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転生したら(公社)魔法協会附属鍼灸院の院長になった  作者: MC sinq-c
第一章 しがらみ編
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シャギ魔会

「シドウさま、ミソノさまに足を運んでいただけるなど大変光栄に存知ます」 


 男はバーの奥の扉を開いて俺たちを招き入れた。


「世辞は十分よ、カイル」 


 カヤはそう言って、高そうな黒いソファに腰をかけた

 先ほどの酒場とはまるで別世界にいるような内装だ。仕事机と椅子は黒い重厚な木材で出来ているし、後ろに所蔵された多くの本もインテリ臭を醸し出している、まるで一流企業の社長の部屋だ。


「お兄ちゃん、こっちこっち」 


 既に座っていたアカネがポンポンと自分の隣を叩いているので座った。


「では、シドウさま、先ずはこちらの英雄のお名前をお教えくださいますか?」

「ああ、コイツはウチの副会長よ、名前は……アンタ名前なんだっけ?」

「覚えてないのかよ! 数日間一緒にいて、副会長の名前を覚えないってなんそれ!?」

「うっ、う、うっさいわねぇ! アンタは奴隷で副会長なんだから、それでいいじゃない、名前はドレイヌ・フクカイチョーよ」

「ふるっ! ネームセンスが時代遅れ!」

「ボクはお兄ちゃんの名前、知っているよ……世界一カッコいい名前だから、えへへ」 


 俺たちのやり取りを男は目を丸くして見ていると、


「あははは、はー、いや、失礼、失礼。あまりにも見慣れない光景なもので、つい笑ってしまいました」いきなり笑い出した。

「カイルさん、お兄ちゃんはステキでしょ?」

「ええ、ミソノさま、偉大なるお二方がお認めになられている御人ですので、是非ともご挨拶させてください。」


 シベリアンハスキー男は柔和な笑顔をこちらに向けて、


「私の名前はカイル・アマーシと申します。こちらのボッカイ冒険者ギルドのギルド長と、シャギーリ魔法協会の副会長をさせていただいております」 


 頭を下げてきた。

 ギルド長は納得だが、シャギーリ魔法協会の副会長って、つまり全国組織の副会長か。


「あ、どうも、えーっと杉山武光って言います。今は、ボッカイ魔法協会で居候させてもらっています」 


 ゴホン、ゴホンとワザとらしい咳払いが聞こえる。


「……えーっと、あと副会長みたいです」

「ちょっとアンタ! もしかして、シャギーリ魔法協会の方が偉いとか思ってビビッてない!? 冗談じゃないわ。ボッカイ魔法協会はイセコスで初めて作られた古の魔法協会の一つよ……そりゃ、シャギ魔会はこの国全体の魔法協会だから人数も多いし、発言力もあるけど、アタシたちは下部組織ってわけじゃないんだからね!」 


 人差し指を立てながら頬を膨らまして警告してこられても。

 あと、シャギ魔会って略すのか、ボッカイ魔法協会はボッ魔会?

 ……なんか言いにくいな。


「もちろんですよ、シドウさま。ボッカイ魔法協会を含む古の魔法協会による連盟によってシャギーリ魔法協会は作られたわけですから、むしろボッカイさんあってのシャギ魔会です」


 カイルの露骨なヨイショに「まぁねぇ」とアカネは気をよくしている。チョロいなぁ。

 しかし、カイルは何でこんなにへりくだっているのだろうか、同じ魔法使いなのに?

 ちょっと、こちらのオブザーバーで、


――――――――――――――――――――――――――――

名前:カイル・アマーシ 年齢:28歳 

性別:男 ランク:B

職業:魔術使い

HP:B

MP:B

魔力:B

魔防:B

筋力:B

体力:C

速度:C

炎の魔術紋:B

―――――――――――――――――――――――――――――


「……魔術使い?」

「そうです、が……その様子ですと、シドウさまから聞いてはいらっしゃらない?」

「……アタシは話してないわ。どうせ、その腕のオモチャの機能でしょ」


 オモチャ呼ばわりは酷いが、前よりはエレメントギアへの非難めいた事を言わないんだな。


「……なるほど、エレメントギアもお持ちになられると。どちらで手に入れたかは聞かないでおきますが、奇縁に恵まれていらっしゃるのですね」

「そうなりますね、マジで奇縁ですよ」


 ピリスと知り合い、カヤとアカネを紹介してもらい、今ここにいる。

思えば遠くにきたもんだ、ではないが不思議な縁なのだろう、これもケイラスのお導き、なんてな。


「ところで、そちらのエレメントギアでご自身の事も調べられるので?」

「そうなんですが……お恥かしい話、俺のランクは最低でして」


 カイルは怪訝な顔をしながら、カヤをチラッと見る。


「……なによ」

「いえいえ、なにも。ところで杉山さま、今一度、ご自身をお調べになられてはいかがですか?」


 もう一度、ステータスを見てみるか、そういえば前より体力ついたかな?

 ポチっと……


「お、ランクがFからEに一ランク上がっている!」

「お兄ちゃんはカヤちゃんの特別な魔法料理を食べていたからね」

「カイル、アカネ! 余計なことは言わなくていいのよ」


 バツが悪そうに手で否定しながら、俺の顔を見てぷいっと横を向いた。

 なるほど、ケイラスを具現化出来たのも能力が上がったお陰かもしれない。


「ありがとう、カヤ。ンドルを助けられたのも、きっとカヤの魔法料理のお陰だよ」

「か、勘違いしないでよね、あ、あくまでボッカイ魔法協会の副会長が弱々しいんじゃ、看板に傷がつくからだし。別にアンタの身体を心配してとかじゃないし!」


 照れくさそうに精一杯否定している。

 ただ、個性の普通ってステータスは変わらないな。秘めたスキルがあるのかもしれないが、普通から連想できる事って、うーん、思いつかない。

 どうしよう、ただの凡人なだけだったら……。 

 そ、そうならないようにカヤの言う通り、少しはボッカイ魔法協会の副会長らしく頑張ってみるか。

 けど、全国組織であるシャギーリ魔法協会の副会長が魔術使いとは驚きだな。


「そういえば、魔法協会なのに魔術使いが副会長って、そもそもカヤは大丈夫なの?」

「……はぁ? アンタはアタシの事なんだと思ってるワケ? 魔術使いと見れば誰にでも噛みつくとでも?」

「いやだって、さっき処理しようとしてたし」

「……必要なときは必要な事をするだけよ。でも、助けることが出来るなら助けてあげてもいい」 


 助けてあげてもいいって上から目線すごいな。


「杉山さま、シドウさまの事を誤解してらっしゃいますが、シドウさまは魔法協会に属していない魔術使いを戒めているだけで、魔法協会に属している魔術使いには優しく接してくださるのですよ」

「……かいる」 


 カイルはカヤの低い声に肩をすくめていた。

 確かにカヤは、最初に路地裏で会った時も、入会の選択を、と言っていた。無資格という言い方も魔法協会に入らずに魔術紋を使っているからなのか。


「魔術紋を持つことに魔術使いは責任を持たなくてはいけない。その責任は個人で負えるものではない。さっきの無資格みたいに私利私欲で魔術を利用して魔物化させるために、アタシたちは魔術紋を与えてきたワケじゃないわ。魔法協会に属して然るべき教育や認定を受けて魔術使いの矜持を持ってこそのものよ、アンタなら分かるでしょ、武光」

「……そうだな、資格とは自分で名乗るものではなく、第三者に認めてもらうことだからな。その第三者の社会性が高ければよりその資格の信用度も高まるもの」 


 だから、第三者たる組織は常に秩序を求めていかなくちゃいけない。

 だが、制度化することによって、大事な何かもまた失われていく……多様性か秩序か。

 なら、魔法使いだってエレメントマスターから見れば秩序の無い感性主義のようなものだろう。

 くいくいと袖をアカネが引っ張ってくる。


「お兄ちゃん……こわい顔になっているよ」 


 ん、眉間に皺を寄せて考えていたかな。


「近頃は、魔術使いによって魔術紋を与えるケースも出てきていますからね。これは……処罰の対象となりえます」


カイルも気難しそうな顔で眼鏡をくいっとあげた。


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