朱雀顕現
「火の魔力の暴走!? そんなこれじゃ」
火の粉のような粒子が集まり始め、火から炎へ、炎から、火焔へ。
――そして巨大な鳥のカタチへと変態していった。
燃え盛る火焔の鳥が野営地上空に姿を現した。
「……あれは……スザク」
スザクって四神の朱雀か?
アカネとカヤが不安げな表情を浮かべている。
五神族の二人が恐れると言うことは、あれはただの魔物じゃないのだろう。
「ウソでしょ……本物のスザクじゃないとは言え、ケイラスから現身を出すなんて……有り得ない」
あれが、カヤ達の始まりの姿の一つと思うと魔法使いの神のごとき力も理解出来る気がする。
「お兄ちゃんを守らなきゃ……でも、どうすれば」
「アカネ!!」
「クァァァァァァーーー!!」
朱雀は甲高い奇声を上げた。
それだけで周囲の木々が燃え上がり辺り一面が火の海に包まれる。
自らの結界を敷いたかのように炎の世界で、朱雀は大きく翼を広げると俺たちの方へと翼をはばたかせる。
火焔の竜巻がいくつも作り出されこちら目掛けて地面を削りながら襲ってきた。
「我が身に宿る守護の魔力よ! 邪なるモノを清き水によって妨げん! 衛気水壁!」
アカネが呪文を唱えると俺たちの前方に分厚い水の壁が作りだされた。
「水の魔力よ! 刻め!」
カヤが合わせるかのように水の壁へと黒い字で亀甲と刻む。
亀甲水壁に火焔竜巻がぶつかった。
まるで怪獣映画を観ているかのようなダイナミックで非現実的な力が目前で激突している。
「何なのよ……ゲンブによる加護付きの水壁よ、火の根源であるスザクといえど絶対に破れないものよ!」
「……カヤちゃん……ダメ……このままじゃ」
亀甲の文字が溶け始め、水壁が徐々に蒸発しながら薄くなる。
「――武光、ンドル、これに乗って」
魔法の絨毯がいつの間にか呼ばれていた。
「――俺たちに逃げろっていうのか?」
「かいちょー……」
「ンドルさん……お兄ちゃんを……守ってあげて……お兄ちゃん……約束守れなくてごめんね」
ガラスほどの薄さになった水壁を魔杖で押さえながらアカネは儚い笑顔を向けた。
「っく……早く、行きなさい! せめて、アンタさえ生きていれば、ボッカイ魔法協会は続いていくんだから」
アカネを支えるようにカヤも水壁に魔法を注入している。
しかし、火焔竜巻は威力を増して今にも水壁を破壊しようとしている。
魔法の絨毯に乗って逃げれば……生き残ってどうするっていうんだ。
本来の自分にとって娘ほどの女の子たちを犠牲にしてまで生きながらえる。
――そんなのはゴメンだ!
まだ方法はあるはずだ、考えろ、考えろ……そうか五芒星!
「はぁ!? こんな時に何寝てんの!?」
いや、寝ているわけではないんだ、集中……節度、平静、調和……養生の心構え。
「そこだ!」
指を刺し示した場所に、五芒星が徐々に輪郭を現した。
「なんですかい、ありゃぁ!? スザクよりデカいのが出てきちまった!」
ンドルが腰を抜かすのも無理はない――超巨大な五芒星が浮遊している。
「可視化されたケイラス……けど、あれはスザクのというよりこの辺一帯のもの……地脈が乱れているわ」
土地そのもののケイラスの乱れという事か。
朱雀は魔物というより何かが引き金となりケイラスの暴走?によって具現化した火の魔力そのものというわけか。
水の相剋によってカヤ達が攻撃したが魔力の塊である朱雀の火は強すぎる……ということは。
「カヤ! あの五芒星右下の黄色い光に、さっき作った槍を打ち込んでくれ!」
「分かったわ、土を瀉すということね――金の魔力よ、錬成せよ!」
カヤの掛け声と共に無数の槍が黄色の光に目がけて打ち放たれた。
「クァァァァアアアアーーー!!」
朱雀がまるで俺たちの意図に気づいたように火焔竜巻を槍に向けて迎撃する。
燃え盛る竜巻の中で、無数の槍は蒸発していく。
「……あぅ、はぁはぁ」
朱雀の攻撃の手が緩んだと同時に、アカネが膝をつく。
アカネの魔力も限界なのだろう。次にこちらへとまた攻撃が始まれば終わりだ。
「っく、弱点が分かっても、届かなきゃ無理ね」
カヤの言う通り、いくら黄色の光を瀉すために魔法を放っても火焔竜巻を打破できる勢いが足りない。
ズボンのポケットから鍼を取り出す。
この鍼を勢いよく打ち出すことが出来れば……打ち出す……打鍼……管……っ!
「カヤ、巨大な鍼を作ってくれ! それとその鍼がギリギリ入る太さの管も」
「アンタ、あんな巨大なケイラスに鍼治療するつもり!?」
「ああ、そうだ――管鍼術でな」
俺の自信にカヤはうんと頷くと、空中に巨大な鍼と金属の管を作り出した。
俺たちの動きに反応するかのように、朱雀は火の魔力を練り始め、ここら辺一帯を吹き飛ばすほどの火焔竜巻を作りあげた。
「……もう無理ですぜ、あんな大災害みてぇな竜巻。魔法でも何も効きやしねぇ」
絶望の表情を浮かべながらンドルはガタガタと震えている。
俺も今にも震えだして逃げ出したくなる気持ちだが、カヤとアカネを見て踏みとどまる。
「カヤ、鍼を管の中に入れてくれ、そして管を黄色の光に向け」
言い終わらない内に、朱雀が火焔竜巻を放ってきた。
身体が焼けつくような熱風と失われていく酸素不足に、地獄を感じる。
火焔竜巻に覆われた管と鍼も真っ赤になり溶け始めているように見えた。
苦しすぎる、間に合わないのか……
「……ボクがっ! お兄ちゃんを守るんだ!!!」
満身創痍の身体を起こしたアカネが声を荒げながら、水壁を再構築する。
地獄に垂らされた蜘蛛の糸を手繰り寄せるように、
「カヤ! 爆発させてくれ! あの管を爆発させるんだ!!」
俺の言葉に一瞬、戸惑いを見せるが、力強く頷いた。
「木火土金水の魔力よ――弾けろ!」
カヤの言葉通り暴走した魔力が管を爆発させた。
その爆発で火焔竜巻が吹き飛び、管の中から勢いよく鍼が飛び出した。
五芒星の前に立ちはだかる朱雀はクチバシを開き巨大火球で迎撃するが、それらを貫き、鍼は黄色い光を打ち抜いた。
「くきゃぁぁぁぁああああああああああああああ」
五芒星の赤い光が過剰な光から穏やかな光に変わる。
朱雀は断末魔を上げながら、火の粉が散り散りになるように、霧散していった。
焼け焦げた世界にへたり座る。
焦げ臭さに咳をして、ようやく安堵感がやってきた。




