ビラ配り
そこに居るのは土下座したライオン男だった。
企画会議から五日後、この世界にも印刷技術はあるようでチラシも出来上がり、チラシを配りに街の中心に向かおうとした所、ボッカイ魔法協会会館の前に彼はいたのだ。
ちなみにこれが『とっておきのアイデア』ではない。
「アニキ! 俺を弟分として使ってくだせい!!」
なるほど、ある意味で無資格魔術使い入会第一号というわけか。
「うん。弟分ではなく、ボッカイ魔法協会の会員として入会して欲しいかな」
幸先がいいな、先ずひとり。
「いや、オレはアニキの弟分になりてぇだけで、ボッカイ魔法協会には入るつもりはねぇぜ!」
うわ、コイツ、めんどくせー。弟はもうすでに一人いるし。
「武光、コイツはもう処理していいわよね?」
「え、い、いや、待ってくれ、シドウさま! わ、わかりやした、は、入りますから処理しないでくださいぃぃ!」
泣いて謝りだした。こういう展開になると予想しないものかな。
「……まぁ、入会してくれるなら無資格では無くなるんだよな? なら会員に危害を加えちゃいけないだろ」
「その通りね……うん、思ったんだけど、やっぱり勧誘(脅迫)の方が入会するんじゃないの?」
コイツもめんどくせぇなぁ、もう無視しよ。
「確か、ンドルさんでしたか? 入会を認める前に、あなたに大事なことを聞いておく必要があるのですが」
「ああ、また助けられたぜ、アニキ! ンドルって呼んでくだせえ、何でも答えますぜ!」
さっきまで泣いていた顔がウソのように明るく返事をしてきた。
この世界の人たちは切り替えが早いなぁ。
「ンドル、率直に聞くが俺に危害を加えるよう依頼した奴は誰なんだ?」
ンドルはうーんと頭を抱えるが、意を決したように頷く。
「本来なら、依頼人の素性は言えねぇもんなんだが、アニキのために言うよ」
まぁ、クライアントをバラすのはどこの世界でもご法度だよな。
「エレメントアーミー所属の【EE】だ。名前は分からねぇが、若い細身の男で顔はフードで隠れて良く見えなかったが、髪は金髪だったな」
金髪で若い細身のEE。
全く心当たりはないが、ピリスでないことは確定した。
それだけでも少し安心する。
「今のを聞いて、カヤとアカネは心当たりある?」
「あるワケ無いわ、無資格で裏切り者なんて見るのも汚らわしい」
「心当たりないかも」
EEか、ピリスとキャンプしていた時の事を思い出すと、そんな名前を言っていた気がする。確かランクの低いエレメントギアを使うエレメントマスターの補佐をする役割とか。EEはエレメントエンジニアの略、つまり魔法工学士みたいな?
いわゆるゲームで例えるとバッファーとかデバッファーみたいな役割かな。
エレメントマスターの補佐か……ピリスの関係者の線が出てくるじゃないか。
くいくいっと服を引っ張られる。
「お兄ちゃんのこと私が守るから!」
覗き込むようにジッと見てくるアカネの頭をポンポンと叩く。
「そこ、発情しない! チラシを配りに行くんでしょ!? さっさと行くわよ」
カヤが手で合図をおくると、どこからともなく空飛ぶ絨毯がやってきた。
そもそも、これは生き物なのか道具なのか、よく分らない。
「チラシを配るんだな? アニキ、オレも手伝わせてください」
「悪いけど、定員オーバーよ。貴様は走っていけ」
そんなぁ、と叫ぶ声がはるか下から聞こえてくる。
「会員には優しくするんじゃなかったのか?」
「甘い、甘い、これも修練の一つよ」
んー、入会してもすぐ辞めないといいけど。と考えている内に中心街へと着いた。
人通りの良い場所、この十字路なら問題ないだろう。
作成したチラシをリュックから取り出し、カヤとアカネに渡す。
「マジで配るの? ……なんか目立って恥ずかしいんだけど」
「それは魔法の絨毯で魔法使いが飛んできたからね」
「これも計画の内だよ!」
ちゅうちょするカヤにチラシを押し渡し、アカネは自ら取りに来た。
ここまで来たならあとは実行あるのみ。
「こんにちはー、ボッカイ魔法協会でーっす。良ければ入会しませんか?」
早速、ローブを着た中年の男性にチラシを渡す。
「ひぃ! ボッカイ魔法協会……おゆるしください!」
ピューっと一目散にローブ中年は逃げ出した。
この反応、思ったより悪い。
「……カヤちゃんのお陰で有名だから」
「ちょっと、アカネ、嫌味を言うなんて有り得ないんですけど?」
「あり得ないのはカヤちゃんでしょ! お兄ちゃんのアイデアが台無しだよ」
「ムカっ! まだ始まったばかりじゃん!」
往来で火花を散らす二人の魔法使い。
これではますます往来の人々が逃げてしまう!
うーん、何か上手く耳目を集める方法はないのか。




