魔法料理はゥンまああ〜いっ
「カヤちゃん! ……流石に今回は……ゴッホ、ゴホ、やりすぎだよ」
小学校高学年ほどの少女が魔王に訴えかけている後ろで、俺はレンガの暖炉の前で毛布に包まりガタガタ震えていた。
身体が完全に氷漬けになる前に、後ろの小学生が助けてくれて事なきを得た。
彼女こそピリスが言っていたアカネ・ミソノ、そして凍える俺をこのボッカイ魔法協会という郊外にある古めかしい洋館へと連れてきてくれたのだ。
「……別に死人はいないんだから、あくまで指導よ指導」
一枚板の黒板、壁には何かの地図とマーキング、各所に積まれた本の山、まるで作戦会議室のような部屋の中央には、木で出来た円卓のテーブルがあり、その前で憮然とした表情でカヤと呼ばれた角を生やした魔王少女が座っている。
みなぎる殺意を向けておいてあの不貞腐れた態度、魔王協会だろここ。
それに氷漬けになる前にチラッと見えたランクS。
「こんなことしていたら……いつまでも会員が増えないよ……もう期限も無いのに、ゴホッ、ゴホ」
咳交じりのアカネの声に、流石の魔王も申し訳そうな顔で、
「暖炉の前にいるアンタ! アンタだっていけないんだからね!」
なるわけもなく俺に責任転嫁しだす。
寒くて言葉も出ないので、目から不満を放出する。
「うっ……そ、そんな目したからって、私は悪くない!」
と言って魔王は立ち上がり部屋から出ていくと直ぐに戻ってきて両手に何かを持ってこちらに近づいてきた。
「こ、これでも食べればいいじゃない! あ、朝の残り物なんだから!」
お盆に乗ったシチューのような物から暖かそうな湯気が立っていた。
……根は悪い娘ではないのかもしれない、現にこの建物に着いて暖炉に火をつけて毛布を用意してくれたのもカヤと呼ばれたこの美少女だ。
お盆を受け取り、熱々のシチューのようなものを木のスプーンですする。
「うまい!」
これはチーズが濃いのかな、でもこんな味のチーズ食べたことないし、このジャガイモみたいな蕪みたいな野菜も美味い。
「当然よ、私が作った魔法料理なんだから。光栄に思いなさい、ボッカイ魔法協会会長のカヤ・シドウの魔法料理で回復しない体力はないのだから」
こんな美少女が魔法協会会長? 確かにSランクだし、この魔法料理というのは普通の食べ物と違う感じがする。寒さも消えてきたけど、それ以上に身体の隅々に気が通るような。
「あ、あの……先ほどはウチのカヤちゃんが……ご迷惑をおかけして……」
ペコリと俺に頭を下げて「ごめんなさい」とアカネが言った。
顔を上げると水色のショートボブがフワリと揺れる、困ったような下がり眉の下、丸い瞳が自身無さげに泳いでいる。恰好はカヤと似たハリーオッター女子高制服の小学生バージョン。
幼さはあるがカヤに負けないほどの美少女として目立つ存在だろうが「……ゴホッと」と小さな唇から漏れる咳が気になった。肌も陶器のように白く、毛量もある、肺虚体質っぽいな。
「いやいや、ミソノちゃん? のお陰で助かったよ、むしろありがとう」
一礼すると、「……い、いいんです、あ」っと手を横に振りながらフラフラしだした。
「アカネ!」
倒れそうになったミソノちゃんを受け止める。
疲労感いっぱいの顔に汗が浮いている。
風邪か? ……熱はないが。
「ちょっと! アンタ、触ってんじゃないわよ!」
俺からアカネを奪い取るようにカヤが床に寝かせた。
「……大丈夫だよ……カヤちゃん……ちょっと力を使って……疲れちゃっただけだから」
「……アカネ、ごめん、アタシのせいだ。アタシの勘違いで力を使わせちゃって」
アカネは何かの病気なのだろうか?
「なぁ、薬とかは無いのか? かなり苦しそうに見えるが」
俺の言葉が気に障ったのか、カヤは振り返り涙目でこちらを睨んできた。
「薬も! 魔法も! エレメントだって! ……効きやしないわ」
「仕方ないよカヤちゃん……ごほっ、ごほ……ボクはケイラスに……還れる……んだから……円環の儀……魔法使いにとって……」
粒子になって消える感じでは無いが、この消耗感とカヤの反応から見て長くはないのかもしれない。
勘違いとは言え殺されかけ、助けてもらった相手だ。
それにこんな若い命が散ってしまうのは黙って見ていられる訳がない。
でも、俺に何が出来るだろうか……そういえばピリスの時にオブザーバーが光っていた?




