正しい魔法世界の在り方
「シドウ君、儂は君を非常に買っておるのだ。儂の門下で最も突出しておった君だからこそ、ボッカイ魔法協会を任せたのだ。カイルにも君たちに不自由をさせぬ為に申し付けておるし、五月蠅い連中を黙らせてもおる。それは正しい魔法世界の在り方を共に作り出す為ではないか? 一時の甘さでーーもう一度悲劇を繰り返すのか?」
オオカワの皺だらけの手がカヤの肩に置かれる。
あらゆるしがらみを載せたような重圧の手だ。
カヤの顔が曇ってゆくのが分かる。
それだけで十分、このジジイを嫌いになる理由になった。
「差し出がましい事とは思いますが、シドウ会長の英断によって無駄な血が流れず『ぐだぐだ』を回避出来たことを私は誇りに思っています」
俺の言葉に反応するように、カヤの顔に生気が戻っていった。
カヤに暗い顔なんて似合わないぜ。
「……シドウ君、何か聞こえたが、私は耳が遠いものでね。誰か他にいるのかね?」
おお、これはクソジジイの中のクソジジイだわ。
「だいぶお年を召されたようで。先ほどから当会の副会長をご紹介したはずですが? 私の代理でもある彼の言葉は、私の言葉と同じ位に尊重していただくことを望みます」
オオカワの顔に困惑が浮かぶ。
飼い犬に手を噛まれたように思っているのかな。
だが、ウチの会長は犬じゃなく龍だけどな。
「シドウ会長にお許しもいただけたので進言させていただきますが、パシー・カイロン率いるカイロン商会の当会参加が無ければ、ボッカイの街は交渉する間もなくエレメントアーミーの支配下に置かれたと推測されます。ましてやパシー・カイロン氏をシドウ会長が殺害したとなれば、それこそエレメントアーミーの思うつぼだったのではないでしょうか?」
オオカワはこっちを忌々しそうに見ていたが、言葉には無反応だった。
この感じ……何か変な感触だ。
若い頃に的外れな事を諸先輩に言ったときのような空気感。
まさか、コイツの目的は……。
「……小僧、貴様には永遠に分かることが無い問題なのだよ。シドウ君に気に入られたようだが、所詮は異世界の雑種……『そう長くはない時間』なのだ、もう少し違う生き方をしてはどうだ? 儂が掛け合ってこの街で不自由の無い生活を斡旋してやってもよいぞ?」
長くはない時間? どういう意味だ?
「――オオカワ会長、そろそろ私たちも長旅の疲れを取りたいと感じていますが、まだ続けるおつもりですか?」
俺の疑問を遮るようにカヤは鋭く言った
「ふむ……確かにな。疲れを明日に残すようではアイスクラ―君にも失礼となるだろう。では、これにて失礼させていただこうか」
オオカワは慣れた手つきでホテルマンを呼びつけると持ってきたコートを羽織らさせた。
「ケイラスの流れに逆らうことは誰にも出来ん。抗おうとするのは傲慢なことだ。謙虚であって欲しいものだな、シドウ会長」
オオカワの言葉にカヤは一礼するだけだった。
カツンカツンと不機嫌そうな足音を立てながらオオカワは去って行った。
「はぁ……なーにが謙虚になれよ、だ。どの口が言うのかしら」
「あんなもんだろ、ああいうお爺ちゃんは」
「なんかアンタ、知ったような感じね? アンタの世界にもオオカワ先生みたいのいるわけ?」
「ゴロゴロいるよ」
「うっわ、最悪。アンタの世界『ぐだぐだ』ね」
二人で笑い合う、
いつものカヤらしくなって安心した。
長旅のあとの二回戦、正直疲れ果てているが大事な話をしとく必要もある。
「カヤ、疲れているところ悪いけど話がしたい事あるんだけど」
身体を伸ばしていたカヤの動きがピタリと止まる。
「あー……今日はいいわ、止めとく」
「いや、そうなんだけど、明日の事にも関係するから」
「――話したくないって言ってるの!」
突然、カヤは大きな声を出すと自分の怒りに驚いたような顔をした。
「ご、ごめん、疲れちゃってるから、また、そのことは今度、話そう」
俯いたままカヤはロビーの階段を駆け上がって行った。
疲れているせいだろうか……それとも聞かれたくない事があったのだろうか?
気になる点は多々あるが今日は流石に話し疲れたし、明日に備えなければ。
事前に、ピリスとオオカワの感じも掴めたとも言えるし、明日の会談で何とか穏便に事態を持っていけるよう頑張るしかない。
「ありゃ、ケンカですかい? 明日は大事な日なんですから程々にしてくださいよ」
呑気そうな顔でンドルがやってきた。
酒臭いが、まぁ、旧友と会っていたなら仕方ない。
「ンドルも酒は程々にな」
疲れが溜まった欠伸をしながら、俺も華やかなロビーを後にした。
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