殺すという選択
ボッカイ魔法協会会館に帰る前にいくつかのお店に寄って足りない物を買い揃える。
多くの食材や生活用品を買い込むが魔法の力でそれらは宙に浮いており、なおかつ帰り道も空飛ぶ絨毯で十分もかからずに館に着いた。
いつもこうしてくれればとの愚痴に、
「それじゃ、アンタはこの世界に馴染めないじゃない」とカヤに言われる。
……この世界に馴染む、か。
魔法やらエレメントが飛び交い、五神族を始め様々な種族が暮らし、魔物が徘徊する異世界イセコス。
転生者として、まさか前職の鍼灸師のスキルが生きるとは思わなかったが地球がイセコスに影響を与えているのか、それとも東洋医学の考えはイセコスからやってきたのか……近似性が気になる所だ。それに同じように職域によるしがらみに巻き込まれてしまうなんて、ある意味で馴染む気がしなくもない。
庭先でパカーンと薪を割る。
最初よりも上手く割れるようになってきたなと感じる。
「――おにいちゃーん」
アカネの呼び声がする、飯の時間か。
「でさぁ、あの時のアンタの顔ったら、あはは、今思い出しても笑えるわ」
今日のメインは魚介のスープだ。
カヤの目利きで選んだ鮮魚は野菜と共に煮込まれて、ブイヤベースのような味でこれまた超美味い。
これでステータスも上がるのだから至れり尽くせりでもあるな。
「なにアンタ、こそこそしてんのよ? ……また、そのエレメントギアをイジッてるワケ?」
「あ、いや、これがないと言葉通じないから」
嘘をついている訳じゃないが全てを説明する必要もないだろう、カヤが意外に隠れ巨乳だなんて伝えてしまったらここを追い出されかねない。
「……ふん、あんな女に貰ったものを大事そうにしてさ、なんなのよ」
「大丈夫! お兄ちゃんは、ずっとここにいてくれるから」
アカネはスープをすすったあと小さく微笑んだ。
「っちょ! こ、ここにいるのは当たり前じゃない! 奴隷なんだから! それに気になってたけど、アカネはなんでコイツをお兄ちゃん呼ばわりしてんのよ!?」
「カヤちゃんもお兄ちゃんって呼ぶ?」
「呼ぶわけないでしょ! どちらかと言えば、コイツがアタシをお姉ちゃんと呼ぶべきじゃないの?」
「いや、なんで?」」
「アンタ、マジムカつく!!」
カヤはフンとそっぽを向いてしまった。
今日は特にツンツンしてるなぁ、まぁ、理由は分かっているが。
「無資格魔術使いをボッカイ魔法協会に入会させるにはどうすればいいか、良いアイデアが無いんだろ?」
ギロリとこちらを睨んでくる。
「オレは全部知っているんだぜ、みたいな顔、ほんとムカつく!」
「いやいや、そんな捉え方するなよ。カイルさんから聞いて、少しはこの街の状況が分かったし、ボッカイ魔法協会には時間が無いと理解したばかりなんだから」
「お兄ちゃん、良いアイデアがあるの?」
ブスっとしたカヤとは対照的に、アカネは瞳をキラキラと輝かせている。
「取り敢えず今の状況を整理してみよう。まず、カヤたちボッカイ魔法協会がある、そして協力関係なのはカイルの冒険者ギルド、それに対するはパシー・カイロン率いるカイロン商会。カイロン商会は多くの無資格魔術使いから支持を受けこの街の経済と人を支配している、そしてボッカイ魔法協会と冒険者ギルドは力を持っている。そこで一つ、聞きたいことがあるんだが」
カヤの顔をまっすぐに見つめる。
「な、なによ……?」
「パシー・カイロンを殺すという選択はあるの?」
「な! そんなの……ボクは絶対に反対!」
俺の問いにアカネが猛然と反対する。




