!?」
半壊したドアを蹴破りクラウス・シュミットが現れた。
このタイミングで最悪な奴が来やがった。
……そして、こっちに気づいたか。
「ん? ハハハ、スギヤマ・タケミツ、ようやく死んでくれるか? アイスクラ―特務大尉のご寵愛だけでなく、貴様のせいで必死に昇りつめた駐在武官の地位まで失ったぞ! 私が今すぐに貴様に死を与えてやる!」
銃口をこちらに向けてきた。
下半身に力が入らない、万事休す。
「雑魚は、引っ込んでなさい!!」
部屋の隅に置かれた観葉植物がカヤの言葉に反応するかのように、急激な成長を起こし触手のようにクラウスに襲いかかり壁に押し付けられた。
「っぐぅ! ……またしても」
「あーあ、シュミットくん、余計な真似を。助けてやりたいのはやまやまだが、タケミツを失うわけにはいかないからね。大人しく待っていなさい」
火花を散らす中、ピリスは余裕のある口ぶりだった。
ピリスの言葉から察するに、どうやら俺を本気で殺そうとは思っていないのかもしれない。
しかし、どのような状況になるにせよ、オブザーバー無しにこの世界で生きられないならピリス達、エレメントマスターに主導権を握られてしまう。
こうなれば自分自身に鍼灸治療を……五色の川が見えない。
いやでも、カヤの魔法料理のお陰で2ランクも上がったんだ、集中すればきっと、養生の精神で……ダメだ……何も見えない。
「武光!!」
消えゆく身体にカヤがすがりついてきた。
「……はは、どうも、オブザーバー無しじゃ、役立たずみたいだ」
「そんなこと無い、そんなことないよ……」
瞳に涙を浮かべながら消え入りそうな声だ。
「鬼の目にも涙だな」
俺の軽口に反応せず、消えゆく俺の手を強く握りしめる。
………これ以上、カヤを悲しませたくない。
俺が生き残る方法はひとつ。
「……ピリス、要求を飲むよ。助けてくれ」
俺の言葉にピリスは不敵な笑みを浮かべると、蛇腹剣を振るってクラウスを拘束している木の触手を切り払った。
「……アイスクラーさま、面目ございません」
「謝罪はいらない、行動で示してくれたまえ。それで、エレメントコアはちゃんと持ってきたのかな?」
クラウスは頷くと黒いコートの内ポケットから黄色く光った宝石のようなものを取り出し、ピリスに渡した。
「タケミツ、エレメントコアを見せるのはこれで二度目だな。これはあの時のような破壊を生み出すだけでなく、キミの命を救うものでもあるんだよ」
そういってピリスはオブザーバーを操作して電池交換するかのように、ほぼ消えかけている黄色のエレメントコアを取り出し交換した。
「さぁ、これがキミを救う、『エレメントの力だ』」
こちらに投げられたオブザーバーを受け止めるため手を伸ばすと、自動的に腕に巻き付いてきた。
腕から全身に気というかエネルギーが充填されるような感覚。手や足の輪郭もハッキリし、身体の粒子化が止まった。




