副会長就任!
「モドキと言えば、そもそも魔術使いってのは魔法使いと何が違うんだ?」
俺の言葉にカヤは取り合わず、サラダをもしゃもしゃ食べ続けている。
さも、アンタには関係ない話よ、と言わんばかりだ。
「魔術使いは、五神族直系でない人達のために魔法使いが魔術紋というケイラスから魔力を取り出す為の回路を作り出して与えた人達の事だよ」
「――っ! アカネ!」
魔法使いが作成した魔術紋を与えられた人たち、つまり魔術使いは魔法使いの弟子のような存在か?
「カヤちゃん、ボクはお兄ちゃんにちゃんと話した上で、ボッカイ魔法協会の副会長になってもらいたいと思っているんだ」
突然の宣言にカヤの驚きと同じように口は開くが言葉が出ない。
副会長? 魔法協会の? 俺が?
何を言い出すのか謎過ぎて頭がついていかないぜ。
「……はぁ、アカネ、昨日今日来た、それも異世界人をこの伝統あるボッカイ魔法協会の副会長にするですって?」
「そうだよ! お兄ちゃんはケイラスのバランスを調整できる人だよ? そんなの魔法使いでも魔術使いでもエレメントマスターでも見たことが無い。お兄ちゃんは人間だけど、五神族よりケイラスに近しい存在なんだよ! お兄ちゃんなら、きっと魔術使い達との関係も上手く取り持ってくれるよ」
前世のスキルが上手く作用しているのは喜ばしい事だが、あまりこの世界のしがらみに巻き込まれるのは得策とは言い難いな。
そもそも魔法使いと魔術使いとのこじれ具合に聞き覚えがある。
「うーん、アンタはどう思ってるの? 自分がこの栄えあるボッカイ魔法協会の副会長、アタシの次に偉い、ナンバー2の座に相応しいと?」
いつもの威圧的な態度で問いただしてきたが、圧迫感は無い。
もう慣れたかな?
「そんなつもりは全くないね。ここに住まわせてくれるだけで十分だし、それに職域争いは前世で十分味わったから勘弁だな」
「へぇ、職域争い……面白い言い方をするわね。知っている事を話しなさい」
げ、反応しちゃったぞ。思わず本音が出たのが運の尽きか。
「……これは俺の世界の経験に基づいて当てはめてるけど、魔法って能力を使える資格があるのが魔法使いだよね? そして魔法使いじゃないのに、魔法を使って商売したりする奴らがいて秩序無く活動している。それによって被害が出たり、魔法の評判が下がったりしてしまう事をカヤは嫌っている、と言うか魔法への愛があるからこそ、魔法を貶める奴らを憎んでいるって感」
「決定、アンタ、副会長でいいわ」
「早っ! まだ全部言い切ってないけど! そんな簡単に決めていいのかよ?」
「即断即決がアタシの美学だし。アンタ、アカネが目をつけるだけあって、まぁまぁ、分かっているわね」
「さっすが、カヤちゃん!」
はぁ、絶対メンドクサイ事に巻き込まれる肩書きだわ。
だけど、ここに住ませてもらえる以上、仕事をしなくちゃいけないわけだから、断るのは出来ないよな。
「それで副会長、アンタの名前は?」
「そういえば名乗ってなかったな。鍼灸師の杉山武光だ、魔法使いではないが、よろしく!」
「……言うじゃない。魔法使いモドキ鍼灸師さんにはたっくさん期待したいわね。取り敢えず、掃除洗濯買い物巻き割り風呂焚きその他もろもろ、副会長の仕事は沢山あるから、よろしくー」
そんなのは副会長の仕事じゃなくて、ただの奴隷じゃないか!
「やったー! お兄ちゃん、これでずっと一緒に暮らせるね」
朗らかな笑顔を向けながら俺の腕にアカネが抱き着いてきた。
まぁ、とは言え衣食住は確保できたし、良くしてくれそうな同居人もいるから何とかなるか。
「はぁはぁ」
んー、俺の腕を抱きしめながら発情したネコみたいにコスコスしているんだが。
やれやれ、これは裁縫針が手放せないな。