義肢装具
「俺の世界には義肢装具という言葉がある」
「義肢装具……それはどんなものなんだ?」
クラウスの眼の色がハッキリ変わったのを見てアル婆がため息を吐いた。
「障害のある人に対してそれを補える道具の事だ」
「補う道具? ……まさか」
「そうだよ。エレメントギアで脚や手が無い人に義足や義手を作ってみろよ。壊すだけがエレメントギアじゃないんだろ? 俺がこの世界で生きていられるのはコイツのお陰じゃないか」
この場を凌ぐためにアル婆の弱みであるクラウスをほだしているだけじゃない。
ケイラス病以外にも辛い思いをしている人たちはいて、鍼灸は全ての人を助けられるわけじゃない。
「……お前さんは分かっとらんな。エレメントギアはエレメントマスターの為のものじゃ。弱者に配布する余分なエレメントコアは無いのが現実じゃ」
アル婆は重い口を開いた。
現実にはそうだろう。そもそもこのオブザーバーも量産出来ればケイラス病の心配もいらなくなる、それが出来ない理由は資源の数だ。
だけど、それが分かっているからと言って、はいそうですか、で終わらない奴もいるんだ。
「ばあちゃんは……黙って! 作るのは俺や、俺がどないするか決める!」
「クラ坊……」
クラウスの態度にアル婆は驚いた表情を見せた。
俺は別に驚きやしないぜ。それが職人の心意気だからな。
「杉山武光! 俺の眼が黒い内に亡命をなど許すわけがないぞ、絶対に戻ってこい! エレメントの秩序あっての魔法協会でキサマの命だ。好き勝手は許さない!」
「あぁ、分かっているよ」
鍼の道具を仕舞い、作業机に置いていた補充用のエレメントコアのケースを持つ。
これ以上、長居は禁物だ。気が変わらない内に帰ってしまおう。
「杉山先生、そんなイソイソ帰らんでも」
うっ、しつこいなぁ。
「まだ何か?」
「ほっほほ、改めて未来のEEの為にも帰すわけにはいかんお人じゃ、が」
アル婆は椅子から立ち上がると、杖をつかずに背をピンと伸ばし、
「ほれ見てみい、腰が痛くないで。腕も言葉も大したもんや……お灸楽しみにしとるよ、杉山先生」
「ええ、大量のモコモコ草仕入れてきますよ」
「それは、アカンなぁ」
笑顔でその場を後にした。




