強大なる魔法
「千匹はいるんじゃねぇか……それにオーガまで……こりゃ直ぐにでもエレメントアーミーに通報しねぇと」
慌てる俺とンドルを尻目に、カヤとアカネはジャンケンをしていた。
「あーっ、負けたぁ……はぁ、ならアカネがメインでアタシがサブでいいわよ」
「カヤちゃんは雑だからさぁ。お兄ちゃんを戦わせたくないもん」
「甘いわねぇ、アカネは本当に甘い。コイツは一回くらい死ぬ目にあった方が良いのよ。平和な異世界だったみたいだし、イセコスの厳しさ感じさせてやらないと」
「平和だけしか知らないお兄ちゃんで良いんだもんねー」
アカネがジャンケンで勝ったことを心から感謝すると共に二人の緊張感の無いやり取りに困惑する。
「それでアカネ、どうするの? 雨にするの波にするの?」
「雨水清流か疏泄波水ね。雑を越えてテキトー過ぎるよ」
「良いのよ名前なんて、バカほど言葉を難しくしたがる昔の魔法使いの悪いところよ」
「……雨で」
「オッケー! ならアタシは金を付与しとくわ」
二人だけが分かる暗号のように言葉を交わして魔法を使う準備に入った。
「生きとし生ける者への恵みたる雨よ、清浄なる水をもって、渇きたる大地の渇望を癒したまえ――雨水清流!」
アカネは杖を現出させ空に掲げながら呪文のようなものを唱えた。
今までは手を振るだけで魔法を使っていたのに、呪文を唱えるのだから規模が大きいのか威力があるのか。
アカネの魔法に反応したかのように空に黒雲が渦巻き始めた。
すると黒雲から野営地に大量の雨が降り注ぐ。
天変地異を操るアカネはすでに神の領域なのではないか。
「呼応せよ金の魔力よ!」
シンプルな言葉と共にアカネは黒雲に対して金属の何かを放った。
それが黒雲に突き刺さると同時に、黒雲から水ではなく何かが降り注ぐようになった。
「ゴェェェェェぇ!!」
まず最初に叫び声をあげたのは4体の巨大ゴブリン、オーガーだった。
頭を防ぐように監視塔や砦に倒れ込み、バキバキ音を立てながら崩れていく。
普通の大きさのゴブリン達も防ぐ間もなく無数に降り注ぐそれに肉塊へと変貌していく。
「……あれは、槍の雨?」
地上に無数の槍が突き刺さり、死んだオーガーもハリセンボンのように身体中に無数の槍が突き刺さっている。
「カヤちゃん、何で槍なの?」
「無数の剣が降り注ぐって、ありきたりだから」
その光景を平然と見下ろしながら軽口をたたく二人を見て呆気にとられた。
ンドルも同じだろう、ある意味、ついていく相手を間違えたかのような顔をしている。
あまりにも規格外、魔法使いはこの世界の神そのものであるのだろう。
けど、少し気になるのはカヤが杖を使っていないこと。
「……アンタ、その顔はアタシが魔杖に選ばれてないって勘ぐってる顔でしょ?」
「え!? 魔杖っていうのあれ?」
「……ケイラスから特に優秀な五神族へ贈られる物、それが魔杖よ。アタシにだって魔杖はあるんだからね! ……ただ、ちょっとどっかに旅立ってる感じでね」
鼻をポリポリ搔きながら自信無さそうな顔でカヤは答えた。
目の前の気恥ずかしそうにする少女が崖下の光景を作り出したとは……神の気まぐれがまかり通る世界なのだろうか。
「ま、まぁ、魔杖の事は良いとして、終わったわね。なんか、魔術使いっぽいのいたからもう少し手間かかると思ったけど、やっぱりBランク以下だったわね」
「……一つ、聞きたいんだが、あのゴブリンってもしかして」
恐る恐る聞いてみた。聞いたからって何が変わるわけじゃないが、もしかしたら俺の能力で救える可能性もあったと考えると、聞かずにはいられなかった。
「人ではないわ……人がジャキによって変化した場合は生きた死体みたいになるのよ」
その言葉に少しホッとする。しかし、生きた死体、ゾンビのようなのがケイラス病でジャキに侵された者なのか。
「一応、残っていないか見に行こう、カヤちゃん」
「えー、めんどいー」とカヤが駄々をこねていると、野営地の辺りが明るくなっていく。
「カヤ、あの光はなに?」
「ん? そうか知らないか……死した者がケイラスへと還っていくのよ」
死んだゴブリン達が淡い光に包まれながら、光の粒子へと変わっていく。
それと同時に地上に突き刺さった槍も光の粒子となる。
血生臭い野営地に沢山の蛍が舞っているような幻想的な光景に目を奪われた。
ピリスが倒れた時やンドルが死にかけた時と同じ光、ケイラスへと還り、ケイラスから産まれる円環か……けど、ピリスがイビルベアを殺したときは死体として残ったままだった。
「死体は残らないのか?」
「魔法や魔術によってもたらされた死は魔力に戻りケイラスへと回帰をする……物理的な要因で死んだときは死体として残るわ……それとエレメントでもね」
「エレメントでも? でも、エレメントって魔術紋から出来ているんだろ?」
「もはや魔術でもないわ。あれはただの呪いよ……ケイラスを蝕む呪い」
呪い? エレメントは魔術を科学的に解明したものではないのか?
「――カヤちゃん、おかしい」
「魔力の流れが変わった? これはまさか!」
野営地を満たす光の粒子が急に赤く色づいてきた。




