魔術機動船
――魔術機動船
名前からしてエアシップの和風版のような船を期待していたが、こちらは空ではなく海を渡る豪華客船だった。
魔術使いが魔術を動力として動かしているらしく、構造的にはエレメントギアのような働きに似ているそうだ。
シャギーリからフリーライト合衆国までは丸一日かかるらしく、船には30を超える店舗や娯楽施設などが完備されている。
収容人数も1500人と聞き、シャギーリの科学力に劣らない国力を感じさせた。
今回は、大統領直々の招待というのもあり、カヤには特別室、俺やアカネ、カイルさん、パシー、ンドルにもそれぞれ一等客室があてがわれていた。
行く日にもこれは仕事であり旅行では無いと、引率の教員のように厳命したつもりだが、パシーとンドルはカジノ、カヤとアカネはスパ、頼みのカイルさんも業務視察とバーに向かっていった。
……協調性ないのは分かっていましたがね。
「はぁ、ピリス達から暗黙の了解を得たとはいえ、何をすれば良いか分からんミッションがな」
デッキの欄干に寄りかかって蒼と青の境界線に目を細める。
雲一つない晴天、潮の香りと、船が海を切り拓く音、それらを感じていると、ここが異世界であることを忘れてしまう。
地球に対して郷愁が無いわけではないが、今はここが自分の居場所であると思っている。ただ、贅沢を言えば地球にいた時の様に、もう少し平和な世界であってくれたら良いのに。
「……まさか、スパイなんてな」
『海風が気持ちいいですね』
白い紙がペラペラと風に揺れているが文章は読めた。
「さ、サラ! いつの間に……というかいつから居たんだ?」
黒髪のポニーテールをなびかせたサラがニコリと笑った。
……やば、スパイって言葉聞かれたか?
いやでも、俺の言葉は確か読唇術で読めないはずだから、セーフか。
『ところで、すぱい、ってどういう意味ですか?』
読めるんかい!
「え、俺の言葉分かるの?」
『はい、接する内に何となくですが今は分かりますよ』
学習能力高すぎだろAIじゃないんだから。
「スパイっていうのは……胃の調子が悪くてさぁ、こう、酸っぱいモノが込み上げてくるというか、そんな感じで」
さすがにバレるかな、そもそも酸っぱいモノが込み上げてくるなんて怪しいだろうし。
『すいません、やはり何を話されているか分かりませんです!』
分からんのかい!
スゴイんだか抜けているんだか、こっちこそサラが読めないぜ。
実際、招待されていないサラがこの船に乗っているのも何かしらの意図があるのかもしれないし……。




