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転生したら(公社)魔法協会附属鍼灸院の院長になった  作者: MC sinq-c
第一章 首都イオニア編
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作用機序と再現性とエビデンス

 いや、待て! 俺にはカヤが……ち、ちがう、何でカヤなんだ! まだ十代の少女だぞ、これはいけない!

 ならば、アカネが……いやいやいやいやいや……だが、それがいい!

 じゃない!

 ダメだ、二人をそういう目で見てはイケナイ!

 なら、ピリスで良いじゃないか、むしろ容姿もスタイルも好みのタイプだし、拒絶する理由は全くない……いやいや、交渉に来たのに性交渉しちゃうのは違うだろ!


「……何をそんなに頭を抱えて悶えているんだ?」


 ドアの方へと振り向く。

 おお、バスタオルを巻いて登場してくださった。

 髪もまとめて上げている、湯上り姿が眩しすぎる!


「どういう恰好が良いのか分からなかったから、下着は着けていないが?」


 うーん、ケイラスの巡りが良すぎて鼻から血が出てしまいそうだ。

 ここまで言われて何もしない選択肢があろうか?

 カヤとアカネは仲間だ、そうだ、仲間なんだ、ただの仲間、なかま……ああ、カヤとアカネぇ!!


「……頭でも痛いのか? 無理なら今回はあきらめるが」


 不安げな表情を浮かべながらピリスはベッドに腰かけた。


「いや、大丈夫! ……それより、俺もシャワーを浴びなくていいの?」

「キミが? 何故? キミの世界ではそうするのか?」


 男はこっちの世界ではシャワーを浴びないのか! 刺激的すぎる!


「どちらでも構わないが早くしてもらいたいな……腰と肩がだるくて仕方ないのだ」

「……え、腰と肩?」

「そうだ。キミの噂は私の耳にも届いているのだよ。鍼灸……だったか? それで身体の不調を治すのだろう? エレメントの力で治さずに、キミの鍼灸とやらの効力を見てみたいのでね」


 ……ですよねぇ、そっちですよね。


「はい、よろこんでー。はぁ……じゃぁ、先ずはオブザーバーで」

「いや、待ってくれ。ケイラスの力ではなく、キミの世界の『技術』で私に鍼灸をしてみてほしいな」

「あー、そっちか……そうだね、可能ではあるよ」


 ちょうど、カヤが管鍼も作ってくれたし、長さがバラバラだが鍼の太さは同じだから、日本での施術のやり方も可能だ。


「じゃぁ、先ず問診からになるな」


 カヤに質問し症状や発病年月日などの詳細を聞き取る。


「うーん、どちらかと言えば筋緊張による症状だな。東洋医学より西洋医学なアプローチをするか」

「……西洋医学?」

「ああ、気の巡り、この世界で言うとケイラスや魔力の流れではなく、人体の解剖生理学から考え筋肉や神経にアプローチすると言えばいいのかな」

「つまり、可視化されたデータを重視し、科学的根拠を元にして治療をするのか」

「そうそう、エレメントの考え方と一緒だよ」


 ピリスがフッと笑う。


「鍼灸というのはケイラスだけでは考えずに、科学としての側面があるということだな? キミもまた、そういう考え方を持っている、と」

「ま、まぁ、そうだね、そうなる」


 挑戦的に向けられた視線から逃げるように、持っているバッグから鍼灸用具を準備する。

 ピリスが何を言いたいのか分かっている。

 本来の俺はどちらかと言えばこちら側の人間だ。現代医学が主流の世界の人間なのだ。


「その管はなんだ?」

「ああ、これに入れて打つのが俺の国での標準なんだよ」


 まずは座った姿勢から肩に鍼を打つ。


「ほぉ、刺されているのを感じないものだな……ん、何か重いような刺激がきたぞ」

「ああ、それはヒビキだね。ツボに入って気が巡っているんだよ」

「……そんな、曖昧な表現じゃない考えもあるんだろ?」


 その通りだ、内因性オピオイドによる作用とか、ゲートコントロール説とか、下行性疼痛抑制系とか、西洋医学的な作用機序での説明も出来るが。


「東洋医学は曖昧な考えじゃないよ。陰陽五行というのは」

「フフフ、聞かせて欲しいな」


 肩や腰の治療をしながら東洋医学の話しをするが、カヤとアカネに話した時のような感触とは違う、ヌカに釘を刺すような感じだ。


「終わりかな? ……んー、確かに肩と腰の調子が良くなった。これも経絡の巡りを改善してくれたお陰かな?」

「……いや、筋緊張が軽減されたんだよ」


 バスローブ一枚のスタイル抜群の美女がベッドに腰を掛けてほほ笑んでいる。

 なのに、今はまるで色気を感じない。むしろバスタオルが白衣のように見えてきて、医者にでも鍼を打った時のような感覚だ。疲れる。


「いやー、気に入ったよ鍼灸治療……ただ、もう少しデータを集めた方が良いんじゃないか? 残念ながら先ほどの話しではエビデンスが不十分だ。技術の再現性も高くないだろう、術者の技量に寄り過ぎる……エレメントギアを用いれば」

「やめてくれ、鍼灸はエレメントじゃない……言われなくても鍼灸の科学的根拠の乏しさは嫌というほど指摘されているよ」

「しかし、結果は出せる、と言いたげだね」

「実際に、ピリスの不調は改善しただろ? 結果が伴えば文句は無いだろ」

「その通り。だが、こうは考えられないかな? ……キミが一人で治すより、キミと同じ効果を出せるモノを百人分用意出来れば、より多くの人々を救えると」


 ピリスのしたり顔がムカつく……だが、考え方は間違ってはいない。

 俺の世界でも東洋医学と西洋医学、どちらが多くの人間の命を救ったのか、考えてみれば分かることだ。


「さっき、この街を一通り歩いて何を感じたかい? この街はボッカイと比べても安全安心なのさ。それはこの街イオニアが、エレメントによる制度化された街だからだよ」 

なるほど、初めからそれは感じていた。ボッカイにも秩序はあるが、イオニアの整然とした雰囲気は、文化が違えどまるで日本にいるように思えた。


『我々が求めているのは秩序の下の安定だ』

 クラウスの言葉を思い出す。 


「だけど、この街は物質的とも言える。それは人を支配する」

「物質的! 面白い、キミはまるで魔法使いのような事を言うのだね」 


 面白いと言っているが、ピリスの目は笑っていない。


「魔法使いと暮らすことを勧めたのはピリスだろ?」

「確かにその通りだよ。私は、ボッカイ魔法協会に行くようキミに勧めた。それは、今後、エレメントマスターになる者に広い視点を持ってもらいたいからね」 


 エレメントマスターになる者、だって?

 ピリスの微笑みが得体の知れない人間の顔のように思える。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ピリスは何を考えているのかわからず焦点が合わないままでしたが、ここでようやく輪郭がみえてきたような気がしました。
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