過去の影響
小高い丘で昼飯を食べたあと、馬車でまた道を進む。
あと、数時間ほどで首都イオニアへと着くらしい。
カヤの表情が先ほどより、少し緊張気味に思えた。
「イオニアへは何度か行ったことあるの?」
「……まぁ、それなりにね。シャギーリ魔法協会もあるし、子供の頃に住んでいたしね」
「へぇ、もしかしてカヤの実家もあるとか?」
「ないない、アタシの実家は西のフリーライト合衆国だから」
西にあるフリーライト合衆国、アメリカっぽい感じの名前だな。
「たまに実家には帰ったりするの?」
カヤは目を伏せると少し間を置いた。
「もう、七年くらいは帰ってないかな」
「あー、そっか、俺もあっちの世界じゃ実家にはあまり寄りつかなかった」
両親とも疎遠だったし、地元の友人も何十年と会っていない。
そもそも俺がいなくなっても、誰も困る人はいないだろう。
「一緒ね……ただ、アタシは両親が嫌いとかじゃなくて、昔にちょっとね」
「話題変えようか」
「ううん、せっかくだから聞いてもらいたい、かも」
意味深な言い方にドキッとしてしまう。
「……アタシの両親も魔法使いでね、アタシも子供の頃から魔法使いとしての教育を受けていたの。そんな環境の中、たまたま知り合った男の子がいてその子も魔法を使っていたのよ」
「魔法友達だな」
「私もそう思っていたわ。彼は自由な子でね、アタシみたいに型にはまって無かった。好意を持っていたけど……間違いだと後で気づいたの」
「まちがい?」
「彼は魔法使いじゃなく、協会に所属しない無資格魔術使いだったのよ」
穏やかな顔をしていたカヤの瞳に刃物のような鈍い光が映り込んだ。
「子供の無資格魔術使いもいるのか?」
「親の実験道具よ。違法な魔術紋を子供に植え付けてお金を儲けようと企むクズはこの世界に沢山うごめいているわ……粗悪な魔術紋、真っ当な教育を受けていない魔術の行使、それによって、彼は魔物になったわ」
重苦しく冷たい空気が馬車の中に立ち込めた。
例えじゃなく、これは無意識にカヤが放ってしまっている魔法なのだろう。
「彼を『処理』したのはアタシの両親だった……本当は魔物に変わる前にアタシがすべきだったのに……出来なかった」
慰めの言葉をかけるには重すぎる内容だ。
「それからアタシの道は決まった。実家を出て、シャギーリでゼンギョウ・オオカワ先生の下、正しい魔法世界の在り方を学んだわ。一人でも多くの魔術使いを救う必要があると理解したの」
正しい魔法世界の在り方、か。
カヤの魔術使いに対する執拗すぎる憎しみの原因は、幼い頃のトラウマとオオカワセンセイって奴の思想なのかもしれない。
「修行後はボッカイ魔法協会会長を任されたとか?」
「そうね、アタシもアカネもめちゃ優秀だったし……まぁ、あの女もね」
先ほどの重苦しい空気とは別な意味のどよーんとした空気に変わった。
「あの女?」
「ピリスよ、ピリス・アイスクラ―。あの冷血女とはオオカワ門下で同期なのよ」
「は? え、だってピリスはエレメントマスターだろ? 何で魔法使いの弟子なんて」
「勿論、あの女がケイラスを見えるわけじゃないわ、だから好き勝手なことを言ってアレコレしてたけど、マジで意味が分かんない奴だったし」
「よくオオカワ先生って人は許してたね」
「政治的な配慮でしょ。忌々しいけどエレメントが主流の世の中じゃ、ガリ勉どもとの付き合いも考えなくてはと、オオカワ先生は言ってたし。ま、アタシにはよく分からないから、こういう結果になっちゃったワケなんだけどね」
あっけらかんと話すが、戦争一歩手前まで来ているんだがな。
ピリスとカヤの関係がここで繋がるのか。つまり、ピリスとアカネも同期だから、ピリスはアカネの名前を憶えていて俺に紹介する流れとなったのだろう。
ピリスにとってはアカネとカヤの名前がごっちゃになっている程度の記憶なのかもしれないが。
それと、ゼンギョウ・オオカワ。聞いた感じだと魔法至上主義者なのかもしれないが、エレメントマスターだったピリスを弟子に受け入れたりする面から推測するに、ただの偏った人物ではなく、カイルと冒険者ギルドを使ってカヤの支援も考えている辺り、そこまで悪い人ではないのかもしれない。
「やれやれ、しがらみのせいで馬車に揺られてしがらみのお陰で戦争回避の交渉が出来るわけか」
「しがらみ? ……おじさん臭い言い方ね」
中身はおじさんなんだからしょうがないだろ。
カヤはうーんと腕を組んで答えた。
「しがらみって言うより『ぐだぐだ』ね」
「あはは、確かにその表現良いな、カヤらしくて、はは」
俺の笑いに「私のことじゃないんだからね」と頬を膨らまして顔を窓に向けた。
ぐだぐだか。
若干、ニュアンスが違うが、ここは俺の世界のしがらみだらけの日本じゃない。
ぐだぐだしているだけと思えば、そう悲観的に考えずにも済むな。
「あ、そろそろ見えてきたわね」
カヤが窓の外を見ながら言った。
「はは、そうきたかぁ」
地平線の先に高層ビルのような高い建物がいくつも見える。
この牧歌的な周りの風景とは異質なビル群。
イオニアはまるで、日本の街並みのように思えた。




